普通の会話
お昼休みはお喋りタイム、女子のお約束
給食を食べ終わるのは最後になったが、お昼休みが終わるまでにはまだ十分に時間がある。
教室の外に出たがっている様子のテレーザを察して、
「校庭に行ってみる?」
とたまきが声をかけた。
たまきとテレーザ、そして数名の女性で校庭にむかった。
5階建ての校舎の正面にある「校庭」
「校庭」というところでは運動の授業をやったり、全校集会が行われたりするのだそうだ。
テレーザはこっそりとタブレットで調べていた。
昼休みの校庭は生徒たちが好きに使うことができた。
ビニールボールを使って野球をしたり、サッカーをしたり、ただ、走っている生徒もいる。
そのほとんどは男子生徒だった。
女子はと言うと、あちらこちらに数名で集まって話をしている。
そんな集団がいくつもあった。
たまきについて歩いていくと、そこは校庭脇の木陰だった。
みんなはよくここに来るのか慣れた様子で、それぞれベンチに座ったり植えられている大きな木に寄りかかったりしている。
「テレーザ、こちらへどうぞ」
とあかねがベンチの真ん中をあけてくれた。
それから、
他愛もない話をした。
テレーザが言いにくい事、触れられたくない話題、に話が行かないようにたまきが上手く誘導する。
みんな、学校の事、家の事、男子の事、将来の事をいろいろと話した。
「みんな自分の夢ってあるのね」
とテレーザ。
ここのみんなは堂々と将来の目標を語る。
自分には許されなかったことだ。
そもそも考えたこともない。
「テレーザにはないの?将来の夢」
とあかね。
あかねもテレーザが何かを隠していることには気付いていた。
だが、自分から言い始めたんだ、何か言いたいのかもしれない、そう思ったのだ。
「私は、平穏に暮らせればそれでいい」
とテレーザが言う。
「え??そうなの?意外だわ。じゃ、普通に誰かと結婚して子供ができて、家庭を守る主婦になるのが夢、とか?」
と周囲に突っ込まれた。
平穏な将来を望むのは稀なケースの様だ。
誰かと結婚、かあ。
自分は彩の国のホイ王子と結婚するはずだった。
それは平穏な日々につながったのだろうか。
国と国のために仕組まれた、当人の意思などまるで考慮されていない「結婚」
「じゃあさ、テレーザの好きなタイプってどんなのよ?」
とあかねが聞いた。
返答に困るテレーザ。
誰かと結婚する平穏な日々と好きなタイプに何の関係があるのだろうか。
「今まで付き合った男子とかいるの?」
とほかの子が聞く。
そうか、そういえば、愛する者同士が家庭を持つことを結婚と言う、エマもそう言ってたっけ。
だから好きなタイプなんだ。
好きなタイプ、
美の国の王宮には大勢の若い男性が出入りをしていた。
貴族の子息や軍の幹部候補生など。
姉である第二王女のカタリナ・オルセウスと第三王女のユリアナ・マーガレットはそんな男性を見ながらよくコソコソ話していた。
「あの殿方、素敵」とか
「あのお方、今夜の夜会でエスコートしてくださらないかしら」
とか。
しかし、テレーザのは王宮で見かけた若い「殿方」たちの姿がぼんやりとしか思い出せない。
記憶の混濁の影響などではなく、元から興味もなかったので覚えていないのだ。
「好きな、タイプねえ」
テレーザ、
「頼りがいがある人がいいわ」
そう言った時、脳裏には尊の姿が浮かんでいた。
記憶の混濁に真っ先に気付いてくれたの尊だった。
道場が襲撃された時にも、かばって逃がしてくれた。
滞在許可証をもらうための面談にも付き添ってくれた。
「で、具体的にそんな人いるの?」
とあかね。
テレーザの頬が少しだけ赤くなっているのをしっかり見ていた。
「い、い、いないって」
とテレーザが言う。
「ふうん、いないのね」
と意味有り気に言うあかね。
テレーザの本心とは裏腹に、あかねは駆がテレーザの意中の人なのではないのか、と感じていた。
いくら旅行者だとは言っても、あの駆が一緒に登校した女子だ。
それに、教室でもここ校庭でも、テレーザは何気に駆を目で追っていた。
「意中の人は、あいつだよね。こりゃあ、一波乱ありそうだ」
とあかねは密かに思った。
「もうお昼休みが終わるわ、教室に戻りましょう」
とテレーザ。
ベンチから立ち上がり、校舎に向かって歩き出した、かなりの速足で。
見れば、校舎に掛かっている大きな時計は、午後の授業開始まであと数分となっていた。
笑顔で何か話ながら、たまきとならんで小走りで校庭を駆け抜けるテレーザ。
「やっと普通の子っぽくなってきたわね」
とあかねが言う。
「もっと、あんたのことを知りたくなってきた」
あかねは小さく呟いていた。
応援していただけるとうれしいです。




