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第15話 呪いのエルフ、やる気を出す

「……なんでそれで配信になるの?」


「未来の惨状を異世界に伝える。そうすることで何か未来が変わる可能性があるのだからな。拙者はあの未来にさせないために、尽力しているのだ」


 な、なんて熱い人なんだろう……! これほどまでに熱いセリフを吐く王様を見たことがない。

 そんな感動している私の隣から、まるで真逆の冷めた声が飛んできた。


「本音は?」


「それは無論、日本のカルチャーを守るために決まっているだろう。アニメやゲームがなくなるのは拙者からすれば由々しき問題よ」


 尚も熱い眼差しで、今度はよくわからない言葉を唱え始めるカイネ王。アニメ? ゲーム? よくわからないけど、多分熱意を賭けるほど大事なモノなんだろう。


「と、話しが逸れてしまったな。ともかく、ギルハ殿には引き続き今日のように未来へと向かい、エリアマスターの討伐を目指してもらいたい」


 そうやって、じっとカイネ王はこちらを見てくる。正直に言えば、やってあげなくもないと思っている。未来の世界が何もないおかげで、私が放つ毒の被害は少なくなる。私でも役に立てるチャンスだとさえ思えた。

 でもせめて疑問点は解消しておきたい。


「やるのはいいんだけど……、なんで私なの? 私よりも強い人なんて、いくらでもいるのに。それこそニドゥカとか」


 ちらりと彼女を見ながらそう言うと、ニドゥカはその整った口元をへの字に曲げて、心底嫌そうな表情を見せる。


「ニドゥカ殿にはやるべきことがある。それに、あの世界には毒が撒かれていると神が言うのでな。ギルハ殿が適任だと判断して、依頼をしているわけだ。寧ろ、これはギルハ殿にしかできないことだとも思っている」


「私にしか、できないこと……」


 そんなこと、言われたことなかった。私が生まれたエルフの里ではこの呪いの力のせいで、周囲から嫌われ、拒絶されてきた。呪いが発現してしまってからは、地下深くに幽閉されて、ニドゥカたちが来るまでは再び日の目を見ることすら叶わなかった。


「……ギルハがイヤなら断ってもいいんだぞ。さっきも無理やりやらせたようなもんだしな」


 ニドゥカが申し訳なさそうにそう言ってくれる。私はそれに首を振って、きちんと自分の意思を示す。


「大丈夫だよ、ニドゥカ。私にしかできないことだもん! お金も稼がないとだし、それにコメントの皆にはまた今度って言っちゃったし!」


 約束をしたからには守らないといけない。それに皆優しいしまた会いたいなって、本心からそう思えた。


「そうだ。ギルハ殿には配信をして貰わないと、拙者がコメントできないではないか」


「オマエはいったん黙ってろ」


 呆れた様子を見せるニドゥカに私は苦笑してしまう。そう言えばこの人もコメントの皆の一人だった。今度どんな感じで私の配信を観てるのか教えて貰おう。


「目下の課題は、エリアマスターの排除だ。それから同じようにこっちの世界からアトラで来たヤツとの接触には、気を付けろよ」


「でも皆目的は同じだよね? 同じ未来を変えるためなんだったら、ちゃんと協力し合ったほうが良いと思うんだけど……」


 私は別に戦いたいわけじゃない。穏便に済むならそれに越したことはないとすら思える。でもきっと、その意見は甘いのだろう。ニドゥカの瞳に優しさが混じるけど、その口調には戒めが含まれていた。


「全員がギルハみたいにいい子ちゃんならそれで良いんだけどな。未来を本気で変えたいヤツなんて、カイネ王ぐらいしかいないんじゃねえか? 全員が神から提示された報酬目当てのヤツばっかりだろ。だから多分、争えって言ってるんだと思う」


「……そう、かもだけど」


「まあ、オマエの気持ちはわかる。だが現実もちゃんと見ねえといけないよな。人間は欲望に塗れたヤツらばっかりだ。そんな人間が、神の創造物を貰ったらどうするか。可能な限りの願いが何でも叶えられると知ったらどうするか。報酬のためなら裏切るようなヤツらを、オレたちは知ってるだろ」


「……」


 雪が降るとある国。北国のその街で、私たちは報酬に眼が眩んだ仲間たちからパーティを追放された。あれが人間の全てだなんて思いたくない。人によってやむにやまれぬ事情があるだろう。


「うん。人は欲に負ける生き物だって、痛いほどわかってるつもりだよ。……それに、私だって賭け事してるからね!」


 私も欲を持っている。だからこそ、話さない内に関係を拒絶するのもどうかと思ったりもする。案外話し合えばわかってくれたりしないだろうか。


「欲を持たない人間などいないだろう。それこそが、人間性だろうからな。本来それはいい方向に向かうはずだが、悪い方向に向かうこともある。欲とのぶつかり合いによって、人は争い、傷つけ合うこともあるからな。当然、ギルハ殿の言う通り話し合うことも肝要だ。そうしてまた絆が生まれるのだと拙者は思う」


