スーパーマーケットロイヤル
高級スーパーはどんなところ?
「なんだ、誰がたまには役たつだ?」
そう言って立っていた孝太郎。
たまたま葵の部屋の前を通りかかり、開いていたドアから中を覗くと
皆が楽しそうに話しているではないか、つい近くで聞き耳をたてていたのだ。
「あ、パパ、いいとことに」
と葵。
葵は孝太郎を「パパ」と呼ぶ、
尊と駆は「おやじ」または「父さん」だ。
「ねえ、テレーザが買い物をしたいらしいんだけど、スーパーマーケットロイヤルじゃないと売っていの、あそこ、普通には入れないじゃない、パパのIDカード、貸してよ」
と葵。
「何が買いたいんだ、ロイヤルでたなんて。近所ではダメなのかい?」
と孝太郎がテレーザに聞くが、
「あの、そうなんです。」
と口ごもるテレーザ。
夕食会のことは孝太郎にもまだ知らせていない。
「パパァー、もうすぐ母の日よ、察してよ」
と葵が目配せをする。
「そうか、じゃ仕方ない、でも父さんも一緒に行く」
と孝太郎が言った。
そして、とある週末、土曜日。
明日はいよいよ母のい日だ。
その日、瑛子は昼前から美容室へ出かけて行った。
その留守の間に、みんなでスーパーマーケットロイヤルへと買い物に行く予定だ。
瑛子が外出したのを見届けると、孝太郎、尊、葵、駆、そしてテレーザが車に乗り込んだ。
孝太郎の運転する車は、小一時間車を走らせ、スーパーマーケットロイヤルへと向かった。
スーパーマーケットロイヤルは、孝太郎が務める官庁街近くにある。
ここには他にも有名ブランドの店舗や、高級レストランが並ぶ。
その街並みは、どこかハイセンスな香りが漂う。
車はスーパーマーケットロイヤルの地下駐車場へと入った。
そこには、高級車がずらりと並んでおり、孝太郎のいわゆる「大衆車」は肩身が狭い。
「すご、あんな車、ほんとに乗ってる人っているんだ」
と目を丸くしながら葵が言う。
「テレーザなら珍しくないんでしょ、こんな高級車」
と葵はサラリと言ったが、尊がそれを制止した。
「5大王国は未だに馬車だから」
と。
「そうね、車はないわ。でもダイヤモンドがはめ込まれている馬車よ」
と自慢げなテレーザ。
豪華な装飾が施されていた馬車。
馬はぴかぴかに磨きあげられたサラブレッド、馬車の内装はビロード、いたるところにダイヤモンドや金銀がちりばめられていた。
ほんの数度だが、父であり国王と同じ馬車に乗ったことがある。
それが、その豪華な馬車だ。
テレーザが一人で乗る馬車とはけた違いな、大きくてきらびやかな馬車。
父と母、姉と弟と共にその豪華な馬車に揺られ、周囲の国民の大きな歓声、舞い散る花びらの間を駆け抜ける。
そんな豪華な馬車よりも、この大衆車のほうが好きだ、乗り心地もなにもかも。
テレーザは思う。
車の中で、みんなで話し笑う。
それがとてつもなく心地よい。
車の中で、テレーザは母の日の夕食計画を孝太郎にも話した。
買い物に同行となれば、これ以上隠しておくわけにはいかない。
「瑛子のために、そんな高級食材を」
と孝太郎。
「あいつに味がわかるのか?まるで猫に小判だ」
と続ける。
「いつも落ち着いてお夕食を召し上がれないようですから、明日はゆっくりとくつろいでいただきたいの」
とテレーザ。
少しだけ、孝太郎に嫌味を言ったつもりだ。
スーパーマーケットロイヤル。
入り口で孝太郎が自分のIDカードを見せる。
すると、ドアマンが入り口を開けてくれた、うやうやしくお辞儀をしながら、一行を店内へと招き入れた。
「まずは、ゴールデンコーン、深海フカヒレ、ほろほろの実、エモーシュオイルを探すわ、
これだけは外せないから」
と店内に入ると周囲を見渡しながらテレーザが言う。
クラシック音楽が流れる店内は広く、商品はすべてが品よく並べられている。
その一角にある生鮮野菜のコーナーで、ゴールデンコーンを探すテレーザ。
目当ての品を見つけるや否や、値段も見ずにカートに放り込んだ。
それから鮮魚売り場では深海フカヒレだ。
すぐに見つかったが、テレーザはその場にいた店員にあれこれを注文を付けた。
テレーザの希望通りに深海フカヒレを調理した店員が、
「お嬢さん、こだわってますね、こんな注文をなさるとは、まるで高貴な方への食事だ」
と驚きながら言った。
ほろほろの実、これもテレーザは彩の国で摂れたものを指定した。
彩の国産のほろほろの実は別格な品だ。
倭の国ではここスーパーマーケットロイヤルでしか扱っていない。
エモーシュオイルは調味料の売り場にあった。
沢山の種類が並んでいる。
その中から、一つの瓶を取ろうとしたとき、
同じように手をのばした婦人がいた。
「あら、お嬢さんもこちらを?お目が高いのね」
と夫人が笑う。
その身だしなみからして、上流階級のご婦人だ。
「この国でお世話になっているお宅で母の日にディナーを作りたいんです」
とテレーザが言う。
テレーザの風貌から異国の旅行者であることは明確だ。
そんな異国の少女が、料理を振舞いたい、そんなことを言っている。
「まあ、なんて健気なんでしょう」
とご婦人がテレーザの手を取りながら言う。
「ちょっと」
とご婦人が店員を呼びつける。
「こちらのお嬢さんに、あのお品を分けて差し上げて。
お代はわたくしが」
と言いながら。
そう言われた店員が、奥から持ってきたのは桐の箱に入ったエモーシュオイルだった。
年に数本しか出回らない幻の逸品だそうだ。
「これはわたくしから貴女に贈らせてほしいの」
そう言いながら婦人が桐の箱をテレーザに手渡した。
「あの、ありがたいのですが、いただけません。
食材はすべて私が自力で調達するって決めているんです。
お支払いをさせてください」
とテレーザ。
その言葉に、
「あら、そうなのね、素晴らしい心がけだわ。ではコインを一枚だけ頂いていいかしら」
と答える婦人。
それにテレーザも同意し、自分の財布から一枚の金貨をとりだして、夫人に手渡した。
「じゃあ、素晴らしいお夕食を。またお会いしましょうね」
コインを受け取り、そう言いながら婦人は立ち去って行った。
「これは、高貴なお方ね」
コインをみた婦人が小さくそうつぶやいていたい。
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