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これが私の生きる道~国を追われた美の国第4王女~「私が貴女をマダムに変える、美の国王女の名に懸けて」  作者: 明けの明星


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記憶の戻り方

テレーザは何処に?

「どこかへ、ここから離れて」

テレーザの頭の中はその思いだけだった。

もう涙はとまり、ほほに出来た筋も消えていた。


薄暗い廊下を走ると突き当りに「非常口」とかかれたドアがあった。

カギはかかっておらず、開けて外に出ると階段につながっていた。

テレーザがいたのは3階、まずは地上に降りなければ。


錆びついた手すり、そして何か金属音のする踏板、なんだろうこの階段、こんなのは初めて見る。

なんだか揺れるし、壊れそうなくらいギシギシと音がする。

思わず忍び足でそっと進むテレーザ。


1階に着くと、そこは病院の裏手だった。

この病院、正面には駐車場があり、その奥に5階建ての病棟がある。

いわゆる総合病院で、そこそこの規模でこのあたりの住人達の利用者も多い。


正面口にはそれなりに人の出入りや車の行き来があるが、今テレーザのいる裏側には誰もいない。

薄暗く、こっそり動くにはもってこいだ。


テレーザは道場から車に乗り込む際、咄嗟に持ち出した布バッグから尊にもらったタブレットを取り出した。

この布バッグ、尊からもらったものだった。

「出かけるときに何か入れる者が必要でしょ?」

と尊がテレーザにくれたのだ。


そのバッグには、それまで肌着の間に隠していた金貨と紙幣、それから葵が貸してくれたハンカチやハンドクリーム、

「不愛想なバッグだな」

そう言って何かのキャラクターのキーホルダーを付けてくれたのは駆だった。

そして、尊のタブレットもバッグにしまいこんだ。

その斜め掛けバッグをテレーザは文字通り、「肌身離さず」持ち歩いていたのだ。


このバッグをもらったのが、随分と昔の事の様だ。

ついこの前なのに。

こんな質素な布バッグ、初めて見た。


そもそも、自分で荷物なんか持ったことはない、形式的に持つ小さなバッグは中身が空っぽだった。

豪華な刺繍が施された、一流の品だったのだが。


美の国での生活を思い出した。

荘厳な城。

自分の部屋には豪華な家具と調度品があった。

上等なドレスを着て、持ち物はすべて特注品。


「ついでの姫、なんだけどね」

とテレーザ。


ここで買った洋服、日用品、それらはどれも「庶民的」な品だった。

瑛子の家はテレーザ王女の部屋よりも小さい。


それでも、なぜか安心できた。

雨宿りの軒下で、瑛子に声をかけられて、記憶がないとはいえ警戒もせずに付いて行った。


「だからこそ、巻き込む訳には」

病院の敷地を出て街を歩きながらテレーザは思う。

自分が、すでに「消滅させられた」姫であるということ、それがこの辺境の地で生きているとなれば、

騒動にならないわけがない。


今はただ静かに待つだけだ。

「お姉さまが女王になる日を」

そう強く思ったテレーザが知らない街の中にその姿を消した。



「いなくなった?どういうことなの?」

診察室で大きな声がした。

その大声は瑛子のものだ。


ノジマも看護師たちも、混乱して大騒ぎになっている。

「患者が隙を見て逃げだした」

のだから。


「すみません、完全に私の落ち度です。テレーザのこは病院職員総出で全力で探しております」

とノジマ。


テレーザが診察室からいなくなって、まだ数分だ。

院内どこかに隠れているのだろう。

そう思った職員たちが、病院内をくまなく捜索していた。


「すぐに見つけ出します」

ノジマも同意見で、すぐに見つかるだろう、そう思っているようだ。


瑛子にしても、この地に土地勘のないテレーザが街中に行くとは思えなかった。

それに、自分たちに何も言わずいなくなる、そんなことがあるわけがない。


テレーザの行方を気にかけながらも、ノジマから彼女の現状を聞く瑛子。


「テレーザの記憶は戻っています」

とノジマが言う。


それも、いきなり、完全に記憶が戻ったようだ。

これは異例なことだ、とノジマが言う。


移動魔法で起こる記憶障害は数日をかけて少しずつ回復してくのが通例だ。

それが、数時間、極めて短い時間ですべての記憶が戻った可能性があると言うのだ。


「あり得ないことです。今までそんな症例はありません」

とノジマも首をかしげる。


「そういえば」

と瑛子。


ここに来る車の中で、窓から外を見ていたテレーザ。

その目つきが変わった、と瑛子は思っていた。


「では、車でここに来る間、10分くらいで記憶が戻ったと?」

とノジマが言う。


「あの子の目、瞳の輝きが違ったんです。車の中で外を見ていたあの子の目が」

瑛子がそう言うと、


「これは稀なケースと言えますが、テレーザ自身も魔力を持つのですよね、移動魔法の力と彼女の持つ魔力が何か関係があるのかもしれませんね」

とノジマが見解を言った。


「それから、記憶が戻っても、あの子に動揺はありませんでした。

普通、急にたくさんの事を思い出すとパニックを起こすこともあるのですが、彼女はとても冷静で。

あの子、庶民の子ではないですよね、上流階級のお嬢さんとも違う、何か特別な環境で育ったのでは」

とノジマが続けた。


ノジマはまだテレーザの正体を知らない、しかし何かに気付いていた。

ここで正直に話すべきなのか、瑛子は迷う。


「でも、気になることが」

ノジマは記憶の戻ったテレーザが、「何か」に耐えていることだった。

何か大きな悲しみ?苦しみ?を押し殺すようにしていたあの姿。


「道場で会った時に、そんな感じはありませんでした。

忘れていた記憶に何かあるのでしょう」

とノジマ。


「ならばなお更、みんなで支えてあげないと」

と瑛子。

テレーザが、苦しんでいるなら家族みんなで助ける、力になる。

その「みんな」に孝太郎が入るか否かは不明だが、家族で支える、これは譲れない。


その時、診察室に病院職員が

「院内、くまなく探しましたが、テレーザさんの姿はありません」

と言いながら飛び込んできた。

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