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俺とルールと彼女  作者: 幽々
異能の世界
71/173

最後の一人 【1】

――――――――それは、再会だった。


俺たちはそれから、修善(しゅうぜん)さんの元へと帰ることにした。 結果報告と、無事ということを知らせるために。 その道中、クレアは延々と俺のことを睨み、脇腹を小突いてくる。 小突くというよりは突き刺すと言った方が正しいか。 結構威力があって痛い。


「……変態。 変態、変態、変態」


「念仏のように唱えるなよ……ちゃんと気付いて顔逸らしたじゃねえか」


見えるものが見えてしまったような気がしなくもない。 いろいろと。


「そういう問題じゃないですっ! 女の子にとって体は何よりも大切なんです!!」


顔を真っ赤にし、クレアはさっきからずっとこの調子だ。 収まる気配はない。 なので、俺も適当に流しつつ聞いているのだが。


……俺を庇って腕をなくした奴が、それを言うか。 クレアはそんなつもりは全然ないのだろうけど、改めて申し訳なさで一杯になりそうだ。


「なーるーせーくーん」


その俺の態度を見ていた西園寺(さいおんじ)さんは、じっとりとした目で俺を見る。 西園寺さんのその目付きは結構つらいな……。


「……あー、はいはい悪かったって! 次はないようにしますごめんなさい! これで良いか!?」


「チッ……次やったら死刑ですからね」


怖い奴だな。 てか、そもそも人に見られるほど良い体してないだろこいつ。 絶壁女め、一生そのままになってしまえ。 というかもう高校一年だから、将来性皆無だ。 良かったねクレアさん。


「ふんっ!」


「うおっ! あっぶねえな! なんだよ!?」


クレアの蹴りが、俺の鼻先を掠める。 本当に、後一歩でも踏み出していたらクリーンヒットって感じだ。 当てようと思ったのか、わざとギリギリを狙ったのか、恐らくは後者だ……。 つまり、警告だと思う。


「なんだか失礼なことを考えている顔だったので。 西園寺もそう思いますよね?」


「うん、成瀬くんそんな顔してるよ?」


マジかよ。 てか、この二人が結託すると最悪だな……。 クレアの直感力と、西園寺さんの洞察眼って感じか。 なんとかどちらかを常に味方に付けたいな。 現実はどちらも敵という最悪のパターンだけど。


「あー、まぁ……とりあえず、ごめんなさい」


ため息を吐きながら謝って、俺は再度歩き出す。 とにかく今日は疲れた……どこでも良いから、もう横になりたい。 最後の戦いも終わったし、そろそろあの番傘男も出てきて良いと思うんだけど……未だに姿が見えないな。


なんて、思ったときだった。 それは唐突に、突然現れる。


「もしもーし、旅のお方たち。 こんにちは」


俺たちの目の前に、突如としてそいつは現れた。 それは弥々見(ややみ)さんのテレポート能力のように、前触れなく。 或いは番傘男のように、音もなく。


「あ……っと、初めまして?」


自分で言って、如何にも西園寺さんが言いそうな台詞だなって思う。 混乱と驚きが混じった顔と声で、一番最初に出てきたセリフがそれだったんだ。 状況が、把握できない。 まず、こいつは誰だ?


茶髪で、セミロング。 西園寺さんと似たような髪型で、その髪にはヘアピンを付けている。 顔は、どこかで見たような。


しかし、目の前に居る()()は対して気にする素振りは見せずに、言った。


「成瀬くんは酷いなぁ。 わたしのこと、忘れちゃった? 覚えてないの? 一緒に何日も同じ部屋で過ごしたのに」


少女はそんなことをいたずらっぽく笑い、言う。 クスクスと楽しそうに。 俺と……会ったことがある奴、なのか? え、でも待てよ。 今この場所は、言わば異世界ってやつで……そこに、俺の知り合いが居る? それは明らかに変だ。 それともこいつもまた、巻き込まれた? だとしても、今の今まで一切接触がなかったのは妙だ。


「元カノですか?」


言ったのは、クレア。 つうかお前は少し怖いもの知らずな性格を直せ。 普通、驚いてだんまりってする場面だろ。 事実、西園寺さんは目をパチパチとして固まってしまっているし。


「……お前さ、俺に彼女が居たと本気で思ってるの?」


「ないですね」


少しは否定して欲しかったよ俺。 でもまぁ、事実なのだから仕方ないっちゃ仕方ないけどさ。


「あはは、彼女じゃないよ。 成瀬くんには……うーん……。 あ! こう言えば分かるかな? わたし、米良(めら)明麻(あけま)って言います」


その出会いは、その再開は……十年越しのものだったんだ。




「いや、でも驚いたな……。 また会えるなんて思っていなかったし。 それに、こんな場所で」


西園寺さんとクレアには事情を話し、少しの間だけ席を外してもらうことにした。 米良も、知らない奴が二人も居たら話しづらいと配慮しての結果だ。 二人は何も言わずにそれを承諾して、今は二人から少し離れた場所で俺と米良は話を始めている。


