第20話 呪いのエルフ、最悪の再会を果たす
「あ、そこ床が脆くなってるから気を付けろよ」
「わわっ、危なかったあ。ありがとうね」
私たちは地下空間を移動していた。初めて訪れた時みたいに、敵というか襲い掛かってくる存在は今のところ見かけていない。
「ここ、穴開いてるから落ちないように」
「本当だ……、真っ暗だね」
その代わりじゃないけど、そこかしこが穴だらけで、地下道はボロボロ。おまけに暗いからルカの後ろをしっかりとついていかないと痛い目を見るだろう。
私は彼の案内の元、どうにかこうにか無事に歩けていた。
《落ちたら即死?》
《ホラゲーパート来たな》
《絶体絶命都市みたい》
《ギルハちゃん気を付けて》
「うん、ありがと――」
と。
突如、私の足元に浮遊感が生まれた。
「へ――?」
流れていくコメントに意識を向けてしまったせいか、僅かにルカの辿った軌跡とずれていた。
踏み出した足は虚空を踏み抜き、当然踏ん張ることなんてできるはずもない。そのままバランスを崩した私は、落下の感覚と共に、口のように開かれた昏く深い闇へと飲み込まれる――
《!?》
《フラグ回収早すぎん?》
《ギルハちゃん!》
《ヤバ》
「ギルハ――っ」
けれど、私の体が落ちていくことは、なかった。
手首に伝わる温かい感覚。間一髪のところで、ルカが手首を掴んでくれていた。
《間に合った!》
《ナイス! ルカきゅん!》
「今助けるからな!」
そう言って私の体を引き上げようとするけど、まだ子どもの彼にそれほどの力があるわけもない。寧ろ、ルカも一緒に穴へと落ちてしまいそうだ。
「うわ――っ!?」
だから、風を起こした。厳密には簡単な基礎魔術で風を生み出しただけなんだけど、穴から吹き上げる突風は、私の体を浮かせるのに十分だった。
突然負荷が軽くなった私を勢いよく吊り上げたルカは尻餅をついて、私も着地に失敗して地面に激突。痛いけど幸い、肌を擦りむいたぐらいで済んだ。
「はあ、良かった……」
「ルカ、ありがとうね! 助かったよ!」
「今回は間に合ったけど、ちゃんと注意して歩けよ。もうこの場所に安全な場所なんてないようなもんなんだから」
「うん……、ごめん。もっとしっかりしないと、だね」
思えば、どこか私は危機感がなかったのかもしれない。この世界は私の知らない未知の場所。緊張するまではなくてもいいけど、それにしたって油断しすぎだ。
ここは戦場。モノも何もかも、全員が敵、あるいは警戒するべき相手。
そう思い直して立ち上がると、同じく立ち上がったルカと視線が合った。
敵、で思い出したけど、この世界に来ている人が何人かいるんだっけ?
それが敵かどうかわからないわけだけど、少なくともここまで助けてくれるルカが敵なわけないよね。
「……何ジロジロ見てるんだよ?」
「え? ご、ごめんね。別に深い意味はなくて……」
図らずもジッと見つめてしまっていた。私は慌てて否定するけど、引かれちゃったよね……。
《まあルカきゅんは可愛いからな、見惚れるのもわかる》
《俺もルカくんに冷めた目で見られて~》
《何か気になることでもあったのか?》
「ううん。何でもないよ!」
まさか敵であることを疑ったりしていたなんて言えるわけもない。私はそれを内心に秘めて、首を横に振る。
「まあ、色々精神擦り減るだろうけど、もうちょっとだ。ほら、あの光が漏れてるところが出口だよ」
促されて視線を向けると、確かに暗闇の少し先、上から光が降り注いでいる場所がある。気を取り直して、私とルカはその光を目指して、慎重に歩きだした。
近づくほどに、視界が晴れていく。目に憑りついていた暗闇は拭われていき、やがて外から差し込む薄い陽射しの元へと、辿り着いた。
階段状になっている足場をゆっくりと昇りきると、ざらついた空気が肌にかかる。天空は靄がかっていて、辛うじて昼間であることがわかるぐらい。相変わらず巨大な岩塊がそこかしこに鎮座していて、確かに崩壊の後が目に見えた。
「……やっと着いたな。ここが池袋の東口だ」
《ここが東口!?》
《何これ……知らん……》
《もう完全に原型ないね。駅がわかるから、まだ何となく方角わかるけど》
《アニメイトへの案内ならいけるぜ!》
コメントたちも知ってるみたいだけど、東口と言われてもピンとこない。さっきの地下道から見て、東側の出口ってことなのかな?
腕を組んで首を捻る私に、ルカはフードを被り直して横目でこっちを見る。
「ほら、悩んでないで行くよ。置いてかれても知らないからな」
「あ、うん。そうだね。それじゃあ行こっか」
確かに、疑問に持ったところで私は何もわからないのだ。今は一刻も早くこの未来を救わないと。
そう思って歩き始めようとして、気付いた。
私の背後、ルカ以外の人物が鳴らす、足音に。
「あれ? ギルハがどうしてここにいるんだい?」
その声は、爽やかさを感じさせる、自信と気品に溢れたものだった。でも、その中にあるのは清廉さだけじゃない。腐った果実のような、ぐちゃぐちゃで粘り気があって、虫がたかる、そんな気持ち悪さが含まれている。
そして、私はその声の主を知っている。
あの日、雪の降る街で、私とニドゥカを追放した人間。
それは――
「――勇者、アスカ」
干上がった喉から何とか声を絞り出す。そうして振り返って、姿を見た。いけ好かない顔立ちに胡散臭い笑みを浮かべる男と、それからパリサンデロスとヘクタールに、カサンドラ。元ニドゥカのパーティメンバーが全員、その場にいた。
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