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懲罰

謹慎中の侍女。

テレーザ王女の農場訪問の帰り道、

王女を乗せた馬車が迷わせ鳥に襲われた。

これは由々しき事態だ。

王女一行が城に戻るや否や、王女を含め全員が国王の謁見室に呼ばれた。


「王の謁見室」

通称、お仕置き部屋とも呼ばれている、何か問題が起きた時に呼び出される部屋だ。


荘厳な扉を開け、中に入るように促されるテレーザ王女、カイ、エレイン、エマ、そして第一侍女、レイア、護衛の騎馬兵たち。


王の謁見室、とはいうもののその場に国王の姿はない。

今回の事態は、国王が自ら出向くほどのものではない、ということだ。


王の不在を見て、安堵の表情をうかべるレイア。

王の名代として現れたのは、重臣でもある参謀、ファロームだった。


ファロームが書類を読みながら、事の次第を確認する。

テレーザたちは今戻ったばかりだというのに、すでに詳細な報告書が出来上がっている。


「姫君がご無事だったのがせめてもの救いだ。しかし、なぜ姫をお守りできなかった」

とファローム。

その言葉をカイがうなだれながら聞いている。


みな伏し目がちで下を向いている中、テレーザ王女だけが正面を見ていた。

表情を曇らせることもなく。


「だったらいいじゃない」

と一言呟くテレーザ。


その言葉に対して、

「王女、何をおっしゃるのですか。貴女様にもしもの事があったらどうなさるおつもりでしょう。

この者たちは、身を犠牲にしてでも王女をお守りする、それが使命でございます。

それを疎かにしたのですよ」

とファロームが声高に言う。


その後も事実確認が続き、エマはもちろん第一侍女、レイアもカイも一言も弁明も許されず、

謁見室での尋問が終わった時にはすっかり夜になっていた。


やっと解放されたテレーザ王女とお付きの者たち。

テレーザ王女はそのまま自室に向かい、レイアとエレインが従う。

エマは宿舎に戻る様に指示された。


部屋に戻ると、同室の4人が出迎えてくれた。

朝この部屋を出たのが、ものすごく前の事の様だ。


「お帰り、なんか大変だってんだって?」

とルナ・ルイーズ。


「夕食、持ってきてあるからここで食べて」

アレクサンドラが食堂から食事を運んでくれていたのだ。


宿舎の部屋の小さなテーブルでひとり夕食をとるエマ。

今日の事は、他言しないようにと先ほどのファロームから言われていた。


しかし、外出から戻るなり王の執務室の並ぶ部屋に呼びつかけられた、この事実はすでに宿舎の中では噂になっており、部屋の先輩、ルイスとエレナもエマから話を聞きたがっているのがよくわかる。


「今日の事は話せないんだよ」

とだけエマが言う。


みながそれで諦めてくれるか、それはわからなかったが、エマはとにかく、

疲れた体を早く休めたかった。


風呂を使い、そして倒れこむようにベッドに入った。

そしてすぐに、深い眠りに落ちていた。


よく朝、部屋のドアを叩く音で目を覚ましたエマ。


「こんな朝から、誰よ」

そう言いながらアレクサンドラが扉を開ける。


すると、

「ここに、テレーザ王女侍女、エマはいるか」

と声がした。


「はい、私です」

と慌ててエマがガウンを羽織りドアへと向かう。


「本日、お前には謹慎を命じる。明日のこの時間までここを出ることはできない。

そのまま、この部屋で過ごすように」

と役人の制服を着た女性が言い放った。


「昨日のこと?」

とエマが聞くが、


「そうだ、それでは謹んで従え」

とまた冷たく言う。


「ほかの人たちは?テレーザ王女は?」

とエマが続けて聞くが、


「おまえに質問する権利はない、それでは」

それだけを言うと、役人服の女性は部屋を去って行った。


「あれ、懲罰委員会の役人よ」

とルイス。


「ま、だいたい想像はつくわ。エマ、仕方ないわね、今日は大人しくここで過ごすこと」

とルイス。


王女随行の際、何かしらの不手際があった、それでおつきの者たちが罰せられる。

王宮ではよくあることだ。


部屋からは出られないが、食事は届けてもらえるのだそうだ。

ルイスやエレナたちが任務のため部屋を出ると、一人取り残されるエマ。


「エレインはどうなったのかしら。同じように謹慎かな」

と一人つぶやくエマ。


ここで、明日の朝まで過ごすように、と言われたものの、

他には何の指示もない。

何をしてよいのか、何をしてはいけないのか。


仕方なく、ルナ・ルイーズが貸してくれた雑誌を読むエマ。

これは美の国や他の五大王国の王族、特に姫君たちを特集したものだ。

なかでも、美の国の「三姉妹」は見開き全面の大きなカラー記事だ。


「ほんとに、おきれい」

その姿に見とれながら思わず声が出る。

そのページの片隅に、第4王女、テレーザ様の日常、というコーナーがあった。

テレーザの顔もよくわからないほどの小さな記事だ。


「テレーザ様だってお美しいのに」

農場で見た、テレーザの笑顔が脳裏によぎるエマ。

その姿は、姉姫たちにも劣らない。


その時、バタバタと廊下を走る音が聞こえたと思うと、

バン、とドアが開き同室のルイスをはじめ同室のみんなが駆け込んできた、息を切らしながら。


「ねえ、昨日の事ってそんなにおおごとだったの?」

と口々に叫ぶ4人。


「昨日、テレーザ王女に同行した全員、退去処分だって!あなた以外。第一侍女のレイアさんもよ、代々王宮に仕える家柄なのに」

とルイスが言う。


「え?退去って、クビってことでしょ?そんなに?」

と驚きいうエマ。


「エレインに会えないかな」

そう言いながら部屋を出ようとするエマを、ルイスとエレナが必死に止めた。


「あなただって謹慎中なのよ、そんなことしたら罰が重くなるわ、あなたまで退去になったらどうするの!」

と言いながらエマを押しとどまらせる二人。

同室の4人に囲まれて、部屋の奥に連れ戻されるエマ。


「退去って」

とエマはすっかり混乱していた。


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