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俺とルールと彼女  作者: 幽々
人狼の世界
32/173

二日目 朝

「おはよう、西園寺(さいおんじ)さん」


成瀬(なるせ)くん。 おはよ」


部屋を出ると、すぐそこで西園寺さんが待っていた。 顔からは若干、疲れが読み取れる。 俺でさえ昨日のアレは結構効いたのだから、そういう気持ちに敏感な西園寺さんは俺以上に辛かったのだろう。 そういう面でも、なるべく早く決着は付けたい。


「なんだか、こうやって起きてすぐに挨拶すると、一緒に暮らしているみたいだね」


「……」


素だ。 素で言っているんだ、この人。 マジで反応に困ることをたまに言ってくるから参ってしまう。 普通だったら恥ずかしくてとてもじゃないが言えないと思うぞ……。


「わたし、成瀬くんみたいな人と一緒に暮らしてみたいなぁ」


「は、はぁ!?」


思わず声を張り上げた。 本気か……本気なのか!? いやでも、俺の家も西園寺さんの家も家族が居るわけだし、さすがにそれは。


「えへへ、冗談だよ。 いつもの仕返し」


「……ぐ、お、おう」


やられた。 にこにこ笑顔で言う西園寺さんが悪魔にも思えてくる。 しかしそれと同時に、なんだか少し残念がっている俺であった。 この微妙な気持ちの行き場をどうすれば良いんだ。


「それじゃあ、ロビーへいこっか? 多分、桐生院(きりゅういん)さんたちは待ってるんじゃないかな」


まぁ、それもそうだな。 いつまでもこうやって廊下で話しているわけにはいかないか。 俺も、昨日の占い結果は気になるところだ。


そして、俺と西園寺さんは手を繋いでロビーへと向かっていった。




「やぁ、君達は毎回毎回最後だね。 仲が良いのは良いことだけど、待っている俺たちの身にもなって欲しいな」


ロビーへ入るなり、桐生院が俺たちに向けて言う。 皮肉を込めたような、そんな言い方だ。 なんだか気に食わない態度の男だな、こいつは。


「悪いな。 俺も西園寺さんも死ぬのが嫌なもんでね」


「そうかい。 でもそれはみんな一緒だ。 だから明日からはもうちょっと早く顔を出してくれよ」


「努力はするさ」


言いながら、俺たち二人を除いた十三人が集まる場所へ。 さすがに大人数ということもあり、プレッシャーは結構なものだな。


「さてと。 それじゃあ夕方まで自由行動……と行きたいところだけど、その前に軽く会議はしておこう。 占い結果も気になるからね」


場を仕切るように言う桐生院。 リーダーシップというか、そういうのを持ち合わせているのだと思われる。 こういう大人数の場合、そういう奴が一人は居てもらわないと困るのが事実だ。


「の前に、だ。 ちょっと良いか? みんな」


手を叩いて言ったのは、矢郷(やごう)さん。 大きな声と大きな体が特徴だ。 そうやって一声発するだけで、すぐに全員の視線を集められるのは便利で、さすがに体が大きいだけはあるって感じ。


「な、なんでしょう……? もしかして、何かのカミングアウトとか……」


意外にもその声に反応したのは椿(つばき)(かおる)。 昨日はまったく喋っていない様子だったが……さすがに何票か入れられたことによって、積極的にでもなったのか?


「そうとも。 霊能力者が居たら出てきて欲しい、昨日の結果を知りたいのでな」


「いや待て。 矢郷さん、それは短絡的すぎる」


その行動を止めたのは俺。 もしもこの人が本気でそれを言っているのなら、ただの馬鹿か人外か。


「良いか? 霊能者がまだ生きているなら、黒が出たときに名乗り出ろ。 重要なのは本物の占い師とのライン作りだ。 まだ占い師が四人も出てきている状態で、それは馬鹿のすることだ」


「そうですね。 私も成瀬の意見を推します。 ここで霊能に名乗り出ろというのは、もしかして矢郷が狼だからでしょうか?」


俺を援護したのはクレア。 こいつは昨日から、なんだか他の奴らとは違う雰囲気を感じる。 桐生院さんもそうだが、警戒しておいた方が良さそうな存在だ。 だけど、いきなり呼び捨てにされるとなんだか距離を置きたくなるな。 言葉遣いこそ敬語だが、それは距離を置いているのではなくて逆に詰めてきているようにも感じるのだ。