「えへへ、そっかな? 成瀬くんは、コンちゃんとどういう関係なの?」


「コンちゃんって……あ、もしかしてあいつか? あの、番傘持った男」


「そうそう、コンちゃん」


どんな愛称だよ。 ツッコミどころが多すぎて、どこをどうツッコめば良いのか見当が付かないな。 聞きたいことが多すぎるのもあるし、頭がこんがらがりそうだ。 いや、もう既にこんがらがっているか。


「……関係って言われても難しいな。 けど、敢えて言うなら加害者と被害者……かな」


「むーん、ということは……コンちゃんが被害者なのかぁ」


「逆だよ逆! どうしてそうなった!?」


本当に長い間会っていなかったのに、不思議なものだ。 米良相手だとなぜだかとても話しやすく、気まずさとかそういうのが全くないんだ。 それほどまでに、俺と相性が良いタイプなのかもしれない。 俺が一番話しやすい性格とも言える。


「えへへ、じょーだんだって。 でもなるほどね、そういう関係なんだ、やっぱり」


クスクス笑い、米良は空を見上げて言う。 着ていたパーカーのフードをかぶり、影ができた顔から見えるのは……嬉しそうな表情だった。


「……米良はさ、なんか知ってるのか? そもそも、お前とあいつはどういう関係なんだよ?」


俺が聞くと、米良は壁に背中を預けたまま、その場に座る。 そして、空いた隣をぽんぽんと叩き、俺の顔を真っ直ぐ見つめてきた。 どうやら、隣に座れってことみたいだ。


「っと。 それで、さっきの質問だけど」


大人しく俺が腰をかけると、米良は満足そうに一度笑い、口を開く。


「わたしの場合は、成瀬くんのそれとはちょっと違うんだ。 あのね」


米良は手を伸ばし、その手を月と重ねる。 なんだろう? 米良の視線はその月に向けられているはずなのに、なぜだか俺は米良の視線を強く感じていた。 見られていないのに、見られているような、そんな矛盾だ。


「わたしは()()()()()()なの」


「ん……反転?」


「そ。 これだけは覚えておいて。 わたしは成瀬くんの味方で、西園寺夢花(ゆめか)の味方でもある。 今は、クレアちゃんの味方でもあるのかな。 だからこれだけは絶対に、忘れないで」


「どういう意味だ? 米良、お前は何を知っているんだ?」


だが、俺の問いに米良は答えない。 立ち上がり、俺の方に振り返り、なんとも言えない笑みを浮かべるだけ。


「そろそろ時間だよ。 コンちゃんに見つかったらすっごく面倒だから。 それと成瀬くん、この世界はまだ終わっていない。 あと一人、倒さないといけない人が居る。 それともう一つ……最後の敵の能力は『スキルドレイン』というものだよ。 殺した相手の能力を自分のものにできる能力だね」


「まだ、終わっていないだって? 待て、それって」


「ばいばい、成瀬くん。 また、会いに来るから。 絶対に」


米良は言い、コンテナの間に姿を消す。 俺は慌ててその後を追ったけど、米良の姿はもう、どこにもなかった。




「まだ終わっていない……どういうことだろう?」


「言葉通り、と考えるのが良いでしょうね。 要するに、まだ倒すべき能力者が居るということですよ」


あれから、俺は二人にそのことを話した。 全てを話したわけではないが、重要だと思える部分に限っては、伝えた。


クレアの言う通り、そう考えるのが一番良いと思える。 俺たちにはまだ倒すべき相手が居て、そいつを倒したそのときこそが、元の世界へ帰れるという考え方だ。


今回の課題では、目的は能力者五人を倒すこと。 俺たちが倒したのは、芳ケ崎(はがさき)毒雨(どくさめ)蒼龍(そうりゅう)、修善さんもまぁ、倒した内には入るだろう。


俺はてっきり、ディジさんたちが倒した一人の能力者というのも数に含まれているものだと思ったが……どうやら、それは違うらしい。 だとすると、俺たちが倒すべき最後の一人ってのは。


弥々見(ややみ)でしょうね」


「……なんだかんだで気が合うな、クレア。 俺も全く同じことを考えていたよ」


「え、え? どういうこと? 弥々見さんは、仲間……でしょ?」


そうだ、弥々見さんはあくまでも仲間だ。 しかし、その前提が既に間違っているとしたら。 ……今になって考えてみると不自然なことが多すぎる。


まず初めに、芳ケ崎とのこと。 テレポート能力を持つ弥々見さんならば、あそこまで苦戦することはなかったはずだ。 逃げようと思えばいつでも逃げられる状態だったのに、彼は逃げずに戦った。 そしてその結果、作戦は失敗した。 それは、仲間のため?


