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俺とルールと彼女  作者: 幽々
人狼の世界
31/173

一日目 村人会議

「君達で全員だ。 どうやら、予定通り会議を始められそうだね」


微笑むように笑い、桐生院(きりゅういん)は言う。 頭が良さそうな外見に、どうやらそれも伴っていると思われるこの男だ。 果たしてこいつは()()()()の人間なんだろうか。 村人側、人狼側、あるいは……妖狐側。


「悪いな、海が綺麗でついつい話し込んでいたよ」


表情を変えずに、俺はそう返す。 そんな言葉に桐生院は「そうかい」とだけ返して、他に揃っていた全員を見渡した。


「さて、それじゃあ会議を始めよう。 今からするのは人狼を探す会議だ。 そしてどうやらこの洋館には妖狐も潜んでいるらしい。 数は分からないが、恐らくは一匹。 そう何匹もいてもバランスが悪いしね」


……妖狐の情報は入っている、ということか? それとも、他の役職の情報も? だとしたら待て、話が違うぞ。 その場合は非常にマズいことになるが。


「確か、村人陣営には占い師が二人に霊能力者は一人、狩人が一人。 そして人狼陣営には、狂人が三人の人狼は三人……だったか。 しかし与えられた情報はそれだけだ。 その他の役職は不明な分、相当俺たちに不利なゲームかと思われる。 もしもカミングアウトがある者が居たら出てきて欲しい」


そのひと言を聞き、ほっと胸を撫で下ろす。 良かった、その最悪のパターンは回避できたようだ。 だとするならば、予定通りに動くしかあるまい。 俺と西園寺さん以外に知られている情報は、恐らく「これらの役職は確定で存在する」というものだろう。 言われた役職は同じだが、そこにある違いは「他にも役職があるのか?」という疑問。 俺らの場合はそれがなく、他の奴らの場合はそれがある。 その違いだ。


「おい待てよ桐生院、なんでお前が取り仕切る? お前のその態度、明らかに怪しいぞ。 それにさり気ない村人アピールは止めろ。 何が「俺たちに不利なゲーム」だ? お前、すげえ臭うぞ」


口を開いたのは、屋代(やだい)(はじめ)。 強面の長髪で、若い男。 そのすぐ横でにっこりと笑っている八代(やしろ)木葉(このは)とペアでこの島に来たと思える人物。


「なんでって、他に取り仕切ろうとした人が居なかったからだよ。 それに村人だから村人だって言ってるだけなのになぁ。 それともなんだい、君が取り仕切ってくれるのか? それならば俺は身を引くよ。 後、君の方こそ村人アピールじゃないか」


「……なんだか、嫌な雰囲気だね。 成瀬(なるせ)くん」


桐生院と屋代さんのやり取りを見ていた西園寺(さいおんじ)さんは、俺の耳元でそんなことを言う。 いやいや、こんなのはまだ全然だろ。 これからもっと、疑い疑われのゲームが始まるのだから。


「はっ! それじゃあカミングアウトだ。 俺は占い師、初日に占ったのは八代木葉。 結果は……白だ」


そう言って、屋代さんは一瞬だけ安堵したような表情になる。 そんな些細な変化。 相棒だと思われる木葉ちゃんが白だったことに安心……したのか?


……なるほど。 言葉だけではなく、そういう表情や仕草などからも推測は可能なのか。 しかしだとしたら、尚のこと俺には不利な展開になりそうだ。 そういうのは、苦手だから。


「屋代さんは占い師か。 だったら俺との対抗になるのか? カミングアウト、()()()()()だ。 初日の占い先は西園寺(さいおんじ)さんで、結果は白。 理由は……ま、一緒に旅をしてきた仲だから」