「……いや、俺の意見が間違ってたよ。 誤解を招くようなことを言って悪かった」


そして矢郷さんはそれ以上食い下がることはなく、押し黙る。 見た目のわりには飲み込みが早いな。 それとも、ただただ臆病なのか。 それこそ俺みたいに。


「うっし。 んじゃ気を取り直して俺から行くぜ、占い対象を初日のも含めて言えば良いんだよな?」


屋代(やだい)さんは、髪を掻きあげて言う。 そんな仕草がえらく似合う強面である。 そう言えば俺も同じような癖を持っていると、西園寺さんから聞いたことがあったようななかったような。 良い思い出ではなかったと思うので、記憶はあまりないが。


「占い結果。 初日は八代(やしろ)木葉(このは)、結果は白。 二日目は夢島(ゆめしま)、結果は……黒だ。 これで俺視点、占い師二人が確定って言っても良いな」


屋代さんの言うとおり、どうやらほぼ確定だな。 占い師二人の所在はそこだったか。 屋代さんが鈴見(すずみ)さんに合わせたという可能性もあるが……。


「は!? あー分かったぞゴミども。 お前らグルで俺を嵌めようってんだな。 みんな騙されんな、俺も()()()()()()ぞ!!」


言うのは夢島。 そして、その結果を口にする。


「占い結果!! 初日は有栖川(ありすがわ)弥生(やよい)、結果は白。 二日目は成瀬陽夢(ようむ)ッ!! 結果は黒だッ!! こいつを殺せッッッ!!」


おいおい馬鹿かこいつは。 本当にここまで頭が悪い奴がいるのか? 大丈夫かよ、この集団。


「おい桐生院さん、なんだかまとめ役をしているあんたに聞くが、俺の結果って言う必要あるか?」


「まだその余地は残っているよ。 夢島君の意見にもよるけど、ね」


まだ残っているだと? 一体、どこにそんな余地が残ってるって言うんだ。 明らかにこいつは人外じゃねえか。


「確かに怪しいけれど、まずは情報を揃えてからだ。 一方的に決めるのは良くないし、何より他の人達にも分かってもらわないと。 というわけで、一応成瀬君と鈴見君の結果も聞いておこう」


しかし取り仕切っている立場から言われてしまったら、俺も拒否をするわけにはいかない。 嫌々ながら、面倒ながらもそれを言うことにした。 それに、桐生院の言葉にも一理あると思ったから。 理論ではなくその言い方に、何かあると思わせてくる。


「……占い結果だ。 初日は西園寺さんで、結果は白。 二日目は鈴見羽実(はねみ)、白だ」


渋々言った俺に続き、鈴見も口を開く。


「あたしの番だね。 占い結果行くよー。 初日は夢島夢子(ゆめこ)、結果は黒。 二日目は屋代(はじめ)、結果は白だね」


占い結果が出揃った。 まぁ、ここでこれ以上黒は出ないだろう。 それは予想通り。


「なら、良いだろ? 今日は夢島を処刑して終わりだ」


「おいおい、良いのかよ? 俺が占ってお前は黒、人外だぞゴミクズ。 それともあくまでも俺が人狼だって言うのかよ?」


「よく考えろよ。 お前は二人に黒を出されていて、そこで俺に黒を打った。 どういう意味か分かるか?」


挑発を繰り返す夢島に問うと、夢島は顔を歪めて口を開く。


「要するに、お前らが人外だってことだろうが? 俺が本物で、お前ら三人は……あ」


冗談だろ、そこまで言ってようやく気付くって。


「そうだよ。 お前の視点から見たら、俺たち()()が人外だ。 けど、妙じゃないか? 昨日は俺たち四人の中に二人の人外だって話だったんだぞ」


「……ちげえ! そうだ、分かったぞ。 四人の中に人外は三人居たんだ!! お前らがそうだッ!!」


俺視点の話、屋代さんと鈴見が本物で間違いないだろう。 屋代さんの場合はさっきも考えたように、鈴見さんに合わせたという可能性もなくはないが……だとしても、屋代さんが人外だったとしても、夢島夢子という仲間を切り捨てる判断をしたってことだ。


