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俺とルールと彼女  作者: 幽々
異能の世界
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エリアA奪還作戦 【2】

「意思を持つ……?」


物に、意思を持たせるだと? 普通に考えたらあり得ないことで、馬鹿らしいことでしかない。 だが、俺が今居るこの異世界ではそんな技術があるってのか?


「ええ、そうです。 少々特殊な方法で、ある物を武器に組み込んでいるんですよ。 加工をして武器に入れることによって、王場(おうば)さんのグラムや小鳥(ことり)さんのアッキヌフォートのような武器になります」


名前の由来は、神話から引用しているのか。 けれど、確かにあの二つは神話に出てくる武器がそのまま実現されたような、そんな能力を持つ武器だ。 しかし、それよりも気になること。


「ある物?」


俺と同じ部分に引っかかったのか、西園寺(さいおんじ)さんが尋ねると、守矢(もりや)は苦笑いをして、言った。


「あまり、気分の良い話ではないですが」


手を上げ、指を一本立て、自身の()を指し。


「人の、眼球です」


あっけらかんと、そう言った。


「……はは、狂ってるな。 生き残りのお前らが人の眼球を使っているなんて。 殺してるのか?」


まさに、人の体を材料に作った武器ってわけだ。 けど、だからこそあの力を持つ武器になるのかもしれない。 どういう仕組かは分からないが、人の怨念や想いや意思が作用しているのかな。 ファンタジーだな、これじゃ。


「まさか。 ()()()()に殺られた仲間たちの、死体からですよ。 そうして作られた武器は、使い手の意思と共鳴します。 僕たちはこれを一括りで……生眼の剣(イーター)と呼んでいます」


知らない技術、全く未知の武器、人智を超えた力。 それらがこの世界には確実に存在しているんだ。 不快な感情も、嫌悪感も、一切なかった。 それよりも俺はもっと、それを知りたい。


「それに、僕たちもそれくらい狂わないとやってられませんよ。 相手は、化け物ですから」


それでも、一緒だ。 狂っていることには変わりない。 だけど、それを俺は否定したりなんてしない。 能力者という化け物に対抗する手段として編み出した方法ならば、上等じゃないか。 追い詰められ、後がなく、そんな状況で考え抜いて、必死に編み出した技術。 それは非道なことでも最悪なことでもない。 弱者が強者に勝つ、知恵という武器なのだから。 その武器を隠すことなく、惜しむことなく使うんだ。 それこそが、弱い立場の者が王を殺す唯一の方法だ。


「面白い。 正直、クレアがあんま乗り気じゃなかったから、約束をすっぽかそうとも思ってたんだ」


「……」


ディジさんはそれを聞くと、俺にキツい視線を向ける。 視線だけで身に刺さるような痛さだ。 礼儀を重んじるディジさんにとっては、俺の発言は見過ごせないのだろう。


「でも」


言って、俺は顔を上げる。 もしかしたら、俺は笑っていたかもしれない。 そのときどんな顔をしていたのかなんて、覚えちゃいない。


「でも、気が変わった。 狂ってるけど、良いじゃないか。 俺はお前たちのこと好きになれそうだよ。 だからクレア、手を貸してくれ」


俺の言葉に、クレアは心底驚いたような顔をしていた。 さすがにクレアでも俺が言ったことの意味が分からなかったか? というよりは、知らない言葉で話しかけられたかのような反応だ。


「なんだよ、なんか変なこと言ったか? 俺」


「あ、いえいえ。 そうじゃなくてですね……成瀬(なるせ)が言いそうなことだとは思いましたですよ。 私が驚いたのはそのあとですよ、そのあと」


「そのあと?」


尋ねると、クレアはやれやれといった感じで手を振って、口を開く。


「いやいやいやいや、そりゃそうでしょう? いくら成瀬の意思が変わったとしても、私の意思は一ミリも変わってないんですよ。 なのにさぞ当然のように言うその神経に驚いたんです。 私がそれで分かったとでも言うと思ったんですか?」