言うのは俺。 占い師騙りというやつだ。 そして俺の言葉を聞いて発言する者が一人。


「ちょ、待って待って。 あたしも占い師なんだけど? んん、えーっと初日の占い先は夢島(ゆめしま)夢子(ゆめこ)。 結果は……黒。 人狼よ、そいつ」


発言者は鈴見(すずみ)羽実(はねみ)。 占いカミングアウトが三か。 そして白が二つに、黒が一。 なるほど、悪い出だしではなさそうに思えるな。 占い師の内訳が二人で初日犠牲はなし、つまり……俺以外のこの二人が本物。 まぁそれも、このまま何事もなく進めばだけれど。


しかし、俺がそんなことを思った直後。


「ハ!? おい待てやクソガキ。 よりにもよって俺に黒? 頭にウジでも湧いてんのかお前。 占い師カミングアウト、初日の占い先は有栖川(ありすがわ)弥生(やよい)。 結果は白だ」


やはりこうなるか。 単純計算で俺から見て、占い師の中に一人は人外が含まれているということだ。 屋代元と鈴見羽実、そして夢島夢子。 占い師が二人しかいないこの村ならば、確実にこの中に人外が含まれている。


「そう来たか。 しかし困ったね、占い師が二人しか設定されていないのに、四人と来たか。 人狼が三匹で狂人が三人だろ? 確率的に言えばその中に人狼が含まれている可能性も高いね。 ってわけで、俺は占い師を全員処刑する案を提唱しようか」


「がはは! おいおいそれはありえないぞ。 逆に考えればこの中に、他に占い師を名乗り出る奴が居ない以上、確実に占い師が二人居るということだ。 それを全員処刑するなど、絶対にありえない愚策だ」


同感だな。 矢郷(やごう)さんの意見には恐らく、全員が納得だろう。 そしてそれは同時に、桐生院の怪しさが露呈することになる。 明らかな処刑先の誘導は、失敗したときのリスクが伴うのだ。


「桐生院さん、あんたは馬鹿か? 占い師は村にとって貴重な戦力だ。 そして他にカミングアウトがない以上、矢郷さんが言ったように俺たち四人の中に二人は本物の占い師が居るってことになる。 この状況で役職を伏せるような奴は信用しなくて良い。 そうだろ?」


「良かったよ」


俺が思わず言うと、桐生院はすぐにそう笑顔で返した。 なんだ……この妙な感じは。


「君達がそこまで馬鹿じゃなくて、良かったよ。 そうだ、俺が今提唱した案は愚策中の愚策。 よって、それに賛同する者が居ないかを試していたんだけど……居ないようだね。 予想以上に手強い人たちの集まりみたいだ」


そういうことか。 つまりは簡単なトラップ、というわけだな。 やっぱり苦手だ、動く問題ってのは。


「あ、それならこんなのはどうですか? 占い師たちに今夜、お互いを占わせるんです。 例えば……屋代さんと成瀬(なるせ)くん、鈴見さんと夢島さん、みたいな感じで」


さすが、一瞬でそこまで思考が回るというのは素晴らしい。 仲間で頼もしい限りだよ、西園寺さん。


「それに、狼さんは今夜……その人たちは噛まないと思うんです。 もしもわたしが狼さんだったら、絶対にしないと思うので」


「あ? どうしてだよ? 占い師が四人も出ているんだろ? んならとっとと殺すに越したことはねえだろうが? あん!?」


弥生(やよい)ちゃん、抑えて抑えて……怖がってるから、ね?」


そんな西園寺さんに突っかかっていったのは有栖川(ありすがわ)弥生。 そしてそんな弟を止めるのは姉である有栖川弥音(やの)。 姉の方はともかくとして、どうにもこういうタイプの人間は好きにはなれない。


「……ひっ」


そして、俺の背中へと西園寺さんは隠れる。 依然としてあまり近い距離に男が来ると、こうやって怯えてしまうのだ。 ここはとりあえず、俺が説明するべき場面か。


「有栖川弟、あんたがそう思うのも、もっともだ。 けど、西園寺さんが言いたいのは()()()()の話なんだよ。 もしも自分が人狼だったとして、俺たち四人を殺すか?」


