はじめての「通学」
登校も一苦労のテレーザ
「じゃ、行ってくる」
そう言う駆と、
「それでは、行ってまいります」
ときちんとお辞儀をして家を出るテレーザ。
「育ちの違いってやつかしら」
と二人の姿を見た瑛子が言う。
その言葉には答えず、
「あいつ、やるじゃん」
と葵がつぶやいた。
出掛けの挨拶に対してではなく、テレーザの荷物をさりげなく持ってやったことにだ。
駆はごく自然にテレーザの鞄を自分の荷物と一緒に抱えて、そのまま歩き出した。
テレーザもそのことには何も触れない、当然、お礼も言ってはいなかった。
たぶん、気付いていないのだ。
テレーザにとって、大きな荷物を自分で持つ、そんなことはあり得ないし、
それをお付きの者が持ったとしても、ごく当たり前の事だ。
王女として過ごしていたころ、自分の荷物を従者が持ったとしても、礼など言ったことはないだろう。
駆の通う学校は、自宅から歩いて15分ほど場所にある。
このあたりに住んでいる同年代は、皆同じ学校に通っているので、
通学路となる一本道は、大勢の生徒たちが歩いていた。
「駆、おはよー」
男子生徒がそう言いながら、駆に近寄ってきたが、隣のテレーザを見るなり、
「やばい」
そう言って、駆から離れて行った。
その後も、数人の友人と思われる男子が駆に声をかけるが、テレーザの姿を見ると気まずそうにその場を立ち去って行った。
そんな友人たちに目もくれず、駆はテレーザの歩調にあわせながら歩く。
そもそも、15分なんて歩けるのか、そこまでは気付かなかったが王女なら移動は馬車だろう。
「こんなに歩いて大丈夫?」
と駆がテレーザに問う。
「え?大丈夫よ。私よく森を散策していて、何時間も普通に歩いてるもの」
とテレーザ。
王宮の奥に広がる、ベルデの森。
テレーザのお気に入りの場所だ。
ベルデの森を平気で歩くテレーザだが、道は土で周囲の木々がマイナスイオンを与えてくれていた。
しかし、今歩いているのは固い地面、舗装された道路だ。
だんだんと足の痛みを感じるテレーザ。
歩みがどんどんと遅くなる。
「どうした?」
と駆が聞く。
「なんでもありません」
そう言い歩調を早めるテレーザだが、またすぐに遅くなる。
そして足を引きずり始めていた。
「足、痛い?」
その姿で察した駆が言うが、
「いえ、大丈夫です」
と頑なに言うテレーザ。
家を出てから5,6分が経っていた。
学校まで半分くらいの距離だ。
「その靴」
テレーザの足元を見た駆が言う。
その日のテレーザの靴は、倭の国に飛ばれてきた時から履いているものだ。
倭の国の若者たちはあまり履かないデザインだ。
そういえば、テレーザはここに来て洋服などは買ったようだが、靴はもともと履いていたものだった。
「その靴じゃ、アスファルトの道路は歩きにくいだろう」
と駆が言う。
「俺が家に引き返して、葵のスニーカー借りてくるから、ここで待ってろ」
駆はそう言うと引き返そうとした。
「それだと、遅れてしまいます。遅刻はしないようにとおじ様に言われました」
とテレーザ。
「私は、ゆっくりと歩きますので、駆さんは先に行ってください」
と続けた。
登校時間としては、そろそろ遅い部類に入る時間帯だ。
周囲にいる登校中の生徒たちも、気持ち足早に通り過ぎていく。
「置いていけるかよ」
と尊は言い放つ。
そこに、チリンチリンとベルの音がした。
振り返ると、自転車に乗った女子生徒がいた。
「都留田くん、急がないと遅れるよ」
そう言いながら自転車を押しながら二人に近づく女子生徒。
「じゃ、あなた後ろに乗ってよ」
とその女子生徒はいきなりテレーザに話しかけた。
背後から二人の様子を見ており、テレーザの足に何か問題があるとわかっていたのだ。
「いいのか?じゃ頼むわ」
と駆。
テレーザはどうし良いかわからない様子だ。
「テレーザ、こいつはたまき。同級生だ。お前はたまきの自転車に乗せてもらってくれ。
学校についたら、先生に相談してその靴、なんとかしよう」
と駆が言う。
「自転車、に乗る?」
「どうやって?」
「自転車ってこんなに普通に道を走っているんだ」
テレーザの頭にそんなことがよぎった。
「タブレットで調べたい」
疑問でいっぱいのテレーザ。
自分はこの自転車の「後ろ」に乗る、それはわかった。
でも、どうやって?
「こいつ、異国からの旅行者だ。自転車なんか乗ったことないらしい」
と駆が言うと、
「そんなの見りゃわかるわよ。異国の人だって」
とたまき。
「あのね、あなたここに座って」
と自転車の後ろを指さすたまき。
「私がこうやって、漕ぐから」
と先に自転車にまたぐたまき。
「まるで二人乗りの馬のようだ」
とテレーザは思った。
美の国にも自転車はあるが、王宮付近は坂道が多くほとんど利用している者はいない。
もちろん、王宮内でもだ。
テレーザはこの自転車と言う乗り物を写真でしか、見たことがなかったのだ。
たまきの後ろに座るテレーザ。
もちろん、またいで座ったのではなく、横向きにで足をそろえている。
「ここに捕まっててね」
とサドルの隅を持つように言うたまき。
「じゃ、お先に」
そう言うとたまきはテレーザを乗せた自転車をこぎだした。
「あらためて、私はたまき、よろしくね」
と前を向きながらテレーザに言うたまき。
「あの、私はテレーザといいます」
テレーザも自分の名を伝える。
「うちにも何年か前、旅行者が来ていたわ」
とたまき。
テレーザに興味津々のたまきは二人乗りしながら、いろいろと話しかける。
「ねえ、お国はどちら?」
「故郷ではなにをしてたの?」
「兄弟はいるの?」
などなど、矢継ぎ早に聞くたまき。
「姉が3人と弟が1人いるわ」
とテレーザ。
たまきから聞かれたことで、正直に答えられるのはこれだけだった。
「さ、校門到着、余裕で間に合ったわね」
たまきがそう言うと、自転車は何かの入り口をくぐった。
「これは校門っていうんだ」
とテレーザ。
たまきは校門を入ってすぐ横にある駐輪スペースまで自転車を走らせるとそこで止まった。
「さ、着いたわ。降りて」
とたまき。
足はまだ少しジンジンしていたが、先ほどよりはましだ。
たまきと並んで校舎に向かうテレーザ。
校舎への入り口に数人の生徒がいる。
皆、テレーザとたまきを見つけると、駆け寄って来た。
「ねえ、あの駆くんが女子と登校?」
「あなた、あの都留田くんの家にいるの?」
「あの津留田くんと一緒に来たの?」
そこにいた女子が口々に言う。
その子たちのは羨望と妬みの入り混じる視線でテレーザを見つめていた。
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