「それは、変ですよ。 だって、占い師さんは二人居るじゃないですか」


大声でまくし立てる夢島に反論したのは、西園寺さん。 俺よりもきっと、西園寺さんの方がうまく状況を説明できるな。


「昨日の話だと、今回の役職には占い師さんが二人居ます。 それで、今出ている占い師さんは四人。 その内の二人が、夢島さんのことを黒だと言っています」


落ち着いた様子で、西園寺さんは続ける。 しかしそんな声とは裏腹に、俺の手を握る力は少し強くなっていた気がした。 怯えているんだろうな、きっと。


「……なるほど! おいおい分かったぜ、魚を捕ることしか取り柄がないアタシでも分かったぜ」


そこで言ったのは、鮫島(さめじま)(れん)。 相変わらずな男勝りの口調である。 まるで上の妹がそのまま大きくなった感じだ。 全く関係ない話だけど、上の妹は馬鹿である。


「つまりこうだろ? 夢島からの視点だと、占い師四人の中に人外が三人居る。 勿論そりゃ自分以外だから、屋代と鈴見と成瀬の三人が人外ってわけだ」


「はい、そうなるんです。 でも、本物の占い師さんは二人出てきている。 死者がない状態で、カミングアウトがあったのは四人。 その内二人は本物じゃないとおかしいんです。 未だに伏せている占い師さんは居ないと思いますから」


そういうことだ。 つまり夢島が出すべきは黒ではなく、白だった。 恐らくは自分に黒が二つ打たれて焦ったんだ。 他の奴にも黒を付け、自分と同じ状態にしなければという考えでも働いたのだろう。


「……わたしが思ったのは以上です。 夢島さん、どうですか?」


「お、俺は……」


ようやく自分の失敗に気付いたのか、夢島は辺りをチラチラと見る。 これで決まりか。


「……っざっけんなッ!! 俺は本物だッ!! 俺以外に居るだろ!? まだ名乗ってない占い師がよお!!」


居るわけがない。 これで決まりだ。


俺が、そう思ったときだった。


「ご、ごめんなさい。 実は私、占い師なんです」


「……は?」


声の方を向くと、おずおずと手をあげる人物。


……有栖川(ありすがわ)弥音(やの)。 あのヤンキーの姉で、西園寺さんと雰囲気が似ている人だ。


「すいません。 昨日は四人も占い師が出てしまって、言い出せる雰囲気ではなかったんです。 でも、このままだと()()の占い師の夢島さんが処刑されてしまうので……」


「ほう」


そんなことを言い出した有栖川姉を見て、にやりと笑って言うのは桐生院。 考えていることは俺と同じか? それとも。


「がはは! なんだ、面白くなってきたじゃねえか! けど、さすがに今のタイミングで言い出すってのは、疑われるの覚悟でのことなんだよな? お嬢ちゃん」


「は、はい。 それは勿論です。 ですがとにかく、私の占い結果を聞いて下さい」


矢郷さんの言葉に少々怯えながらも、有栖川姉は告げる。 その占い結果とやらを。


「初日は鈴見さんを占いました。 結果は……黒でした。 次に占ったのは夢島さんです。 結果は白です」


鈴見が黒……だと? 待てよ。 考えろ考えろ。 ノイズを除去して考えるんだ。 何故、このタイミングで有栖川姉は名乗り出た? そのメリットは……夢島の救済、か? いや、普通に考えればそれしかありえない。 そうとしか思えない行動だ。 けど、もしもこれが本当だった場合……最悪のパターンはそれだ。 夢島は狂人で、鈴見が人狼というパターン。 そのパターンでなら、ありえるのか?