一歩一歩、俺に詰めよってクレアは言う。 まくし立てるように、詰めより詰めより詰めより言う。 西園寺さんを思い出させるような距離の詰め方から考えるに、相当頭にでも来てるなこりゃ。 で、最後の台詞を言い終わる頃には、俺は壁に追いやられ、息がかかるほどの距離だった。 女子耐性がない俺からしたら死にそうな距離なんですけどね。


「どうなんですかっ!! 成瀬陽夢(ようむ)ッ! 私がイエスと言うと思ったんですか!?」


……このままでは、なんだか俺が負けたようで嫌だ。 少し、仕返ししてやろう。


「だって、クレアって半分くらいは俺のこと好きなんだろ? なら良いじゃん」


「……は、は、はは、アハハ。 死ねゴミ男がッ!!!!」


一応冗談で言ったんだけれど、クレアにはそれが通じなかったらしい。 俺は勢い良くハイキックを食らい、ひょっとすると芳ケ崎(はがさき)のそれよりも強烈な蹴りで、本日二度目の面白いほどに吹っ飛ぶというのを経験したのだった。




「……えーっと、それじゃあ作戦会議始めるか」


クレアは結局、西園寺さんに説得されて渋々参加。 ちなみに俺はというと、西園寺さんに「酷いことを言う成瀬くんは嫌いだよ」との死にたくなる言葉を頂いた。 ありがとうございます胸に刻んでおきます。


……で、今は今日集まったメンバーで作戦会議。 今ここに居るのは俺、西園寺さん、クレア、王場さん、ディジさん、白羽(しろは)さん。 それに先ほど帰ってきた二人……武蔵(むさし)さんと守矢を加えて、八人だ。


他のメンバーはこの時間まで戻って来なければ、今日は帰って来ないと思って良いらしい。 そして、組織のリーダーは現在就寝中とのこと。 思ったよりも自由な感じだな……。 もっとこう、組織的に動いているものだと思っていた。


「まず、エリアAの守人は芳ケ崎紅刃(くれは)。 通称赤腕、俺たちにとっちゃ、一番取っておきたい奴だ」


テーブルを八人で囲み、その上座に座る武蔵さんは言う。 リーダー不在のときはこうして、武蔵さんが場を取り仕切るとのことらしい。 確かに、風貌からしてそういうのには向いてそうだ。


「ですね。 あいつの所為で、私たちの仲間も大勢死んだ」


腕組みをして言うのは白羽さん。 何かを思い出すように言い、口元を歪める。


「……何かあったんですか? 過去に」


「ああ、昔の話だが……私たちが住んでいたのが、エリアAだったんだ。 丁度、能力者と非能力者の戦争が勃発していて、私たちの街は能力者の拠点となっていたんだよ。 あいつらは「協力すれば殺しはしない」と言っていた。 だがある日、赤腕は唐突に私たちを一人ずつ殺し始めたんだ。 そして生き残った私たちだけが、今こうしてここに居る。 私も一歩間違えれば死んでいたよ」


小さな声で聞いたのは西園寺さん。 それに答えたのが、ディジさん。 一歩間違えれば死んでいたというのは恐らく、ディジさんを救ってくれた人が居なかったら、ということか。


「能力者の襲撃、ねぇ。 まったく前触れなく?」


「いや、戦争中だったからいつかは起きると思っていたさ。 私にはな、一人だけ仲の良い能力者がいたんだ。 そいつだけは、私たち非能力者のことを馬鹿にしなかったっけか……」


「それが今のリーダーってことか?」


「……違う。 名前はなんだったかな……すまん、忘れてしまったよ」


リーダーではないのか。 てっきり、そういう繋がりで居るものだと思ったのだが……違ったか。 けど、非能力者を馬鹿にしない能力者か……。 その発言から察するに、この世界ではピラミッドの頂点に居るのは能力者ってことなんだろうな。


「良いか! あいつらは俺たちの居場所を奪った! 居場所をぶっ壊したんだ! だからこそ、絶対に奪い返す。 俺たちが力を付けたのはこの前の戦いで分かったはずだ。 それに今は、能力者がリーダーを入れたら四人も居る。 勝算はある! 俺たちは家族のようなもんだ、誰一人死なすことなく、勝つぞ」


