自宅に戻って
テレーザのいない日々が始まります
「ネットワークから外れている」
タブレットの画面を見ながら尊がつぶやいた。
テレーザがここに来た時、慣れない土地での生活に少しでも助けになればと渡しておいたタブレット。
それをまだ彼女は持っている。
尊や葵のタブレットとネットワークでつながっているから、あわよくばメールもつながるかもしれない。
そう思って、尊が自分のタブレットを接続し環境を確認する。
孝太郎、瑛子そして尊たち、みんなでグループになっているが、その一覧を見ても一番下に出て来たはずのテレーザのアイコンが黒塗りになっておりその横には、
「存在しないユーザーです」
という文字が浮かんでいる。
「美の国ってネットワーク環境が悪いから、繋がらないだけじゃないの?」
と葵が言うが、
「それなら、未接続とかオフラインとか出るはずだよ」
と尊が言う。
その通りだ。
葵は改めて、もうテレーザと連絡を取る手段がない事を痛感していた。
テレビでは、美の国で起きたクーデターについてその後の情報は何も報道されていない。
倭の国からすると、遥か遠くの国だ。
日ごろから、美の国の話題などほぼニュースになることはない。
美の国の内情について、ここにいては知ることも困難だ。
「せめて、クーデターを鎮圧したとでも確認出来たら安心するのに」
と瑛子が言う。
「職場のデータベースになら最新情報があるだろうが、今から忍び込む訳には。不審者として捕まってしまう」
と孝太郎。
「明日、お父さんが調べてくれるのを待ちましょう。
さあ、明日は学校でしょう?休暇ももうおしまいよ。準備をして早めに寝てちょうだい」
と瑛子が言う。
この日は倭の国の全国的な連休の最終日だ。
明日からは、通常の毎日が戻ってくる。
テレーザのいない日常が。
母の言葉に従い、それぞれ自分の部屋に戻る葵たち。
2階の葵の部屋の窓から、道場が見える。
道場の片隅の小さな窓、暗く閉ざされたままだ。
「テレーザの部屋、真っ暗だわ」
と葵。
一緒にここに戻り、あの部屋の窓に灯った部屋の灯りをここから眺めるはずだった。
この先、テレーザが何処か遠い国へ行くつもりだったにせよ、しばらくはまだ一緒に暮らせると思っていた。
風呂に入り、明日の支度を終えしばらく机に向かった葵。
学校の予習、確認しておかないと明日の授業に差し支える。
休暇前に出されていた宿題は手がつけられないままだ。
放置は出来なが、やる気も起こらない。
「誰かにノート写させてもらおっと」
と少しばかり投げやりにつぶやく葵。
その時、
「ちょっといいか?」
とドアで声がした。
尊の声だ。
その隣には駆もいる。
「入るぞ」
そう言うと尊はだブレットを持ち葵の部屋に入り込んできた。
「これ、見てよ」
とタブレットを指さしながら駆が言う。
「チョビに付けてるGPSだ」
と尊。
チョビには倭の国の決まりでGPGが取り付けられている。
迷い犬防止のため、この国では飼い犬すべてにGPSが付いている。
チョビは葵たちと倭の国へ戻ることを拒み、そのまま美の国に留まった。
かつて自分が美の国王宮のユニコだったことを思い出したからだ。
しかし装備はそのままだ。
「ここは」
と葵がだブレットに記されたチョビのGPS信号を見ながら言う。
「王宮の中だよ」
と尊。
尊のタブレットには、美の国王宮クリスタルパレスの間取り図と、その一点にピカピカと光る点が表示されている。
「ここは、誰かの部屋よね」
と葵が言う。
「ここ、あの王子の部屋だ」
と駆。
間取り図にはそこまでの記載はないが、自分たちがついさっきまでいた王宮。
王女と王子の部屋の位置はだいたい把握していた。
「チョビ、ルドルフと一緒にいるってこと?」
と葵が言う。
「ということは、あの戦闘はもう終わったってことだよね」
と駆。
裏庭での反乱兵との一戦。
その場にチョビもやって来た。
まだ戦いが続いているのらあの裏庭にいるだろう。
そして、考えたくはないが反乱兵にやられてしまったとしたら、はやり裏庭に放置されているだろう。
犬のチョビのことなど誰も構うまい。
それが、王子の部屋にから信号が発せられている。
王子と共に部屋に戻っているということだ。
「よかった。無事なねのね」
と葵が安堵した表情を見せた。
「でもさ、こんなに詳しい地図、持ってていいの?」
と尊に言う葵。
王宮内の見取り図など、極秘中の極秘案件だ。
このタブレットに表示されているのは、かなり精密だ。
「闇ルートで確保したんだよ」
と尊。
「パパとママに知らせてあげたいけど、これは見せられないわね」
と葵が言う。
瑛子はともかく、孝太郎はこんな見取り図が出回っていることを知ったら、
報告義務があるからだ。
「悪いけど黙っていようぜ。どうせ明日になれば詳しいことがわかるんだから」
と駆も言う。
ジャン・ルドルフ王子が自分の部屋にいる、それならテレーザも同じようにあの部屋にいるのだろう。
もしも、反乱軍が王宮を制圧しているなら、自室になど戻れないはずだ。
「テレーザは大丈夫」
葵は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
そして、ベッドに入るとここ数日の事が走馬灯のように頭をよぎった。
色々なことがありすぎて頭の中がジンジンと音を立てているようだ。
しかし、身体の疲労は相当なものだったようで、
いつのまにやら深い眠りに落ちていた。
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