いいや、違う。 そもそもの話、偵察を行っていた二人が捕まったこと自体が妙なのだ。 アライブの人らは、その時点で芳ケ崎の能力が加速だと知っていたはず。 それならば当然、偵察を行う場合は最低限の安全策を練るはずだ。 この場合で言えば、エリアAに足を踏み入れないギリギリの場所から観察する……とかな。 だが、そうできなくなったのだ。


「テレポートで、強制的にエリアAのど真ん中へ移動させられた、ですかね」


「だな。 それが一番考えられる。 つまり、弥々見さんが二人を殺したようなもんだ」


「でも、それなら弥々見さんが芳ケ崎さんに怪我をさせられたのはどうして? 弥々見さんは、間違いなく戦っていたはずでしょ?」


「別に俺たちの敵だからって、あいつらの味方というわけでもない。 さっき言っただろ? 最後の一人の能力は『スキルドレイン』だ。 その能力を最大限高めるためには、能力者を殺さなければならない。 だから弥々見は芳ケ崎を殺した。 要するに、最初の時点ではまだ仲間だったんだろうな。 芳ケ崎と弥々見さんは」


そして、弥々見さんは裏切った。 裏切ったというよりかは、最初からその予定だったのだろう。 アライブという組織を使い、芳ケ崎を弱らせる。 弱った芳ケ崎にとどめを刺せば、弥々見さんの能力は発動されるんだ。 これは推察だけど、弥々見さんの目論見ではアライブのメンバーはあそこで皆殺しする予定だったんだろう。 しかし、イレギュラーが発生した。


「イレギュラー?」


「俺たちだよ。 俺たち三人は、全員が能力を持っている」


芳ケ崎が負けるとは考えていなかったんだろうな。 だから仕方なく、俺たちを生かすしかなかった。 それに能力を持っている俺たちを利用すれば、より強い能力が手に入る可能性だってある。 そうして能力を手に入れてから俺たちを殺しても、遅くはないと踏んだのだろう。


もっとも、芳ケ崎だってタダで殺されるわけがない。 最後に俺たちに弥々見の正体を言うことだってできたはずだ。 だが、それをしなかった。


「理由は、もしかして『未来視』かな? 五秒先の未来を見て、芳ケ崎さんを撃つタイミングを見ていた……とか?」


「だろうな。 芳ケ崎もそれは知るところだったんだろ。 だから言おうともしなかった。 結局、殺されたけどな」


「なるほど……確かに、それなら筋が通るかも。 でも成瀬くん、わたしは弥々見さんのことを信じてあげたいよ」


「俺もクレアも同じだよ。 けど、一番最初に気付いたのは西園寺さんじゃないのか? 弥々見が画策していることに」


「それは」


優しいな。 気付いたとしても、それを嘘だと思って信じようとする西園寺さんはやっぱり優しい。 どちらかというときっぱりと切り捨てる俺とクレアにはないものだ。 似ているようで、俺たちはそれぞれ違う。 どちらも間違っていないし、合っているのかも分からない。


「どっちが正しいかなんて分からない。 続けるぞ」


次に、毒雨のこと。 あいつがアジトを襲撃したときに、居たのは白羽(しろは)さんと守矢(もりや)……そして、弥々見さん。 クレアから聞いた話だと、クレアがアジトに着いたとき、てっきり弥々見さんはみんなのことを助けているんだと思った。 だけど、それがもし「助けている」のではなく「殺している」のだとしたら。


辻褄が合ってしまう。 毒雨や芳ケ崎が俺たちの能力を知っていたことだってそうだ。 あいつらがどうやって情報を得たのか、知れる方法は一つ。


俺たちの中の誰かが、あいつらと通じているということだ。


「で、でも成瀬くん。 それだと……ディジさんたちが」


「……だな。 修善さんもいるから大丈夫だとは思うけど、急ごう」


最後の一人は味方……か。 最早それしかないし、どの道筋を通ってもそこに行き着いてしまう。 西園寺さんを正しくいさせたいために考えた無数の道筋は全て、そこに行き着いてしまった。


ならば、覚悟を決めろ。 弥々見を倒し、元の世界へ帰るんだ。 これが、文字通り最後で、終わらせるための戦いだ。

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