テレーザの「記憶」
ついに思い出したテレーザ
「急いで」
瑛子にそう言われながら手を引かれるテレーザ。
そして、家の裏手の停めている軽自動車へ乗り込んだ。
「さあ、行くわよ」
と瑛子が車のエンジンをかけながら言った。
「尊たちは?」
とテレーザ。
道場に乗り込んできた輩に立ち向かった尊の事が気がかりでしかたない。
「大丈夫よ、お父さんもいるしね、あの人倭剣術の師範だもの、そう簡単にやられたりはしないわよ」
と瑛子は冷静だ。
その言葉に安心したのか、テレーザは静かに息を吸い込み窓から外を見た。
道路わきの風景は流れるように移り変わる。
車はかなりスピードが出ている。
これも、覚えている。
お姉さまに引きずられるように、森を走った。
森に行く前。
そう私は、城にいた。
私の部屋に。
車に揺られながらテレーザは少しずつ思い出している自分の記憶をたどっていた。
自分がどこにいて、誰だったのか。
もやがかかっていた頭の中がすーっと晴れて行くのを感じた。
だんだんと記憶が戻っていく、そんな感じではなく、
すべてをいきなり思い出した。
そう私はテレーザ。
美の国第4王女だ、そしてついでの姫。
「テレーザ?どうしたの、顔色が悪いわ」
と瑛子が言う。
車の運転をしながらも隣のテレーザの事を気にかけている瑛子。
車に乗り込んだ時よりも顔が青ざめているのが分かる。
「だいじようぶよ、乗り物酔いかしらね」
とテレーザ。
「そう、もうすぐ着くから」
と瑛子が言い、車のスピードを上げた。
しばらくすると、瑛子とテレーザを乗せた車は病院敷地内の駐車場へと入った。
そして、院内へ。
受付を済ませると、ノジマが手配していたのかテレーザはすぐに診察室に呼ばれた。
付き添おうとした瑛子をテレーザが静止した。
瑛子には聞かれたくはない、これから話さなくてはならい事を。
待合室に瑛子を残し診察室に入ると、そこには白衣姿のノジマがいた。
ノジマただ一人の様だ、周囲に看護師や病院のスタッフの姿はない。
「先日は、けがの手当てをしていただき、ありがとうございました」
てテレーザが言う。
「けがはもう治ったかしら」
ノジマが笑顔で言いながら、テレーザを自分の前に座らせた。
「今日、来てもらったのはね」
そういうノジマに、
「私の記憶のことですよね。
それならご心配には及びません。私の記憶はもう戻っています。
さっき、すべてを思い出したの」
とテレーザ。
テレーザの目をしっかりと見ながら話しを聞くノジマ。
その言葉は嘘ではないだろう。
なにより、道場であった時とは雰囲気が違う。
テレーザに漂う、不思議なオーラどことなく気品がある。
「あなたは、魔法使いなのよね?」
とノジマ。
ーそうか、この人は私の正体には気づいていないのね、それなら都合がいいー
「そうよ、事情があって故郷をはなれて旅行者になったの。
しばらくは身をひそめなくてはいけなくて。
だから、魔法の力で日銭を稼ぎながら、この国を転々としながら国に帰る日を待ちたいの」
とテレーザが言った。
美の国の王女という身分がバレていない。
そのほうがいい。
「このまま、逃げたいんだけど協力してもらえないかしら」
とテレーザ。
病院なら、関係者の使う経路で裏口から外に出られるだろう。
そこから、どこか遠くに行こう。
これ以上、あの家に留まるわけにはいかない。
「あなた、なにを我慢しているの?」
とノジマが聞いた。
テレーザの目に一瞬戸惑いの色が浮かんだ。
ノジマにはハキハキとまるで他人事のように、ここに来た「いきさつ」を話すテレーザが異質に思えた。
何かを抑えている、何かを払拭しようとしている。
それはテレーザが創作した部分が多かったが、早口で話すその姿は道場で会ったあの少女ではない。
自分を押しつぶしそうな大きなものに必死で抗っている、とても焦りを感じる。
そんなテレーザをノジマは見逃さない。
「あの子は何かを隠している」
「私には話してよ、力になりたいの」
ノジマが優しく言う。
「無理よ、私に関わらない方がいい」
とテレーザ。
その時、診察室の裏手にあるドアが開き、看護師が入って来た。
「ノジマ先生、こちらのテレーザさんのお連れの方が、お話がしたと。
お招きしてもよいでしょうか」
と言う。
テレーザが診察室に入り、かなりの時間が経っていた。
瑛子が心配したのだ。
「少し待ってもらって」
とノジマが看護師と話たその一瞬のすきに、
テレーザは裏手のドアを抜けて、走り去っていた。
「お願い、まだ思い出さないで、ここを離れてからにして、ごめん、ごめんね、エマ」
そう言いながら廊下を走るテレーザの目からは涙があふれていた。
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