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44話 バトルロワイヤル

 

 私たちが広場に到着すると、案内の人がメガホンを持って誘導をしていた。

 人の列が並ぶ先には直径2メートルくらいの黄色い輪っか状の袋が設置されていて、次々に人がそこへ飛び込んでいる。


「あれがゲートなのかな?」

「昔、近所の子供がアレに入って遊んでいたのを見たことがあるな」

「アレはビニールプールじゃないです。確かにビニールで出来ていて、持ち運びできて空気を入れて使うやつですけど。中につまってるのはゲート水です」

「……ほとんどビニールプールというわけだな」


 そういえば似たようなやつが山に捨ててあったきがする。


「じゃあ俺たちも並ぶか」

「うん。流れ早いし、すぐだね」


 南極のペンギンのごとく、冒険者たちはビニールプールに突撃して姿を消していくさまは圧巻だ。南極もペンギンも見たこと無いけど。

 それから、ぼーっとしている暇もなく、あっという間に私たちの順番になった。

 皆ぱっぱとリズミカルにダイブしているので、ここで戸惑ってはいけない。私もさっさと飛び込もう。

 そう思ってジャンプした瞬間──


「──ところでスワンプマンの話は覚えてますか?」

「ちょっ! せっかく忘れてたのにやめてよ!」


 早口で言い返したけどもう遅い。私はビニールプールに腰まで入っていた。

 そのままちゃぽんっと音がなると同時に、寂しい村のような場所に出た。

 岩と砂利、あと小屋がいくつか建っているだけの寒々しい景色に一変している。


「なんか人も思ったより少ないかも……?」


 しばらくその場で沢渡たちを待っていたけど、全然出てこなかった。

 というか、私がここに来てからほとんど人が増えていない。


<『ピンポンパンポーン』>

<『本日はイベントにご参加いただき──』>


 アナウンスが流れ始めた。

 このままゲームが始まっちゃうのかな。


<『という訳で皆様には殺し合いをしてもらいます』>

<『一時間後に頭の上にバルーンが現れます』>

<『それが割れるとゲームオーバーです』>

<『最後まで生き残った1チームの優勝となります』>

<『大規模グループ化によるバランス崩壊を考慮し』>

<『1チームと認められるのは2人までとします』>

<『そして初期地点も分散させていますので』>

<『てきとーに近くの人と組むしかないですね!』>


 なんてこった。

 まあ確かに大軍団を作られたら、他の人はどうしようもなくなっちゃうから仕方ない……のかな。でもさすがに沢渡じゃない人と組むのはちょっと……。

 うーん。


<『そして気になる優勝賞品は……50万LP!』>

<『+それぞれゲーム内のものをひとつだけ』>

<『現実世界に持ち帰る権利が与えられます!』>

<『他にも、1キルにつき1万LPのボーナスが出ます』>

<『優勝しなくてもキルを稼げば十分美味しいですね』>

<『では、はりきって行きましょう!』>


 ゲーム内アイテム……!

 何がいいかな。やっぱり結婚指輪かな。

 うーん、指輪を持ち帰ったら現実でも結婚したことになるのかな。


 ……あ。


 そうだ。指輪使えば沢渡に会えるじゃん!

