第19話 呪いのエルフ、二度目の未来跳躍をする
「それじゃあ、これから二回目の配信を始めるわけだが、随分長いこと昼寝してたヤツがいるみたいだな」
「……えへ」
「えへ、じゃなくてな。寝るならちゃんとベッドで寝ろって。ベルペオルが運んできてくれたけど、あんなところで寝たら体痛めるぞ」
じろりと鋭い視線が突き刺さる中、私は申し訳なさそうに笑う。時刻は既に午後二時を過ぎていて、陽はすっかり高く昇っていた。
朝に寝たから厳密には昼寝じゃないと思うんだけど、どちらにせよ結構な時間寝てたことには変わりはない。
まさか私もそんなに寝るとは思ってなかったから、笑うことしかできなかった。
「はあ、別にいいんだけどな。オマエが健康的に過ごせるのならそれで。で、配信はできそうか? 体調が悪いとかあれば言えよ?」
「うん、大丈夫だよ。いつも通り!」
「そうか。そりゃ何よりだ。さて――」
仕切り直すように言葉を区切って、彼女は腰に手を充てる。
「前回はいきなり説明もなしに未来に行ってもらったが、今回は違う。色々と思うところがあると思うが、頼んだぞ」
「任せてよ! ニドゥカは心配性なんだから」
「……配信の宣伝はカイネ王にもうしてもらった。サムネもあるし今は待機画面になってるはずだ」
「待機画面?」
「配信の細かい調整はこっちでやるから心配すんな。オマエはオマエのやるべきことをやってくれりゃあいい」
言われなくたってそのつもりだ。いつまでもニドゥカのお世話にならないためにも、お金は稼がないといけないし、未来も救わないといけない。全部やるんだ。
私は息を深く吸い、吐き出す。変な緊張感が体を包む。最初はよくわからないまま始めたから緊張も何もなかったけど、いざ改めて向き合うと強張ってしまう。
そんな自分を、無理やり諫めるためにも、手に握ったアトラへと魔力を流し込んだ。
「――ピピ、管理者の魔力を感知。電源を起動。これより全ての機能をアクティブにします」
無機質な声が響き、アトラが宙に浮かぶ。片眼鏡を装着すると、淡く映された視界の片隅に可愛らしい背景の上で、私を模した絵が動いているのを見つけた。
「えっと、何か私っぽい絵が映ってるんだけど……」
「それが待機画面だ。カイネ王に描いてもらったイラストを簡単に動かしながら、フリーのBGMを流してある」
「何を言ってるの?」
「オレもよく知らねえ」
ニドゥカの発した言葉が一から十まで全くわからない。別にいいんだけどね。私のためにやってくれているってことはわかるから。
「コメントたちも待ってるだろ。準備ができたら始めてやれ」
「……そうだね」
改めてアトラとの魔力の繋がりを確かめて、再度魔力を流し込む。
「――ピピ、マイク、カメラ共にオン。これより配信を開始します」
片眼鏡が映す光景が切り替わり、私とそれから私が今いる部屋が映る。良かった、ちゃんと始められた。
と、安堵して間もなく、視界の片隅が激しく動き始める。
《推しの配信来た=10000円》
《こんギルハ~》
《配信始められてえらい》
「こ、こんギルハ? えっと、皆待たせちゃってごめんね! 今日も配信やっていくから、よろしくね!」
《今日も昨日の続き?》
《調べたけど結局何のゲームかわからんかった》
《もしかしてオリジナルゲームなんじゃ?》
「あ、今日も昨日と同じだよ。とりあえず未来を救わなきゃだから、コメントの皆色々教えてね!」
《任せろり》
《ギルハちゃんのためなら》
《楽しみ~》
相変わらず接しやすいコメントたちに、始める前までの不安はすっかり消えていた。
『それじゃ、ニドゥカ行ってくるね』
『ああ。気を付けて行ってこいよ。危なくなったら、すぐ戻れ』
『うん。行ってきます。――アトラ』
呼び掛けると呼応するように、アトラが声と呼べない音を囀る。
「――ピピ、異世界との接続を開始。転送を開始します」
言葉と同時に私の体は浮遊感に包まれた。それまでいた居心地のいい空間は一転、埃っぽい空気と、独特の臭いが漂う場所に移る。
「よお、やっと来たな」
目を開くと、昏い闇がどこまでも続く空間が広がって、至る所に瓦礫が散乱している。灯りはただ一つ、めらめらと燃える黄金の炎が焚かれているだけ。
その中、瓦礫に腰掛ける赤錆色の髪をした少年が、こちらに向かって笑いかけていた。
「ルカ! ずっと待ってたの?」
「別に。待ってたわけじゃない。たまたま、ここで寝泊まりしてただけだ」
ぶっきらぼうにそう言う彼の姿を見たのも、もう数日前のような気がしてしまうけど、そういえば昨日のことだっけ。
私が思いを馳せているとコメントたちが俄かにざわつく。
《ツンデレきたああああああ》
《王道を征くショタのツンデレ、自分いけます》
《天然でやってるなら素質ありすぎる》
《そういうのもっとくれ》
「皆楽しそうだね」
コメントたちもルカと再会できて喜んでるのかな。私もそうだから、同じ気持ちで嬉しいな。
私がニコニコしていると、ルカは眉根を寄せて立ち上がり、足で焚かれていた火を消した。
「ほらっ、そんなのどうだっていいからさ。とっとと行こうぜ」
そそくさとその場を立ち去ろうとするルカに、私もまたついていく。
こうして、私の配信活動の二回目は幕を開けた。
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