ビューティーコンテスト、マダム部門
コンテストの準備始動
「ビューティーコンテスト、マダム部門よ」
と葵がスマホを見せながら言った。
「私さ、このコンテストのキッズ部門に出たことがあるの。
予選は勝ち抜いて、本選1回戦で敗退だったけど」
と葵。
「ねーちゃん、特技だって変顔やったら審査員ドン引きして落とされたってやつだよな」
と駆も言う。
「違うわよ、あんたが客席で愚図って、泣き声が響き渡ってさ、会場に気を取られたからよ」
と葵が言い返した。
「そういえば、葵はコンテストに出たのよね、いくつの頃だったかしら。
お洋服選んで、写真撮って、なんか楽しかったわね」
と瑛子。
その頃、唯一の娘である葵は愛らしく、つい自慢したくなった瑛子がコンテストに応募したのだ。
孝太郎は、無関心を装いも内心では応援をしていたようだ。
いつもなら
「子供の散髪に高額を出すなんて、勿体無い」
と難癖をつける、葵の美容室代を文句も言わずに支払った。
その時摂った写真は、今でもリビングに飾ってあった。
最先端のキッズファッションに身を包み、おしゃれなヘアスタイル、そしてメイク。
そんな幼い頃の葵が笑顔で写っている。
「ほら、これよ、かわいいでしょ、私」
その写真をテレーザに見せながら葵が言った。
「わあ、このポーズ、雑誌で見たことがあるわ」
とテレーザ。
美の国でも様々なファッション誌がある。
その中には、キッズ対象のものもあるのだ。
「お姉さまたちはよく載っていたわ。そんな雑誌に」
とテレーザ。
「さすが美の国の王女ね、で、テレーザあんたは?」
と葵が聞くが、テレーザは無言で首を振るだけだ。
「聞くなよ、そんなこと」
と尊が葵を小突きながら言った。
この頃はもうテレーザの美の国王宮での待遇をみな理解していた。
そんな中、尊は疎んじられていた様子を聞くのを特に嫌っていたのだ。
「ま、気にしてないけどね」
とテレーザが言ってもだ。
「コンテストに出るのはいいが」
と孝太郎が口を出した。
「魔法の使用は禁止されているだろう、テレーザの力、それは魔法じゃないのか。
どうするつもりなんだ?」
と。
倭の国で行われるビューティーコンテスト、その本番はもちろん、応募書類、画像、衣装、などに魔法を使用することは禁止されている。
「だよな、ぶちゃいくなおばちゃんを魔法で超絶美女にとか、審査員の心に魔法かけて意図する候補者を選ばせるとか、そんなことになりそうだもんな」
と駆が言う。
「だからね、瑛子さんの心のトレーニングするの。
それには少しだけ、私の力を使うけど、それは違反にはなならないでしょ」
とテレーザ。
「毎日、30分、道場で私と修行する時間を作ってもらいたいの」
と続けた。
「修行だって、なんか武道みたいじゃん」
と葵。
「おもしれー」
と駆。
「家の事は俺たちで何とかするから、母さんぜひ」
と尊。
「じゃ、私も協力する。
パパ、自分の事は自分でやってよね、ママの修行中に、おい、母さんあれは何処だ、これは何処だ、とか言って邪魔しないんだよ」
と葵が言った、チラリと孝太郎を見ながら。
「母さんが真剣にやると言うなら、俺だって協力する」
と孝太郎が言うが、イマイチ声が小さかった。
「じゃあ、頑張るか、私」
と瑛子。
正直、ビューティーコンテストなどには興味はない。
マダムになりたいわけでもない。
今よし少しは、自分を磨いてみたいとは思っているが。
「私に任せて」
そういうテレーザの輝く瞳を見ると、
何故か瑛子にもやる気が湧いてきていた。
瑛子の修行は、翌週、水曜日からと決まった。
尊や葵は母の日翌日すぐから、と希望したのだが、
家事の段取りを確認してから、と孝太郎が意見をだしたのだ。
「たかが、30分、ママがいないとそんなに困るの?」
と葵はあきれ顔だ。
「でも姉ちゃんもでしょ」
と駆に突っ込まれる葵。
「それで、修行ってのは時間的にはいつがいいのよ?」
と葵が聞く。
「朝がいいわ。朝陽が力を貸してくれるから。まだ邪険のない朝の空気、これがとても効果的なの」
とテレーザ。
瑛子は普段から朝は早起きだ。
家族の誰よりも先に起きている。
「じゃ、決まりだ。朝一番で、母さんは道場へ」
と尊。
「朝ごはんは、私たちで何とかするから、気にしないで」
と葵。
「言ったな?」
と孝太郎。
「その前に、お前たち、自力で起きるんだぞ」
と尊が葵と駆、そして父に向かい言う。
「引きこもりのあんた、昼夜が逆転野郎に言われたくないわ。
お弁当も自分で作るから、ママ、きにしないで、修行に専念してね」
と葵が胸をはって言った。
「でも、2,3にちでいいから、準備期間をもらえない?」
と葵が今度は少し小さな声で言った。
翌、月曜日。
「準備期間」だ。
葵は早起きをして、朝食の段取りを瑛子から習得しようとしていた。
駆も自力で起きだし、普段は朝食にはほぼ現れない尊の姿もある。
そんな子供たちをみて、
「やればできるじゃないか」
と孝太郎。
その朝、最後に台所に現れたのはテレーザだった。
「いろいろプランを練っていたら、眠れなくなっちゃって」
と寝坊の言い訳をしながら。
そして、瑛子の指示のもと、葵が中心となり朝食の準備、出かける支度を整えた。
なかなか手際のよい葵。
そんな葵に、成長を感じた孝太郎。
喜びと少しの寂しさが入り混じっていた。
そんな思いを引きずりながら、出勤してみると。
限られた管理職に宛てた通達が届いていた。
「身分の高いお方が、特別な旅行者として倭の国を訪問予定。詳細は後ほど。この件に関して一切の口外を禁じる」
と。
そこには、赤字で大きく「最重要機密」と記されていた。
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