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俺とルールと彼女  作者: 幽々
異能の世界
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エリアA奪還作戦 【1】

成瀬(なるせ)くんっ!!」


視界が開けるとすぐに、そんな声がした。 俺が良く知るその声は、同じ異常に巻き込まれてきた仲間。 そして、俺が一番会いたかった人物の声だった。


「……西園寺(さいおんじ)さん」


彼女はいつも通りで、いつものように俺を見ていた。 その顔こそ驚いていたけれど、俺が知る西園寺夢花(ゆめか)だ。 傷はなく、多少疲れてはいそうだったけど、西園寺さんだ。


「良かったよ、無事で」


「……えへへ」


俺の手を握って、西園寺さんは微笑む。 それはとても安心できる顔で、この癖になってしまう笑顔は少々卑怯だと思ったりもする。


「お取り込み中すいませんです。 私も一応居るのですが」


「あ、クレアちゃん! えへへ、みんな無事だったんだね……って、クレアちゃん……? それって」


西園寺さんが視線を向けるのは、クレアの左腕。 肘より少し上から、消えてしまった腕の部分だ。


「あー、えっと、ちょっとしくじっちゃいまして。 ですが、問題ありませんよ。 むしろ丁度良いハンデです」


問題がないわけなんてないのに、クレアは照れ隠しをするように笑う。 俺はそんなクレアをまともに見ることができず、西園寺さんの方へと視線を向ける。


「でも、でもクレアちゃん、それは……元の世界に戻れば、治るの?」


「ええ、もっちろんです! だから、大丈夫ですよ」


クレアの言葉に、西園寺さんは顔を伏せて目を細めた。 こういうとき、西園寺さんの人の気持ちを見抜く力というのは厄介なんだ。 いくら相手がそう言っても、見えてしまう。 気付いてしまう。 それがどれだけつらいのかは、俺には分からない。 西園寺さんがクレアを見て何を思ったのか、それすらも分からない。 西園寺さんは言葉を紡ぐことができずに、ただただクレアの顔を見ているだけで。 何かを言おうと口を開こうとして、言い淀む。 けれど、その相手の顔を見るということが、俺にはできなかったんだ。


「いひひ、これでも成瀬の十倍は強いんで大丈夫ですよ! 私の能力は、身体強化なので」


「……うん」


俺は何を言えば良いのだろう。 心配するな……違う。 大丈夫だ……違う。 そもそも、俺が何かを言うべきなのか? クレアが片腕を失ったのは俺の所為で、なのに俺が何かを言うべきなのだろうか?


そんな風に、考えていた。 俺に一体何ができるんだと。 笑うクレアの姿はとても、眩しかった。 俺もいつか、クレアと西園寺さんをしっかりと見つめることができるのかな。


「再会の挨拶は済んだか? これで、私たちは約束を果たしたと考えて良いのかな」


「ん、ああ。 そうだな」


助け舟を出すようなタイミングで、ディジさんが割って入る。 気を利かせてくれた……というのは、考えすぎか。 しかし、どの道助かった。 このままでは、俺はどんな顔をすれば良いのか分からなかったから。


「約束? 成瀬くん、約束って?」


「……西園寺さんにも関係があるだろうし、説明するか」


それから、俺はこの世界に来てからのことを話した。 言わずもがな、この状態はあの番傘男が起こした異常で、この世界には『異能力』が存在すること。 エリアが区切られており、そこに居る能力者を倒すことが目的ということ。 そして、クレアの力と俺の力。


「やっぱり、なんだね。 わたしも、いきなり暗くなったと思ったら怖い人が来て……」


「そいつが多分、エリアEの能力者だな。 えーっと……」


蒼龍(そうりゅう)。 エリアEの守人で、能力は『消失』。 手をかざした方向にある物を問答無用で消し去る能力です」


俺と西園寺さんの会話に割って入ったのは、眼鏡をかけた女だ。 首までの短い茶髪で、背中には……弓、か? しかし、どうにもいびつな形をした弓だ。 本体は曲線というよりは角張っていて、弦は存在していない。 ひょっとしたら、弓ではないのだろうか?


「失礼。 私の名前は白羽(しろは)小鳥(ことり)。 戦闘面では主にサポートをさせて頂いております。 矢文では素っ気ない文章で申し訳ありません」


「矢文……。 ああ、あのときのか?」


俺とクレアが廃墟に隠れて、そこで話をしていたときに()()()()()()()()矢文だ。 俺は気付けなくても不自然ではないが、クレアの場合は違う。 クレアでも気付けなかったあれは、その背中にある弓が関係しているのだろうか?


