第14話 呪いのエルフ、この世界の行く末を知る
「混沌の、未来?」
私が聞き返すとカイネ王は頷いて、手のひらを差し出した。するとその手に浮かぶように、二つの光景が宙に描かれる。
「これって……」
一つは私たちが暮らす街の様子。行商人とか、鎧を着た衛兵たちが歩いたり、街の人たちが楽しそうに闊歩している。
そしてもう一つの浮かぶ光。そこには私がさっき見た、池袋という場所に酷似した光景が映し出されていた。ただ荒廃はしていない。大地はヒビ割れていないし、空にはちゃんと蒼が広がっている。人々も、規律よく行き交っている。
「これが拙者たちの住む世界と、それからこの日本という国がある世界。まあ、拙者は日本から転生して来たからよく知っているのだが、ともかく二つの世界が、異なるモノとして存在しているのがいま、この世界の現状だった。そして――」
カイネ王が手のひらを握る。すると浮かんでいた二つの景色が重なりあって。
結果、私が見た、荒れ果てた世界が姿を現した。
「これが、この世界、そしてもう一つの世界が辿る未来だ」
彼は落ち着いた様子で、感情の起伏を殺したように、凪いだトーンのままそう言った。
「ど、どうして……」
「二つの世界が入り混じってしまったのだ。ギルハ殿たちが生まれた世界と、拙者が初めに生を受けた日本がある世界がな。どうしてあそこまで荒廃しているのかは知らないが、このまま何もしなければ今見た未来へと向かうそうだ」
「……なんでそんなことがわかるの?」
まるで見てきたかのようなことを言うカイネ王に、純粋に湧いた疑問をぶつける。未来のことなんて誰にもわからないはずだ。それを確定していることかのように言っていることが、そもそもおかしくないだろうか。
それに対して答えたのはニドゥカだった。
「この世界にいるエライ神が言ったんだよ。ご丁寧に映像つきで、破滅の未来が訪れるってな。オレもその光景は観させられた」
「え? 神様がいるの?」
未来がどうのこうのよりもそっちの方が気になる。立て続けに生じる謎は、いずれも解消されることなく話は続く。
「会おうと思っても会えねえからソイツのことは気にしなくていいぞ。大事なのは、わざわざそのエライ存在がオレたち人間に介入をしてきたってことだ。本来ならソイツは世界を見守ることに徹するはずだからな。だが今回は介入してきた。それだけ、緊急事態なわけだ」
「そ、それって大変なことなんじゃ……」
「これまで神の介入は何度かあった。それこそ魔王復活の時とかな。世界のバランスが崩れた時に、ソイツは現れるらしい。つまり、今回も同じ状況ってわけだ。で、これが世界各地に配られた」
そう言って、ニドゥカが取り出したのはさっきまで私を映していた粘土細工の小鳥と片眼鏡。
それは羽ばたくこともせず、彼女の手のひらで大人しく鎮座している。
「あ、これさっきの小鳥……、アトラだっけ?」
ニドゥカに渡された片眼鏡もある。未来の日本と呼ばれる場所に飛ばしたり、私のことを色々な角度から映したりしていて、ずっと視界に見えていたから小鳥とは既に顔馴染みとも言えた。
「そうだ。これはその神の創造物。秤を保つ天の箱舟、アトラ。――って神は言ってたな。後は説明書記載の内容しか知らない」
「せ、説明書とかあるの?」
「ああ。今手元にはないけどな。書いてた内容はこのアトラの使い方と、それから未来を変えるためにできること、だ」
ニドゥカの言葉に、話を聞いていたカイネ王が頷く。
「うむ。神曰く、未来にいるそれを創り出した張本人、エリアマスタ―を討伐せよ、とのことだ。その標的がどういう容姿なのか、どのような存在なのかの説明は一切ない。そして、それを討伐するために争え、とのお達しだ」
「争う……? 未来にいるそのエリアマスターと?」
未来にはルカのような存在もいたから、戦うとするならその謎の討伐対象ぐらいだろう。そう思ったけど、カイネ王はゆるやかに首を振った。
「どうやらそうではないらしい。争いは同じく未来を変えようとする者たち――、この世界のモノだ」
「え、私たち以外にもいるの?」
「先ほどニドゥカ殿が言っただろう。全世界にこのアトラが配られたと。基本的には一つの国に一つ。加えて神はこうも言った、未来を変えた者一人の、願いを一つ叶えると」
「だから争うの? その願いのために?」
生きている人たち同士で傷つけ合うことほど悲しいことはない。私なんてその気がなくても、モノを苦しめてしまうから、特にそう感じる。
「……人間は褒賞のためなら悪魔にだって縋る。そういう生き物なんだよ」
ニドゥカの声はいつものようだったけど、どこか疲れたような、棘のあるような、何かを悟ったような物言いだった。
認めたくないけど、彼女の言う通りなんだ。誰だって褒められたいし、お金が欲しい。その欲が、人間をここまで成長させたんだから、悪いことばかりじゃないことは、わかっている。
わかっているけど、ちょっとだけ、心が蹲ってしまう。
「だが、拙者たちはその未来救済バトルロワイアルでの報酬に興味はない。本気で未来を変えるつもりだ。そのためにアトラに配信機能を付与してもらったのだ」
「ごめん、よくわからないんだけど。というかわざわざ付与してもらったの? 誰に?」
「無論、これを創り出した神にだ。アトラには神からの加護が一つつけられることになっていてな。それで配信するのに必要な機能をつけてもらった」
最早いまさら驚くこともない。未来が跳躍できることや神がいること、それらに比べれば、謎の機能の話なんてどうだって良かった。
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