いやちょっと待て。 そもそもの話、鈴見は本当に間違いなく占い師なのか? 整理しろ、状況を。


鈴見は初手で夢島を占い、黒を出している。 普通に考えれば優秀な占い師だとも考えられる。 しかし、もう一人の占い師である屋代さんは鈴見のことを占ってはいない。 鈴見が占い師を騙り、夢島に黒を出すというミスをしたのか……? 或いは、身内切りということも考えられる。 今回の配役では人狼は三名、狂人も三名。 一人くらいなら切っても構わないと考え、本物の占い師として信頼を得るために夢島を切った?


だとしたら、有栖川姉の方はどうなる? こいつは夢島を助けようとしているんだ。 鈴見に黒を打ち、状況を変えようとしている。 もしも身内切りが人狼側の作戦だったとしたら、それが伝わっていないということは狂人か? そこまで考えが至らなかった有栖川姉が、鈴見を本物の占い師だと思い込んで黒を打った?


「成瀬くん」


頭を回転させる俺に話しかけてきたのは、西園寺さん。 俺の手を力強く握りしめている。


「成瀬くん、落ち着いて。 成瀬くんが考えるのは事実だよ。 成瀬くんが張った罠の結果を考えればすぐに分かるよ」


……俺が張った、罠。 ああ、そうだ。 そうだった。 それをすっかりと忘れていたよ。 ついつい、そのノイズに余計な思考を取らされていた。 ノイズは除去したつもりだったのに、そのノイズありきで考えてしまうとは……本末転倒だな。


「へえ。 なるほどねぇ……つまりは占い師が五人、ってことかい。 これは困った」


わざとらしく、目頭をつまみながら桐生院は言う。 こいつは一体、何を考えているんだ。 恐らくは知っている側の人間である桐生院なら、すぐに判断ができたはず。 なのに、どうして場を困惑させることを言う? こいつは人狼なのか?


いや、そうじゃない。 俺が今言うべきことは、そんな言葉ではない。


「違う。 占い師は四人だ」


「おいおいおい。 待てよクソガキ。 お前聞こえてなかったのか? 五人目の占い師が出てきたんだぜ? そんで、あいつは俺を白だと言っている。 それに鈴見を黒だとよ? これでクソビッチが言っていた理論は破綻だぞ? 俺とヤンキー姉が本物で、お前ら三人が人外だ」


「く、くそびっちってわたしですか……?」


西園寺さん、泣きそうだ。 というかそんな単語を知っていることに驚きだ。 けど、これで終わりだ。 詰んでるんだよ、夢島夢子。 お前が俺に黒を出した時点でお前の化けの皮は剥がれることになっている。 冷静になれば、すぐに分かることだ。 そしてその結果、引きずり出せたのは人狼だけではない。


「悪いな、占い師を撤回する。 俺は()()()だ」


「……は? お、おいおい待てよ。 お前が共有者って」


目を見開いて言ったのは、屋代さん。 無理もない、共有者は役職一覧として説明されていない役職だ。


「一応言っておく。 俺の相方は()()している。 それで聞くが、俺以外に共有者を名乗る奴はいるか? いるなら出てきてくれ、居ないなら俺は確定白として動く」


共有者とは、村人側の役職。 二人一組のペアで、お互いが誰かを把握することができる。 それ以外の能力は持たないが、狂人でも人狼でもない純粋な村人、つまりは確定白を判断できる唯一の役職。 能力はそれだけだが、使いようによってはとてつもない役職だ。


「……居ないみたいですね。 成瀬は確定白ということで」


クレアはそのとき、薄っすらと笑っていた。 初めて見る笑顔はなんだか、底が計り知れないようにも思え、その一瞬……寒気のようなものを俺は感じていた。


「はは……あははは!! なるほど、なるほどそういうことか! 見事だ成瀬君、人外を二人も炙りだしてくれるとは」


堪えきれなくなったのか、大声で桐生院は笑う。 しかしその笑いもどこかわざとらしく、もしや気付いていたのか……こいつは。 俺の作戦に、共有者を名乗るということに。 だとすると、俺が本来なら共有者ではないってことも、見透かされているか?


