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第9話 呪いのエルフ、異世界を歩く

 崩落した巨岩が散乱するそこから離れて、私とルカは巨岩が林のように立ち並ぶ地帯へと足を踏み入れていた。

 まるで迷路のように倒れ、壁となって幾つも立ちはだかるそれらを眺めながら、私は彼の背中を追いかける。


「……というか、さっきもそうだったけど、なんでそんなに距離開けてるんだよ?」


「え!? えっとこれは……」


 私とルカとの距離は常に一定を保たれている。手を伸ばしても到底届かないほどの距離。そのあまりにあからさまな距離感に、ついに言及されてしまった。

 正直に、呪いについて話そうか迷う。これを言ってしまうとまた逃げられるだろう。

 いや、と。私は首を振った。

 これは自業自得。嘘を吐いて、彼と行動を共にするなんてことは、許されない。私はこの呪いと向き合っていかなきゃならないんだ。だから、正直に話して、ダメだったらそれで諦めよう。

 今までだって、そうしてきた。


「実は、ね。私の体って他の人とは違ってて……。その、毒が出てるんだ」


「毒?」


「そうなの。全生命、物質に対しての有害魔力の放出。それが、私の毒で、呪い」


「……」


「だから、その、本当は誰とも関わり合っちゃいけなくて。こうして、キミと歩くことだって、本当は心配で……。溢れ出る魔力は止められないし、今もきっと私の呪いがキミの体を蝕んじゃってるだろうから」


《ギルハちゃん……》

《正直に言えて偉い》

《俺は何があってもギルハの味方だよ》


 コメントたちはやっぱり、私のことを受け入れてくれる。そうだ。仮にルカがこれで離れてしまったとしても、私には彼らがいるし、戻ればニドゥカだっている。私は一人じゃないんだ。

 そう思うと、正直に言うことへの怖さが、多少和らいだような気がした。


「やっぱりな」


《やっぱり?》

《毒食らったのか?》


 そして、聞こえたルカの声に、コメントたち同様に私も首を傾げてしまう。

 やっぱり、ってことは思うところがあったってことかな?


「あ、えっと……。私の毒が、キミに影響与えちゃってたよね。……ゴメンね」


 わかっていたことだけど、改めてそれに直面すると苦い思いが込み上がってくる。本当に辛いのは、私の呪いを受けて苦しんでる側なのに。

 そう言って、私はそこから立ち去ろうとした。私はやっぱり、ここにいるべきじゃないから。


「待って! ボクは大丈夫だから!」


「……え?」


 そんな私を、どうしてか彼は引き留めた。思わず振り返ると、そこには何かを言いたそうな表情を浮かべる、ルカの姿が映る。


「大丈夫って……?」


「……詳しくは辿り着いてから話すよ。とにかく、気にしないでついてきてくれ」


 彼は踵を返して、またも歩き出してしまう。このままついていってもいいのか、と。また迷うけど、私もまた彼についていく。

 彼の行く先は、地面にぽっかりと穴が開いた小さな洞窟。階段が下へと続いていて、闇がこちらに手招きをしている。


《これ、地下鉄か?》

《大丈夫? 怪しくない?》

《毒効かねえのか!?》

《どこに行くんだろう》


「大丈夫。きっと、大丈夫だよ」


 そう呟いたのは、コメントたちに向けてじゃなくて私自身に言い聞かせるため。

 その地下へと続くような洞窟へと入っていくルカに、私も続いて入った。いつの間に取り出したのか、松明を取り出して歩く彼に、私はしばらくついて歩く。


「暗いからな。足元気を付けてよ」


「う、うん」


 時折、ルカが後ろを振り返って、私がちゃんとついてきているか確認をする。

 その度に私は彼と視線を合わせて、その都度ルカは気まずそうに目を逸らした。

 何度それを繰り返しただろうか。ようやく彼が足を止めたその場所は――


「ここは……?」


「元々は交通機関が走ってた場所だ。繋ぐ道はすっかり土砂で塞がれてるけど、拠点としては丈夫だし広くて使いやすいんだよ」


 地下深くに続く階段を下りて行った先。そこは不思議と瓦礫や土砂で荒れていなくて、ぽっかりと開いた空間が、奥へと続いていた。ルカが暗闇の中を歩いていくと、すぐに周囲がほんのりと明るくなる。どうやら、先ほどの松明を使って火を焚いたようだ。


《ここ駅のホームっぽいな》

《池袋の地下鉄だから、丸ノ内線か?》

《多分副都心線だ。仕事で使ってた》


「皆詳しいね?」


 いつもみたいにコメントたちにリアクションをしていると、それが聞こえたのかルカが怪訝そうに眉を上げた。


「お前、誰と喋ってるんだ?」


「え!? え、っと。お友達、かな?」


 他に言いようがない。配信なんて言われても信じないだろうし。現に私も未だコメントたちのことをよく知らない。


《俺たち友達だったのか》

《照れるぜ》

《ただのギルハのファンだよ》


 私がコメントたちに言及すると俄かに色めき立つ。ちょっと黙っててほしい。


「ふーん、ま、いっか。それで、ここに連れてきた理由なんだけど、ここなら瘴気が薄いってのが主な理由」


《瘴気?》

《何それ》

《この世界は毒で満ちてるのか?》


 彼らの言葉に、私も同意する。呼吸をしてみるまでもなく、肌で感じ取れる。確かに、この場所は、地上にいた時よりも毒素が薄い。


「もっとも、お前の装備見てると、そんなの必要なさそうだけどな」


「え?」


「だって、お前みたいな軽装でここに来るやつ、初めて見たもん」


 何がおかしいのか。バカにしたような笑い顔を浮かべるルカ。いや、笑われたことはどうだっていい。


「あの、ここに来るのって、私が初めてじゃない、の?」


「……ああ。何人か人が来てるよ。そんで、ほとんど死んでいった」


「――っ」


 軽い調子で言い放つ彼に、私は顔を引きつらせてしまう。どうしてこの世界に? どうやって来てるのか。何故死んでいってしまうのか。ぐらぐらと疑問が沸き立つ中、ルカは暗い笑みを浮かべて、私を見る。


「ここはお前の世界から見た、遥か未来の異世界。皆、こうなった結末を変えるために、この世界に来てるんだよ」

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