「カイネ王……」


「だが警戒もしなければならない。このアトラを受け取ったのは、……あの勇者アスカも同じだそうだからな。風の噂で、そんなことを耳にした」


 カイネ王は、言い難そうに勇者の話題を出した。彼は、私たちが魔王討伐の旅を途中で交代させられた経緯を知っている。王は何も悪くないのに、そのことについて謝罪をしてくれて、それからお詫びとそれまでの冒険の対価として多額の報奨金を払ってくれた。もう手元には三万エアしか残ってないけど。


「そっか、勇者も……」


「だから注意しろって言ってるんだよ。オマエは甘いからな。今回はたまたまそういうヤツと遭遇しなかったみたいだけど、今から心配だ」


「大丈夫! 私に任せてよ! ルカとも仲良くなれたんだから!」


 跳んだ未来の先にいた、赤錆色の髪を持つ少年。そう言えば何も言わずに私、消えちゃったけど、大丈夫かな。

 私が全くいらない不安を抱いていると、ニドゥカがキョトンと目を丸くさせた。


「ルカ? ルカって誰だ?」


「あ、ええとね。未来の世界で出会った男の子なんだけど……、どう言えばいいんだろう。でも、凄いんだよ! 私が近づいても平気そうだったから!」


「へえ、そんなヤツも未来にいるんだな」


 あんまり凄さが伝わってないかな? 薄い反応をするニドゥカにもっと凄さを伝えたかったけど、その前にカイネ王が入り込んできた。


「ニドゥカ殿は配信を観てないから知らないのも無理はないが、拙者は観たぞ。吸血鬼の血を引く、燃える血を持つ少年、名はツヴァルカインだったか。其奴の話によれば、既にこっちの世界から何人かやってきて、犠牲者も出ているそうだ」


「……まあ他所の国のことはわかんねえからな。偵察のために来させているって説もある」


「何なら配信を見返してもいいぞ? 観るか?」


「いらねえ。観るにしてもそれはまた今度だな」


 どこか楽しそうな彼の提案を、ニドゥカが一蹴。断られたカイネ王も別に残念そうにするでもなく、髭を触りながら話を続ける。


「まあ、そのツヴァルカインの正体も不明だ。彼の言っていた通り、現地の民かもしれないし、嘘を吐いていてこっちの世界から来た奴かもしれない。いずれにせよ友好的ではあったが、足元をすくわれないように気を付けるのだぞ」


「うん、わかってるよ。ありがとうね」


 ルカはそんなことをしないと思うけど、でも不安なニドゥカやカイネ王の想いもわかるつもりだ。

 せっかく私を心配してくれているのだ。素直に受け取るのが、きっと一番いい。


「これで聞きたいことは以上か? これから拙者はアーカイブを見返して、未来の世界についての対策があるかどうか調べるが、一緒に観るか?」


「だから必要ないって言ってるだろ。ギルハも今日初めて配信をしたんだ。休ませてやってくれ」


 正直、あんまり疲れとかはなかったけど、このカイネ王の部屋も落ち着かないし早く出たい気持ちはある。私もそれに深く頷くと、カイネ王はそうか、と。納得した後に真剣な眼差しへと切り替えた。


「ギルハ殿。こちらの都合で未来を背負わせてしまったこと、すまなく思う。だが、これも世界のため。受け入れてくれたこと、感謝してもしきれない。全てが終わった暁には、褒美を与えよう」


「本当!? 絶対に忘れないでね!」


「ああ、期待しておいてくれ」


 褒美とか、そういうのはあんまり期待していない。でも、くれるのなら貰っておこうというのが私の考え。だから神からの褒美はどうだって良かったりするのだけど、こう目の前で実際に褒美をあげると言われたら、いやでも応でも期待してしまうし、ウキウキする。


「じゃあな、カイネ王。また来る」


「ああ。だが、次はきちんとアポイントメントを取ってもらおう。推し活の邪魔をされたくないのでな」


「考えとくよ」


 何を貰えるんだろう。そんな期待に胸を膨らませながら私はニドゥカに続いて、その部屋を後にした。


「ギルハ、巻き込んで悪いな」


「何言ってるの。ニドゥカと私の仲なんだから! 気にしないでよ!」


「本当はギルハには平和に過ごしてほしいんだけどな」


「ありがとう、ニドゥカ。でも、私も引きこもってばっかりじゃダメだなって思ってるから。ニドゥカとこの国に恩返しできるチャンスだし、お金も稼げる。私、頑張るよ!」


 胸の前で拳を固めて決意を示す私に、ニドゥカは微笑を湛える。そんなに変なことを言っただろうか。ニドゥカが笑う理由を探してみるもわからない。


「ギルハがそんなこと言ってくれるなんてな」


「ええー? いつも思ってるよ?」


「わかってるって。期待してるからな」


 笑いかけてくれる彼女の期待に応えたい。迸る熱い思いを抱きながら、すっかり陽が沈んだ街の中、私とニドゥカは帰路に就く。

 今の私はやる気に満ち溢れている。そんな私の気合いが伝わったのか。

 思いのほか早く、その機会は訪れることになる。

お読みいただきありがとうございました!


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