「あー、ちょっと良いですか? えーっと、なんでしたっけ……」


席を立ち、手を上げたのはクレア。 こいつはまた妙なことを言い出さないか心配だ。 西園寺さんも同じなのか、不安げな表情で手をあげたクレアへと視線を向けている。


「武蔵だ、武蔵」


「ああ、そうでした。 それで武蔵さん、私から質問があります」


クレアの奴はどうやら、人の名前を覚えるのが苦手なタイプだな。 人狼ゲームのときからそれはなんとなく感じていたけれど……妙なあだ名を付けたりしてたし。 それとも、興味がない奴の名前を覚える気がないだけか。


「そのリーダーという人の能力もそうですけど、あの女の能力も分かっているのですか? 赤腕、でしたっけ」


「また喧嘩売るのかと思った」


「……」


ついついそう漏らすと、クレアに睨まれた。 怖い。


が、それは俺も気になるところだ。 味方の情報は当然ながら、敵の情報も知っておきたい。 芳ケ崎……赤腕とは一度会っているが、能力については分からないというのが正しいしな。 テレポートではないと本人は言っていたが……それも嘘かもしれない。 ここでディジさんたちが知っていれば、作戦も考えやすいだろう。


「多少は。 俺は一度戦ったことがあるんだ、あいつと。 そりゃもうつえー奴だったよ」


横から口を挟んだのは王場さん。 まぁ、この人なら戦っていそうだ。 クレアとも会った瞬間から戦う気満々だったしな。 で、実際戦っているし。


「ふふ、あなた程度の人が良く生きられましたね」


「んだとコラッ!?」


そして、王場さんと相性が悪いクレアだ。 喧嘩を売るクレアもクレアだが、一々全てを買っていく王場さんもどうかと思う。 それとも喧嘩するほど仲が良いっていうあれかな。


「やめろ馬鹿二人。 一緒に戦う者同士で争ってどうするんだ。 赤腕の能力は加速……だろうな、恐らくは」


二人を制し、武蔵さんは続ける。


「自身の速度を加速させる。 どれほどまで加速できるかは分からないが、目で追えないほどには加速するのが確認できている」


「加速、か」


なるほど。 つまり、俺が最初に出会ったときに背後を取られたのもその所為ってわけか。 そして自身を加速させるのなら、あいつの攻撃がかなりの威力だったというのも頷ける。 しっかし想像以上に厄介な能力だな……。


「そうです。 なので、作戦としては……赤腕の動きを止める、というのがポイントですね。 簡単に言ってしまえば、加速できない場を作れば良いんです」


白羽さんは言うと、ノートパソコンの画面を俺たちへと向ける。 そこに映し出されていたのは……地図か?


「エリアAの地図です。 基本的には住宅街なので入り組んでいますが、一箇所だけ作戦を実行するのに最適な場所があります」


白羽さんは言い、地図を拡大する。 そして、そこにある一点を指さした。


そこは……確か。


「行き止まりのトンネルがあります。 この場所まで赤腕を誘導し、挟み撃ち。 トンネル内はそこまで広くないので、ここならば赤腕も能力をうまく発揮できないはずです。 いくら加速をしたとしても、前方と後方にしか進めないならば、対処のしようはいくらでもあるかと」


工事が途中で中止となったトンネルだ。 興味本位で見に行ったことはあるけど、そこまで幅もなかったと思う。


「確かに。 そこでやるなら、武蔵さんと王場さんの武器は持って来いって感じですね。 範囲は狭いけど強力な、二人の生眼の剣なら問題はなさそうです」


ふむ、ということは人によって武器の能力は違うってことか。 どちらかと言えば、ディジさんの武器の方が狭い場所での使い勝手は良さそうに思えるけども……俺は知らないからな、ディジさんの武器の力を。