「あ? そんなの決まってんだろ、厄介な占い師を排除できる絶好の機会じゃねえか。 四人の内、二人は確実に本物の占い師だ。 それに」


そこまで言ったところで、ハッとした顔付きになる。 ようやく気付いたらしい。 その有栖川弟が言っている選択は、自らの首を締めるということに。


「そうだ。 人狼が殺すのは本物の占い師か、狂人しかありえない。 例えば俺たち四人の中身が狂、狼、占、占、だったとしよう。 その場合、狂人を噛めば人狼にとっては戦力の損失となる。 そして本物の占い師を噛んだ場合でも、次の日にはどうせ占い師の総処刑だ。 四人の中に狂人が二人居るってパターンもあるが、その場合でも人狼はまず噛まないだろうな」


「……どうしてだよ?」


有栖川弟はさっきまでの勢いはどこへ行ったのか、俺に教えを請うようにそう言う。 駄目だ、こいつは話にならない。 もしも村人側の役職持ちだったとしたら、逆に相当厄介な存在だ。


「俺が説明しよう」


そう口を開いたのは、桐生院。 どうやらこの人には理解できている話ってことだな。


「成瀬君が言ったように、狂人二人の場合。 その場合、人狼視点だと、占い師四人の内訳は……本物、本物、狂人、狂人。 または狂人の片方が妖狐となるんだ」


「そして、このタイミングで妖狐が前面に出てくる可能性は薄い。 なんと言っても彼は単独勢力だからね。 まず、潜伏しか選択肢はないさ」


つまり、他の奴ら視点だと狂人が二人、または狂人と人狼が一人ずつ。 残るもう一つは人狼が二人だが……これは確実にないか。 三人の内の二人を割いてくるなど、このままだと確実に処刑される占い師を騙る意味がない。 よって、内訳は占い師、占い師、人狼、狂人が最有力。


ま、真実は少し違うけどな。


「えと、お話中すいません。 簡単に話をまとめちゃいますと、今日はグレーの部分を処刑しようってことですね?」


ウサギのぬいぐるみを抱きしめながら口を開くのは、クレア。 場違いな西洋の顔立ちはまるで人形のようだ。 西園寺さんも中々に日本人離れした顔立ちだとは思っていたが、本物はやっぱり違うな……。


「……成瀬くん成瀬くん、グレーの部分っていうのは?」


「ん、ああ。 グレーってのは」


俺の方に体を寄せ、耳元でひそひそ話しながら聞いてくる西園寺さんから少しだけ距離を取りながら、俺は説明をする。 というかマジで近いんだって。 西園寺さんには早急にその癖を治して欲しい。


グレーとは要するに、占い師によって白または黒の判定がされていない部分のこと。 今回で言えば、占い師カミングアウトをした者と、その占い師によって占われた者は除くことになるから……。


俺、屋代さん、鈴見、夢島、木葉ちゃん、西園寺さん、有栖川弟。 この八人を除いた奴らだ。 つまりは七人。 そしてこういうパターンになると、決まって発言しない奴や怪しそうな奴に票が集まる。


「なるほどぉ。 とりあえずは占い師さんの言うことを一度信じるんだね」


「ああ、そんな感じかな。 って言っても、多分明日には誰が本物かは分かるよ」


「え、そうなんだ?」


恐らく、だけどな。 今占い師として名乗り出ている内の一人に、明らかに怪しい奴は居るわけだし。


「そうだね。 今日は占い師連中から占われていない、グレーの部分を処刑が鉄板だ。 そして占い師たちは今夜誰を占うか決めておいてくれ。 勿論、西園寺君が言ったように占い師同士でね」


指を鳴らし、桐生院は言い放つ。 その言葉を受けて、俺たち占い師連中は話を始める。


「さて。 んじゃ、俺は夢島さんを占うかな。 一度黒を出されている部分だし、何より後から出てきたのは随分と胡散臭い。 黒判定を出されてからの行動は遅すぎるからな」


恐らく、こいつは人外だ。 人狼か狂人か妖狐か、その内のどれかかと思う。 そうすると俺視点、屋代さんと鈴見さんが本物の占い師。 占い師二名が確定する。 いきなり黒判定を出してきた鈴見さんも怪しいっちゃ怪しいが……結果は明日に持ち越しだな。