……いいや、落ち着け。 さすがにそこまではないはずだ。 冷静に考えろ。


「ま、待てやおいッ!! テメェ、なんでそんなくだらねえ嘘吐いてんだよ!? 怪しさ全開じゃねえか!!」


「馬鹿か。 俺はお前らを嵌めるために占い師を騙ったんだよ。 最初は人外が一人引っかかれば良いくらいに思っていたけど……まさか、もう一人馬鹿が居るなんてな」


言いながら、俺が見るのは有栖川姉。 その顔は真っ青になっており、最早戦意は感じられない。


「これで決まりだ。 占い師は屋代さんと鈴見。 それで、夢島は人狼だ。 そこのそいつは、狂人ってところだろうな」


そう。 夢島は人狼だ。 俺以外の占い師三人の内、屋代さんと鈴見に黒判定を出されている。 そして、有栖川姉は夢島に対して白判定を出しているんだ。 この場合……屋代さんと鈴見が本物でないと、成立しない。 身内切りの可能性もなくはないが、ひとまずそれは置いといても問題ないだろう。


冷静に考えれば、屋代さんと有栖川姉が本物の占い師の場合でもそれは破綻する。 屋代さんは夢島に黒判定を出しているんだ。 占い師が結果を偽るなんてことはない。 だから、同じ対象を占って違った結果というのはありえないことなんだ。 もしもこれをひっくり返すなら、占い師がもう一人必要になってくる。 しかしそれはありえない。 人狼側がそこまでの人員を割いてくるわけがない。


分かっている事実は、夢島と有栖川姉が人外だということだけ。 そして屋代さんは占い師、鈴見は限りなく白に近い占い師といった感じだな。


「そうだね。 今日のところはとりあえず夢島君を処刑しておこう。 それで明日になったら、有栖川弥音(やの)君を処刑だ」


「こ、く、クソがぁぁあアアアアアア!! 成瀬、テメェはいつか絶対に殺してやるッ!! テメェだけは忘れねぇ!! いつか絶対に食ってやるよクソ野郎がッ!!」


そんな夢島には見向きもせず、桐生院は指をパチンと鳴らし、最後に締めくくる。


「あはは。 午前の会議だけで終わってしまったね。 後は投票時間まで、各自自由行動と行こう。 大きな休憩時間を取れて何よりだよ」




「成瀬くん、どーぞ」


あれから、俺たちは桐生院の言う通りに自由行動となった。 そして今は西園寺さんと共に、食事を摂っている。 準備をしようとしたところで、西園寺さんがその役を買ってくれたのだ。 多分、俺に気を使ってくれてのこと。


なんでも、この無人島には誰が設置したのかは分からないが、食料はしっかりと用意されていた。 簡単な食べ物から、その材料まで。 気の利いた誰かさんの配慮ってわけだな。


「ああ、ありがとう。 それと、さっきのこともありがとう」


「えへへ。 良いよ、成瀬くんの力になれたなら」


危うく、罠を使うタイミングを見誤るところだった。 西園寺さんが声をかけてくれなければ、俺は有栖川姉が名乗り出た理由を延々と考え続けていたかもしれない。


やっぱり厄介だ、ああいう気持ちで動く人間は。 俺が一番苦手なタイプで、一番距離を置きたいタイプ。 それは西園寺さんにも当てはまることなのに、どうしてか、彼女は他のそれとはどこかが違う気がする。


「多分ね、弥音さんは助けたかったんだよ。 絶体絶命になった夢島さんを」


「……馬鹿のやることだ。 あんなの、見捨てれば良かっただけなのに」


「またそういうこと言う。 成瀬くん、わたしも弥音さんの立場だったら、同じことをしていたと思うんだ」


かも、しれない。 だからきっと、俺は有栖川姉に西園寺さんと近い雰囲気を感じていたんだ。 西園寺さんが取りそうな行動をあの人は取っているんだ。 ただ、それをするための力が足りなかったというだけの話で。 だとしたら、西園寺さんなら助けられたのだろうか? もしかして、俺が感じている違いってのは、それなのか?


