「褒められる」喜び
褒められた、余韻は続いています
初めての中学校でに一日を終え、道場内の自分の部屋に戻ったテレーザ。
その足取りが軽い。
そのまま道場の掃除を始めるテレーザ。
なんだか、その姿は軽快で嬉しそうだ。
そんな時、道場にかつての門下生がやって来た。
オオヤマを含め数人だ。
「テレーザちゃん、道場荒らしがあったんだってね。大丈夫だったかい?」
とオオヤマが言う。
ノジマの病院に行く日、この鳳凰館が復活したのではと、暴漢たちが乱入してきたのだ
「ええ、大丈夫でした、おじ様と尊さんが立ち向かってくださって」
とテレーザ。
事の顛末は既に知っているオオシマだったが、テレーザが少なからずショックを受けていないか、心配していたのだ。
「まあ、何もなくてよかった。孝太郎君の剣術の腕前はまってく衰えていないようだな、
それに尊君も筋が言い。この道場を閉めてしまうのは、本当に惜しいんだよ」
とオオシマが言う。
そんなオオシマの言葉を聞きながら、テレーザは道場の掃除に余念がない。
かつて、瑛子が掃除をしていた頃に比べると、どこもピカピカでチリひとつない。
「それにしても、テレーザちゃんが来てくれてから、この道場が明るくなった。ホコリを丁寧に払ってくれているお陰だ。なんだか息を吹き返したようだよ、ありがとう」
とオオシマ。
その言葉に手を止めるテレーザ。
「ありがとう」
その言葉が心にしみる。
美の国でも「ありがとう」と言われたことはある。
年に何度か、国民から選ばれた者たちが王宮に招かれていた。
帰り際に王宮グッズのお土産を渡すのだが、
テレーザから渡された者は、大抵一瞬がっかりとした顔になった。
そして、うやうやしくお土産を受け取りながら、
「ありがとうございます」
と頭を下げるのだが、ちっともありがたそうではなかった。
心のこもらない、「ありがとう」そんな言葉ばかりを聞いてきた。
いま、オオシマが言った「ありがとう」の言葉は全くの別物だった。
テレーザ少し笑いながら、そしてその笑顔を隠すようにオオシマに背を向けていた。
その日の夕食どき、
食卓には孝太郎を除く全員がいた。
帰るのが遅かった葵は、この夕食のときにテレーザの学校での様子を根掘り葉掘り聞いていた。
また、嬉しそうに話すテレーザ。
「そっか、よかったね。今度は私の高校へおいでよ」
と葵。
「学校」に好印象をもったテレーザは葵の誘いに頷いた。
「でもね、皆さん、将来の夢がちゃんとあるんですね」
とテレーザが言う。
「グローバルな社会に対応できる人になる、とかいうやつでしょ。
流行ってんの?グローバルって」
と葵。
ここ、倭の国では学校で、世界規模で活躍できる人材の育成に力をいれてるのだそうだ。
そのため、将来のビジョンを明確にさせておく、そういう機会が多くあるのだと、葵が説明した。
その話を聞いて、目をまるくするテレーザ。
「グローバルですか」
とため息交じりだ。
「美の国で国民には、王に忠誠を誓い、国のために尽くすこと、これが最も順守されることだ教えられるときいています」
「わ、中世かよ?」
と駆。
「5大王国は結構保守的なんだね、じゃテレーザもそんな風に思っていたの?」
と尊が聞いた。
「私は、将来の夢とか考えたことがなくて、国と王家のために決められた事に従う、それだけでした」
とテレーザ。
「うわっ、それって王に死ねって言われたらそうすんの?」
と駆。
王の決定により消滅させたられたテレーザ。
姉のお陰でここに逃げおおせたが、まさに、駆の言った通り、王の言葉に何の疑問も持たず従った。
「でもせっかく、倭の国に来たんだから、あなたも考えてごらんなさいよ、将来の夢」
と瑛子が言った。
「将来の夢か」
そう言うテレーザは夢見るような表情だ。
そんな時、孝太郎が帰宅した。
すぐに食卓に着くと、瑛子に一言、
「めし」
と言う。
まだ食事の途中の瑛子が席を立ち、孝太郎の夕食を準備する。
今夜の孝太郎はいささか機嫌が悪いのか、瑛子の渡す皿を取る仕草が荒っぽい。
「茶」
と一言。
すぐに熱いお茶を入れる瑛子。
そうこうしている間に、尊も葵も駆も、席を立ち自室に戻って行った。
こういう時の父には近寄らないのが一番だ、そう言いたげにしながら。
「テレーザもお部屋に戻ったほうがいいわよ」
と葵が耳打ちをした。
その言葉を遮るように、
「学校は、どうだった?」
と孝太郎がテレーザに聞く。
さすがにその言葉は少し穏やかだ。
学校はとても楽しく、友達も出来たことを話すテレーザ。
一応、笑顔で孝太郎は聞いているが、無言で自分の茶碗を指さしていた。
瑛子に「おかわり」を要求していたのだ。
瑛子から差し出された茶碗を、ひったくるように受け取る孝太郎。
それでも、瑛子は何も言わない。
テレーザも早めに自室に戻った。
なんとなく食卓に孝太郎と瑛子だけにするのは、気が引けたのだがこの場にこれ以上いるのは嫌だったのだ。
「おじ様はなんで瑛子さんにあんなに意地悪なんだろう」
とテレーザは思う。
ここに来てから、孝太郎が瑛子につたく当たる場面を何度も見た。
しかし、瑛子は言い返すわけでもなくいつも態度を変えず、平静としていた。
「お母様だったら逆上しているわ」
とテレーザ。
父である国王は絶対的な力をもつが、母、王妃は自分の意見ははっきりと父に物申していた。
もしも、母が反対していたら、自分が消滅させられることはなかったのかもしれない。
そんなことがふと頭をよぎったが、
「そんな事ある訳ないじゃない」
とその思いを打ち消した。
でも瑛子は、なんであんなに、静かで穏やかでいられるんだろう。
「あれでいいのかしら。平気なわけないわよね、私が何か役に立てるといいんだけど」
そんなことを考えはしたものの、疲れのためか睡魔に襲われて、あっという間に眠りの中にいた。
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