テレーザの能力、エマの能力
お互いの能力を知る二人
「ほら、治った」
テレーザがエマの手をさすりながらそう言った。
その顔はとてもうれしそうだ、にっこりと笑いながら、エマの手を見つめている。
手荒れとあかぎれだらけの手が、白くきれいになっていた。
テレーザに手を握られたまま、自分のその手を見るエマ。
「私の、手?」
そう言いながら見る自分の手、
手の甲は白く透き通るようで、そしてササクレもない細い指。
ついこの間まで、農作業をしていた泥のこびりついた手だとは思えない。
美の国の王宮に来てから、いつもふんだんにお湯を使うことができる。
入浴はもちろん、普通に手を洗う時でさえ。
それに、水仕事なんかしなくていい。
食事の後の食器洗いも、食堂の人たちがやってくれるのだ。
しかし、その時、エマが何よりも気になっていたこと、
それは、
「テレーザ王女?もしかしたら」
と恐る恐る話しかけるエマ。
「わかる?」
とテレーザ。
エマは確信した、
テレーザ王女は魔法を使うことができるのだ。
前に見た、枯れそうな花を元に戻したのも魔法の力だ。
「そう、私には魔力があるわ。でもさすがに魔法使いにはなれないし、魔法を使えること自体も内緒なんだけど、産まれたときから魔力があってね、それで長く王宮に仕える魔法使いからこっそり習ったのよ。
私が魔力を暴走させるくらいなら、正しい使い方を学んだ方がいいって処分覚悟で教えてくれたの」
とテレーザ。
王族、特に王女や王子などは王の直系に当たる者たちは、魔法を使う、使えるなどはもってのほか、
もしも恵まれた才能を持っていたとしても、魔力を封じ隠して生きるようにと養育される。
魔法が使える王女、それだけでまるで異端児のように扱われるのだ。
「だから、これは秘密よ。今まで誰にもばれなかったんだけどな。
あなたには隠せなかったってことね」
とテレーザ。
「あなたも、魔力もってるわよね?かなり強力なんだけど、
なんで魔法使いにならなかったの?」
とテレーザが続けてエマに聞いた。
「うちは貧しかったし、北の国のへき地だし、魔法学校には行けなくて、
弟子入りできるような魔法使いもいなくて。
それに、家の手伝いもあったから無理だったの」
とエマが答えた。
生まれながらに魔力を持つ者、それは特別な才能だ。
その特別な力を授かった者たちだけが、魔法使いになることが出来る。
世間で言われている、魔法使いになるためには、魔法学校で魔力を使い方を専門的に習うか、熟練の魔法使いに弟子入りをして修行をする、そして国家試験に合格すれば、魔法使いとして認められるのだ。
「それに、私の魔力は魔法使いになれるかどうかのギリギリだって。
だから諦めました」
とエマが言うが、
「そうかな、強力だと思うんだけど」
とテレーザ。
魔力を持つ者は他者の持つ魔力を推し量ることができる場合がある。
テレーザにもその能力があった。
「小学校に上がる時に受けた検査でそう言われたんです。レベルDだって」
魔力を持つ者はその能力によりレベル分けされる。
レベルAからDまでが魔法使いになれる。
しかし、有能な魔法使いになるには、レベルAかせめてBでないと無理だ、と世間では言われている。
「レベルB、くらいはありそうなんだけどな」
とテレーザが言うと、
「私もそう思うんですよ!」
とエマも言う。
エマは自分の能力には気が付いていた。
しかし、魔法使いになりたい、とも思ってはいなかった。
そんな環境で育っていたのだ。
「私に、Dランクって伝えたのは、諦めさせるためですね。
魔法学校に行くにも、弟子入りするにもお金がかかるもの。
侍女に採用されたのだって、王宮がここまでくる旅費を出してもらえたから来られたんです。
もしも自腹だったら辞退するしかありませんでした」
とエマが語った。
「じゃあさあ、ここにいる宮廷魔法使いから魔法を習えば?
あなたが魔法を使えるようになれば、私の侍女として心強いし。
あなたが魔法を習得しちゃいけない、って理由は何処にもないし。堂々と習えばいいわ、その能力ならだれも文句は言わないでしょ」
とテレーザが言う。
「宮廷魔法使いですって?」
と驚くエマ、
宮廷魔法使い、その国の最高レベルの魔法使いたちだ。
まるで雲の上のような人たち、そんな存在だ。
「まあ、すぐにじゃないかもしれないけど手配しておくわ」
とさらりと言うテレーザ。
そんな話をしているうちに、時計塔の鐘が鳴った。
空には夕焼けが広がっており、暗くなるもが目前だという合図の鐘だ。
「そろそろ、戻らないと。
ほんとはもっと奥まで行きたかったんだけど、また今度ね」
とテレーザ。
城に戻る道で、何度もテレーザを見るエマ。
まるで顔色をうかがっているかのようだ。
「何が聞きたいの?」
とテレーザ。
さすがに気付くだろう。
「あの、聞いていいですか?
なんで、私によくして下さるんですか?」
とエマが聞いた。
「それはね、」
と言ってしばらく黙り込むテレーザ。
「あなたが私を拒否しなかったから」
とテレーザがポツリと言った。
「拒否だなんて。テレーザ王女にお仕え出来て嬉しいんです私」
とエマが言うと、
「それ、すこしだけ本当だね。でもそれでも嬉しい」
とテレーザ。
「みんなが私の事、なんて言ってるか知ってるでしょ?
だから私の元に来るって決まったとたん、落胆してる人が多いの。
せっかく、美の国の王女に仕えるのに、なんで「ついでの王女」なの?って」
テレーザ王女の評判、なんとなく知っていた、
寮の同室の皆も言っていた。
それでも、あの裏庭でみたテレーザ王女、その姿に嫌な感じはしなかった。
すごい能力を持って魅力的な王女だ、そう感じたのだ。
「うまく言えないのですが、私、あなたに惹かれたのかもしれません」
とエマが言うと、
テレーザは大笑いを始めた、
涙を流しながら。
「惹かれたって、何言うの」
と言いながら笑うテレーザ。
「私決めたわ、ここにいる間にあなたを一人前の魔法使いにする」
とテレーザが言った。
涙を拭きながら。
その涙は、笑いすぎて出て来たものではない、エマの言葉がうれしくて流れた涙だった。
「でもテレーザ様、昨日の一件では厳しい処罰がありましたよね、
テレーザ様だって大切にされてるんじゃないですか。王女として」
とエマが昨日の件に触れた。
迷わせ鳥に狙われた事件では、関わった者たちに厳しい懲罰が課せられた。
みなは改めてテレーザ王女であろうと、その扱いは王族である、と改めて思い知った。
「ああ、あれはね、私に何かがあった困るからよ」
とテレーザ。
その言葉に怪訝な顔をするエマに、
「私さ、もうすぐ彩の国の王子との婚約するの、外交の道具としてね」
とテレーザが言った。
「婚約?」
とエマ。
「そうよ、もう何年も前からお父様のご意向で、彩の国の王子と美の国の王女の婚儀の話が進んでいるわ。でもお姉さまたちは他国へは嫁げない、王位継承者と女王の両腕となるから。
だから私なの。それでしか国の役には立てないのよ、私」
とテレーザが少し寂しそうに言った。
それは彩の国からの使者が来る、数か月ほどまえのことだった。
その時、テレーザ王女とエマ、ともに14歳。
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