「なぁ、もしも西園寺さんが有栖川姉の立場だったとしたらさ、どうやって夢島を助けた?」


俺が気になってそう尋ねると、西園寺さんはこう言った。


「そうだね。 まずは……グレーの人に白を打つかな。 それで、敢えて占い師さんとは関係のないところに黒を打つと思う」


「占い師とは関係のないところへ? どうして? それにグレーへ白を打つっていうのは」


「空気の流れを変えるために。 どんなときでも、どんな場所でも、その場の空気っていうのがあるでしょ? 今日のそれは、夢島さんと弥音さんにとってとても悪かったと思うの。 だから、敢えて夢島さんに白黒判定を出すんじゃなくて、次の日に占うということにしてその場を凌ぐんだ」


ちなみに、グレーに白を打つのは少しでも味方を増やすため。 白判定を出された村人はほっとするでしょ? と、西園寺さんは続けた。


……確かに、それで上手いこと誘導できれば流れは変わるかもしれない。 しかし成功確率は極めて低い上に、成功したとしても……いずれ、夢島は処刑される運命ではないのか。


「一日延ばせれば、後はなんとかなるよ。 狼さんはきっと、話の要となっている部分を取りに来るはず。 今日の場合だと……成瀬くんが一番だったけど、わたしが狼さんだったら屋代さんかな」


屋代さんを? あいつを喰らうことにメリットなんてあるのか? そんなことをしたら、夢島が余計に疑われるんじゃないのか?


「分からないな。 どうして屋代さんを?」


「普通なら絶対に噛むところじゃない。 それをしたら、夢島さんが狼さんだって言っているようなものだから。 でもね、だから敢えてそうするんだ」


全然言っている意味が分からない。 それをしても明らかに不利になるだけで、夢島が助かる道は狭まっていくようにしか思えない。


「重要なのは次の日。 みんなそれくらいは分かっているはずなんだ。 占い師は噛まれないだろうって。 だから混乱する。 どうして占い師が噛まれたんだって」


それは、確かにそうかもしれないけど。 でも、冷静に考えればすぐに分かることじゃないか。


「翌朝見つかったのは、屋代さん。 それを見てこう言うんだ」


「占い結果。 屋代さんは白だ……ってね」


……屋代に白判定、いやそれは分かる。 けどその行動の意味が分からない。 それをして何になるって言うんだ?


「わたしと成瀬くんの視点だと、ただ屋代さんが噛まれたようにしか見えない。 でも、他の人から見たら……狐さんが出てきたようにも見えるんだよ」


狐、狐……そうか妖狐か!! 俺たちは今回のゲームでは妖狐が占われても死なないということを知っている。 しかし、他の奴らは違う。 いつも通り、妖狐は占われれば死ぬと思っているんだ。


「そこからは上手く話を持っていくんだ。 発見されたのが一人なのは、狩人さんが護衛を成功させたか、狼さんが噛んだ場所と同じところを占ったって言ってね。 鈴見さんに占われた妖狐が、鈴見さんが人外ということを理解して黒を合わせた。 そして本物である占い師の夢島さんを排除しようとした。 そういう風に上手く誘導するんだ。 これで少しは、夢島さんの生きる道も残ったと思う」


なるほど……。 それが、最善か。 今回の妖狐の扱いをすっかり忘れていた。 一点しか見ない俺にとって、西園寺さんの存在はやはりありがたい。


「その後でボロが出てしまっても、本物の占い師さんを全部倒せたってことだから、狼さんにとってはとてもありがたいこと。 そうすれば自分の陣営が勝てる確率も上がったと思う」


「ま、そうなってくると問題は話術だな。 如何に上手く他の連中を言い包められるかにかかってくるってわけか」


「えへへ、それは成瀬くんにお任せしますっ。 わたしより、目標が見えたときの成瀬くんってすごいと思うから」


「いや俺に任せられてもな……。 なんか、段々話が有栖川姉の立場から西園寺さんの立場になってないか」


「そ、そうかな? そんなことはないよ。 えへへ」


言いながら、西園寺さんは人差し指で頬を掻く。 懐かしい癖だ。 あれから西園寺さんはその癖を我慢している節があったから、こうやって久々に見れたのは結構嬉しかったりもする。


「あの、少し良いですか?」


そんな俺と西園寺さんに声をかけてきた人物。 そいつは。


「へ? あ……弥音さん。 こんにちは」


「何か、俺たちに用事ですか?」


俺と西園寺さんがついさっきまで話していた渦中の人物。 有栖川、弥音だった。

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