「そうです。 私の弓で射たせてもらいました。 私のこれは、発射から対象物までの物理法則を無視する弓です」


俺の視線に気付いたのか、白羽と言う女は小さく笑って答える。 物理法則を無視する弓……ってのはどういうことだ。


「障害物をすり抜けられる……ってことですか?」


横から西園寺さんが口を開く。 障害物をすり抜ける、か。 なるほど。


「ご名答です。 弓と着弾点を線と線で結ぶのではなく、点と点で結ぶという考えですね」


つまり、目標地点さえ見えればそこに放つことができるってことか。 いろいろ応用が効きそうな武器だな。


「私も非能力者ですが、皆さんの力になれるよう頑張ります」


落ち着いた口調で、白羽さんは言う。 ディジさんとは違った雰囲気で落ち着いている人だな。 ディジさんのを冷たい落ち着きと表現するなら、白羽さんのは暖かい落ち着きって感じだ。 西園寺さんならもっと違う表現をするだろうけど、俺の場合ではこんな風に思うのが関の山。


「紹介するよ。 こいつは主にデータ収集をしてくれている。 能力者の情報、整理、後は戦術だな」


「なるほど、つまり指揮官ってわけか。 よろしく」


「そんな大層なものではないですよ。 まぁ、宜しくお願いします」


俺と白羽さんは握手を交わし、次に西園寺さんとクレアとも握手を交わす。 礼儀正しく、この組織でのブレイン的存在……ってところかな。


「それより、今居るのは小鳥だけか? 他の奴らは?」


「殆ど外出中ですね。 (かしわ)さんと玲奈(れいな)さんは偵察に。 武蔵(むさし)さんと守矢(もりや)君は物資補給に。 といった感じです」


今、ディジさんと白羽さんが話していた人物たちがこのアライブのメンバーか。 以外にも少ない人数だが……能力者の一人を倒していることから、実力は折り紙付きだろう。


「リーダーと子供たちは?」


「別の部屋でお休み中です。 もう、結構遅い時間ですしね」


ディジさんはそれを聞くと「そうか」と、少し嬉しそうに言った。 仲間を大切にしているような、そんな感じを受ける声色で。 俺はやっぱり、この人が嫌いになれそうにないな。 一番最初に見たときから、そんなことを思っていたんだ。


「折角来たのに顔合わせもなしとは、どう思いますか? 成瀬」


「俺に振るんじゃねぇ」


別に一人で思っているのは良いけど、俺に振らないで欲しい。 そろそろ俺も怒るぞ。 クレアが納得できないのは仕方ないとしても、協力関係を崩すような真似はしてほしくない。


「仕方ないよ、わたしたちだっていきなり来たようなものだし。 それでもこうして案内してくれるだけでも、充分だと思わなくちゃ。 ね、クレアちゃん」


「……むう」


さすがのクレアも、西園寺さんに言われて押し黙る。 俺たちの中じゃ、西園寺さんがダントツで常識人だな。 それか俺とクレアが非常識人すぎるのか。


「ふふ、仲が良いんだな。 いざ戦いになったら、君たちは君たちで動いた方が良さそうだ」


そんな俺たちを見て、口を抑えて笑いながら、ディジさんは言う。 仲が良いと言われたのは……初めてか。 そういや、俺たち三人で集まるのって大体が部室だし、こうして外で長時間一緒ってのは案外ないんだよな。 たまに出かけることはあるけど。


しっかし、だからといって俺たちだけで動くのは良い策と言えるかどうかだな。 戦い方もなにも、分かるわけがないし。 何より問題は俺の能力が使い物にならないってことだ。


「どうだろう。 俺なんて、戦闘向きじゃないし……あ、そういやさ、西園寺さんはどんな能力を?」


そうだ。 俺の能力は正直言って戦力外……もっとも、能力のオンオフがうまく出来れば別だけど。 それよりも西園寺さんの能力は一体なんだろうか? 場合によっては、戦略にかなり広がりができるぞ。


「わたし? わたしのは、これみたい」


西園寺さんは言いながら、俺に紙を差し出す。 どうやら、それぞれの場合で手元に届いた内容は違うってことか。 クレアの場合は地図で、俺の場合は敵の情報。 そして西園寺さんの場合は異能力ってわけだ。


欲を言うなら敵の情報が良かったけれど……あの番傘男もそこまで甘くはないだろう。 そう思い、俺は西園寺さんから手渡された紙を見る。


『あなたの能力は「重力制御」です。 指定した一点を中心に半径一メートルの重力を操作できます。 操作範囲は最小で無重力。 最大で五倍となります』


……重力制御か。 加重だけならまだしも、軽減もできるとは。 こりゃ、予想以上に使えそうな能力だな。


「えへへ、これのおかげで、あの怖い人から逃げられたんだよ」


「そうなのか?」


聞けばどうやら、家の中に隠れた西園寺さんは家の中心の重力を五倍にしたらしい。 そして、家具の重みに耐えられなくなった床には穴が空き、そこから地下へ行き身を隠してやり過ごしたとのこと。 その隠れた地下が、このアライブの拠点ともなっていたわけだ。


「びっくりしたよぉ……わたしのお家が、綺麗になくなっちゃったんだもん」


そりゃびっくりだ。 まるで更地になってたそこを見た俺とクレアはその何倍もビビったけどな。 あの男……蒼龍(そうりゅう)も、さぞ殺したかのように言いやがるし。 とにかく、西園寺さんが無事で良かった……と思うだけである。 本当に、何事もなくて。