「なら、その誘導する役は僕がやろう。 僕の能力なら、安全に誘導できるよ」


声がした。 そして、それまでは確実にそこには居なかった人物が、そこには居た。 まるで最初から居たかのように、立っていたのだ。


「リーダー、起きていたんですか」


ディジさんが言うと、リーダーと呼ばれた黒髪の優男は微笑んで「うん、まぁね」と返事をした。 どうやら、こいつがこのアライブという組織のリーダーらしい。 想像以上に若い男だ。 それと、同時に何故か嫌悪感のようなものを感じる。 ……爽やかイケメンだからじゃないからな。


「気配を消す能力ですか?」


クレアは眉間に皺を寄せ、言う。 しかし男は頭を振って答えた。


「いや、気配を消すのは驚かすためだよ。 でも気を悪くしたなら謝るよ。 僕の能力はテレポート、同じエリア内限定だけど、逆に言えば同エリア内ならどこへでも飛べるし、僕に触れている人も一緒に飛ぶことができる。 そんな能力だよ」


テレポート、か。 確かに強力な能力だ。 攻撃にも防御にも偵察にも使える利便性の高い力。 奇襲、脱出、様々な作戦にも転用できそうだな。


恐らく、能力者の一人を倒したのもこいつの力を使ったのだ。 こいつの力でテレポートし、そして王場さんたちが持つ生眼の剣を使って倒した。 王場さんと白羽さんのはともかく、ディジさんと武蔵さんの生眼の剣がどれほどの力を秘めているかは分からないが……それでも、能力者一人を倒したという実績は大きい。


「おっと、自己紹介が遅れたね。 僕は弥々見(ややみ)政宗(まさむね)、仲良い人はマサって呼んでくれるかな」


「そうか。 俺は成瀬陽夢(ようむ)、このちっさい金髪がクレア、それでこっちが西園寺さん。 よろしく」


「ちっさい金髪ってなんですか。 八重歯の可愛い金髪にしてください」


金髪の部分はそれで良いのかよ、良く分からない奴だなこいつも。 八重歯の部分は……俺も一度思ったことがあるから、黙っておこう。 褒めたら調子に乗りそうで鬱陶しい。


〈……ねむい〉


と、西園寺さんの声が頭に響く。 いきなり聞こえてくるから、結構ビビるんだよな。 それに聞こえてきた内容は、随分間抜けなものだ。


「あはは、こっちのお嬢さんは眠そうだね。 蒼龍(そうりゅう)に襲われたって聞いたから、心配していたけど……無事みたいで何よりだよ」


その声を聞くことなく気付いたのか、弥々見さんは西園寺さんを見て言う。


「……へ。 あ、ご、ごめんなさいっ。 ちょっと、疲れちゃってて」


「良いよ良いよ、奥の部屋にベッドがあるから、今日のところは寝ると良い。 休養が一番、大事だから」


弥々見さんは言うと、部屋の奥を指さす。 そこにはドアがあり、休憩所というネームプレートがぶら下がっていた。


「成瀬とクレアはどうする? 二人とも疲れているみたいだけど」


……いきなり呼び捨てか。 まぁ良いけどよ。


「いや、俺はまだ起きてるよ。 作戦も詰めていきたいから」


戦いには不向きな能力だからこそ、別のことで力にならなければ。 今回で言えば、クレアと西園寺さんをサポートする立場というわけだ。


「それなら私も付き合います。 西園寺みたいに頭が良くはないので、しっかり聞いておかなければ足を引っ張ってしまいそうですから」


「了解。 それじゃお嬢さんは休みな。 僕たちは作戦を煮詰めていこう」


「ごめんね、二人とも。 明日は頑張るから……」


典型的なダメ人間が言いそうな台詞だな。 それが西園寺さんの場合は有言実行となるから良いんだけれど。 ちなみに俺が言うと非難轟々だと思う。 そのセリフも言う人によって受けるイメージが変わるという教訓だ。


……クレアの場合も一緒だな。 つまり俺とクレアはダメ人間だ。 ま、何はともあれ。


ここからようやく、戦いは始まるんだ。 文字通り、殺し合いが。

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