「上等だクソガキ。 俺もお前を占うぜ」


「それじゃ、あたしたちはお互いにお互いを占うってことで。 良いかな、元ちゃん」


「ああ、了解した。 つうか、その元ちゃんってのやめねえか? なんかすげえアホっぽいからよ」


話はすぐにまとまる。 しかし、これで占い先が確定したと思ったときだった。


「あの、ちょっと良いですか? それをやっちゃうと、狂人が隠れちゃう場合もあるんじゃないかなって思うんですけど」


言ったのは、クレア。 左手でウサギの人形を抱き締めて、右手を上げて言っている。 うまいこと省略できそうだったが……気付いたのか?


「ん? どういうことだ?」


俺が首を傾げながら言うと、クレアはすぐに口を開く。 その口振りには迷いが感じられない。


「それぞれが円を描くように占いをした方が良いと思います。 夢島と成瀬、鈴見と屋代、こうではなくて……夢島が成瀬、成瀬が鈴見、鈴見が屋代、屋代が夢島。 こういった感じでどうですか?」


「あ? んなの一緒じゃねえかボケ。 外人ってのは頭ワリーのかよおい?」


相変わらずの口の悪さで返事をしたのは夢島さん。 端正な顔でそういう怖い言葉遣いは止めて欲しいな……。 ほんと、西園寺さんがこんな性格じゃなくて良かった。


「いえいえ、馬鹿ですか。 そういうわけではなくてですね。 それをやってしまうと、本物の占い師に白判定を出された狂人が、それに乗ってくる可能性があるからですよ」


狂人は占われても白と出る。 つまりは村人側として占われる。 そこで本物と狂人という組み合わせの占い師を確定させないため。 要するにクレアが言っているのはそういうことだ。


「後出し有利なんですよ。 ですから、お互いがお互いをではなく……円を描くように占うんです。 そうすれば人狼陣営の輩は、自分の結果を聞いて答えを変えにくくなります」


例えば四人の内、一人が狂人だった場合。 その白と占われた狂人は、相手の結果を聞いて白と言えば良い。 そうすることで本物の占い師は、自分に白判定を出した狂人を信用してしまう。 狂人視点からすれば、もしも占う相方が人狼だった場合でも、白と言えば人狼には狂人だと伝わる。 そうじゃなく本物の占い師の場合でも、本物として相方に信用してもらえる。 そういったことが起きるのだ。


まぁそうは言っても、多少の差だ。 多少やりづらくなるというだけで、それ以上でも以下でもない。 俺としては一番重要なのは誰が誰を占うか、ということだ。 そして今の流れなら、問題はない。


「了解だ。 それじゃあ占い先はさっきクレアが言ったのに変更しよう。 意見はないよな?」


俺が他の三人を見ながら尋ねると、全員が頷く。 よし、悪くない流れになって来ている。


そしてその話がまとまった直後、壁にかけられていたでかい時計が十八時を知らせる。 それと同時に、ロビーの中央に設置されているモニターに電源が入る。 見ると、そこには全員の名前が表示されており、その下には何やら操作をする機械。


「あれで投票しろってことか」


「うん。 そうみたいだね」


そして流れてきたのは、アナウンス。


『一日目の夜時間となりました。 投票先をお選びください』


その瞬間、全員が押し黙る。 自然とではない。 強制的に黙らされたのだ。 言葉を発せられなくなった……のか? そう思い、俺も口を開こうとしたのだが、それは叶わない。 声を出そうにも、まるで声帯を取られてしまったかのように、掠れた音しか出なかったのだ。