「ちょっと待ってください。 ということは、西園寺の能力を使えば……宇宙体験ができるってことですか!?」


「へ? あ、まぁ……そうなるのかな? えへへ」


「ぜひやりたいですっ! 宇宙体験したいですっ!!」


なんだか、目的というかするべきことがズレてないか。 我が道を行くタイプのクレアらしいと言えばクレアらしいけどさ。 今はそれより、やるべきことだってあるだろうに。 いやでも俺も宇宙体験はしてみたいかも。


「全部終わってから頼め。 で、俺はそんなことより気になることがある」


「そんなことって……酷いです」


全部終わってからな、全部終わってから。 そのときは俺も一緒に体験したい。


そんなことを思ったあと、悲しむクレアを横目に俺は続ける。 ディジさんと王場(おうば)さんと白羽さんへ向けて。


「あんたらのその武器、何か特殊な仕組みがあるんだろ? 要するにそれが、対能力者の秘密兵器だと思うんだけど」


通常の武器とは異なった形状、そして王場さんの武器は……変形したのだ。 まるで意思を持ったかのように、それこそ、その武器自体が能力であるかのように。


「私の武器は先ほど説明した通りの能力ですね。 他の方のは……」


白羽さんは返答に困り、ディジさんへと顔を向ける。 しかし振られたディジさんも返答に困り、残された王場さんですら、唸りをあげて押し黙ってしまった。


おいおい、これじゃあ埒が開かないぞ。 なんてことを思ったとき。


「おう戻ったぞ……って敵か!?」


「いやいや落ち着いてください武蔵さん。 ディジさんが言っていた協力してくれそうな人達ですよ」


見ると、立っていたのは巨大なハンマーを持った男と、小柄な少年。 武蔵と呼ばれたハンマー男の方はかなり年上って感じか。 そして、先ほどのディジさんと白羽さんの会話から考えるに、少年の方は守矢という奴か?


「お疲れ。 今丁度、守矢の武器について話していたところなんだ」


「僕の? あー、それで皆さん気まずそうだったってわけですか。 別に協力者の人になら話しても良いんですけど……皆さん律儀ですね」


ディジさんが声をかけると、守矢という少年はにっこり笑って近くにあった椅子へと腰をかける。 話し振りからして、ディジさんたちが持っている武器は、この少年が製造したってわけになるのかな。 見たところ、守矢という奴は武器を持っていないみたいだし。


「そうだったか。 だが、折角だ。 守矢、お前から説明してやってくれ。 これから一緒に戦う者同士、交流もしておきたい」


「良いですよ。 というわけで、改めまして。 僕は進藤(しんどう)守矢(もりや)です。 僕のことは守矢って呼んでくれて構いません。 アライブでは主に、技術面でお世話になってます。 エンジニア、と言えば格好良いですね」


丁寧に俺の前まで移動して、守矢は頭を下げて右手を差し出す。 見た目の年齢に反して、かなりしっかりした性格だな。 恐らくは俺たちよりも年下で、礼儀正しい性格なのはクレアに見習って欲しい。 俺もあまり人のことを言えはしないけど。


「ああ、よろしく。 俺は成瀬陽夢(ようむ)、一応は能力者だ」


「おお、やっぱりそうなんですね。 というわけは、そのお二人も?」


守矢は言うと、俺の横に立っていた西園寺さんとクレアに顔を向ける。 その顔は興味津々だ。 余程、能力者という存在が珍しいのだろう。


「ええ、まぁ。 私はクレア・ローランドです」


「ローランド? へぇ、ディジさんの妹ですか?」


「はは、違うよ。 たまたま私と同じ名前ってだけだ」


そのやり取りを聞いて、クレアは不満そうな顔付きをする。 人狼ゲームのときは常にポーカーフェイスだったクレアだけど、あれが終わって一緒に過ごすようになってから、割りと表情が豊かな奴だって分かったんだよな。 きっと、こっちのクレアが本来の姿なんだと思う。


「なるほどぉ、そういうこともあるんですね。 で、そちらは?」


「あ、わたしは西園寺夢花です。 成瀬くんとクレアちゃんと一緒で、能力者……みたいです」


「綺麗な人ですね。 よろしくお願いします」


にっこりと微笑んで、守矢は西園寺さんと握手。 で、それを聞いた西園寺さんは頬を少し赤くする。


……なんか、一気に良い奴からクソ野郎にランクが下がったな。 だが、俺も大人だ。 気にしない気にしない。 嫉妬してどうするんだよ、俺は至って大人の対応だ。


「おいチビ。 それで、その武器って結局どういう仕組なんだよ?」


「チビって……。 あ、えーっとですね。 僕が作るのは、()()()()()です。 意思を持ち、使い手の意思の強さで強化される。 そんな武器なんですよ」

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