 確か逢いたいと強く念じるんだったっけ。

 いっちょ念じてみますか。


「さわたりさわたりさわたりさわたり……」


 目を閉じると無数の沢渡が脳裏に浮かぶ。

 雪山で煽ってくる沢渡。ゴブリンの群れにドロップキックする沢渡。ニチャァって笑う沢渡。なんかデジャヴ……。


『うおっ! なんだこれは』

『おお、聞こえるー?』

『ああワープ機能か。今飛ぶから待っててくれ』


 それから一秒も待たずに沢渡が空から降ってきた。

 地面に穴が開くような派手さはなく、わりとスマートに着地した。


「よかった。安全なワープのようだ」

「やっほ! ひさしぶり!」

「ああ10分ぶりだな。さて、どう動こうか」


 沢渡の目線は地形よりも、周囲の人々に向けられていた。

 重厚な鎧を着込んでいたり、剣を何本も脇に挿していたり、弓を背負っていたりと、みんな様々に武装している。


「私たち、ちゃんとした武器もってないよね」

「そうだな。あの中だと弓が厄介そうだ。マークされる前に移動するか」


 1時間経過するとゲームがスタートされる。頭上に風船が出現して、それが割られるとゲームオーバー。ということは、強い鎧も剣も実のところ重荷にしかならない。

 でも、弓矢は別だ。どんなにしょぼい矢でも遠くから風船を割られてしまえば終わり。


「弓ほしい!」

「まあ俺たちには投槍があるからな。ついでに石ころも拾っておくか」

「スタートから文明力に差をかんじる……」


 投げやすそうな石を拾いながら荒野を行く。

 大きな岩や木に身を隠しながら歩いていくと、どんどん人の気配はなくなっていった。


「だいぶ歩いたけど、今どこにいるんだろう」

「地図も配られていないからな。ひたすら歩いて土地勘を得るしかあるまい」


 道路のない荒涼とした大地は歩きづらくて、何よりかんかん照りの太陽が体力を奪ってくる。


「あつぃー……」

「少し休むか」

「ちょうどいい岩陰があるよ」


 でっかい岩があったのでそこで涼むことにした。日照りは強いけど風はあるので助かる。


<『ゲームスタートまで残り10秒です』>

<『闘う準備はバッチリですか?』>


「もう一時間あるいたのか~~」

「ここなら誰かが来てもすぐ分かるな。このまま様子を見よう」


<『はいスタート! それではゆっくり殺し合ってください』>


「ぶっそうだなぁ」

「やはりこのAIは問題があるんじゃないか」

「そういえばアイちゃんは?」

「わからん。プレイヤーではないから非参加なのかもな」

「私たちのナビを忘れて思う存分自由を謳歌してるよね……」


 話していると、私たちの頭の上に赤い風船が降りてきた。


「これを守ればいいのかー……あっ閃いた!」


 頭の上でふわふわと浮いている風船を手繰り寄せようと、紐を掴む――はずが、どういうわけか手からすり抜けてしまう。


「あれっ? あれっ?」

「自分じゃ触ることが出来ないみたいだな」

「隠そうと思ったのに……あ、沢渡つかめる?」

「どれどれ」


 沢渡が私の風船の紐をつかんだ。

 すると――


<3>

<2>


「あー! 沢渡離してー!」

「む……意味深なカウントだな。やめとくか」


 ぜったい割れるやつだと思う。


「まあズルはよくないよ沢渡くん」

「そうだな……」


<『たった今、生存者へマップを配布いたしました』>

<『インベントリを開いてご確認下さいませ』>


「お? なんかもらってるね」

「大きな画面のついた機械だな」


 ポシェットの中には見覚えのない機械が入っていた。

 画面は地図のようなものが映されていて、私たちが今いる場所が赤い点で表示されている。


「特に説明無しか」

「でも便利ってのは分かったね。あっ」


 画面内に風船が割れたような絵が現れて、そこから放射線状に黄色い点が表示されていった。


「誰かがやられた?」

「どうもプレイヤーが死ぬたびに全員の位置情報が公開されるみたいだな」


 最初の風船が割れたと思ったら、それを皮切りにして次々と破裂する風船が表示されはじめる。


「やっぱり真ん中が激しいみたいだね」

「キルボーナス欲しさに集まってるみたいだな。おそらく優勝を目指してるのは俺たちのように外へ移動しているはずだ」


 私たちはとくに戦うこともなく、画面を見ているだけでライバルの数が減っていく。


「なんか、このまま優勝できちゃうのでは!」

「まあどうやったって最低一回は戦闘をする事になるとは思うが」


 しばらくそうしていると、地図の外側が真っ黒に塗りつぶされた。

 その黒色は、じわじわと地図の中心へと向かい始めている。


「なにこれ?」

「嫌な予感がするな……」

「もうすぐ私たちがいるとこも黒くなっちゃうね。ちょうど、この大岩の向こう側……」


 岩で隠れていた方向に顔を覗かせると、向こう側が真っ黒だった。


「……まだ余裕で昼だよね?」

「暑くてここにいるくらいだからな」


 遠くに見える真っ黒は、空も地面も真っ黒で、まるである場所を境に突然真夜中に切り替わってしまったような印象を受けた。


「アレ、気になるなぁ」

「見に行ってみるか? 良い予感は全くしないが」

「やばそうなら帰ればいいよ!」



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