やってくれる。 時間が来れば、強制的に会議は不可能になるというわけか。


それを理解した俺たちはそれぞれが順番に、その投票モニターへと向かっていく。 その作業自体は数分で終わり、名前が並んでいたモニターは投票結果へと移り変わった。


成瀬陽夢(ようむ)加賀(かが)共恵(ともえ)


西園寺夢花→鮫島(さめじま)(れん)


矢郷矢取(やどり)→加賀共恵。


鈴見羽実→有栖川弥音。


屋代元→有栖川弥音。


八代木葉→桐生院庄司(しょうじ)


有栖川弥生→加賀共恵。


有栖川弥音→加賀共恵。


桐生院庄司→加賀研二(けんじ)


鮫島(さめじま)(れん)椿(つばき)(かおる)


夢島夢子→矢郷矢取。


クレア・ローランド→鮫島憐。


加賀共恵→椿薫。


加賀研二→クレア・ローランド。


結果。 加賀共恵さまが四票となりましたので処刑です。 お疲れ様でした。





そして昼が終わり、夜が訪れる。


一人っきりの部屋の中で、俺はただ呆然と天井を見上げていた。


……人が、死んだ。 俺が投票先を変えていたら、もしかしたら共恵さんは死ななかったかもしれない。 けど、それは結果論だ。 分かっている、分かっているのに。 誰かが死ぬしかなかったんだ。 多数決によって、一人が必ず死ななければならなかった。


勝てば、終われる。 しかしそれまで延々と殺し合いは続いていく。 俺は果たして、最後までやっていけるのか?


「くそ……」


どうしても、一旦思考を始めると歯止めが効かなくなってしまう。 ()()()()()()()()、止まらなくなってしまうんだ。 今日はまだ良かった、明確に人を追い詰めて殺すことがなかったから。 投票という多数決で殺したまでだ。


なのに、どうしてこうも頭が痛くなるのだろう。 いくら作られた人たちだと言っても、あの人たちはまるで生きているかのように……これまでの人生があったかのように、話している。 雑談もしていれば、笑いもする。 そして怒りもする。 だから嫌なんだ、本当に、本当に嫌になってしまう。


「……やるしかない。 それしか、俺たちが生き延びることはできないんだ」


あの番傘の男が笑っている姿が目に浮かぶ。 クソ野郎が……いつか絶対、この恩は返してやる。 覚えておけ、俺はお前を出し抜いてやる、絶対に。


『ワオーン! ワオーーーーン!!』


遠くで、狼の雄叫びが聞こえてきた。 狼同士の会話、人には分からない言葉での会話。 そしてそのすぐ後に、俺の部屋の前を何かが駆けて行った。


獣が走る音だ。 何匹かは分からないが、確かに俺の部屋の前を通って行った。 右へ行ったのかも、左へ行ったのかも分からない。


今夜、また人が死ぬ。 さすがに狩人がいきなり護衛を成功させるとは思えない。 或いは、俺が今日指名した共恵さんが狩人だった可能性だってある。


本当に良かったのか? 俺はああ動いて、正解だったのか?


……分からない。 いつもなら落ち着いて考えられる一人のときでも、不思議と思考が捗らない。 俺は知らない間に、随分と弱くなったようだ。


それはきっと、西園寺さんと出会ったから。 彼女の人柄に触れてしまったから。 知らないことは悪いことではないと、彼女は笑顔で俺に言った。 あの忌々しい夏のことだ。


俺は本当に、あの一瞬……馬鹿だなと思うと同時に、すげえなって思ったんだ。 そこまで真顔で真剣に、そんなことを堂々と自信満々に言える西園寺さんが、すげえと思ったんだ。 迷いがなければ疑いもない。 そんな目で、彼女は俺に言ったんだ。


だから、頑張らないと。 俺はもっと、西園寺さんという人を知りたいから。 西園寺さんと並んで歩けるような奴にならないと。 そのためにも、生きて帰らないと駄目なんだ。




『二日目の朝となりました。 加賀研二さまが無残な死体で発見されました』


次の日、そんなアナウンスと同時に、俺は目を覚ました。

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