43話 Pちゃんアイちゃん
ゲーム内でがっつり寝落ちすると安全措置みたいなのが働くらしい。
目が覚めた時に視界に入ったのは、青々とした空じゃなくて無機質な天井だった。
「ふぁぁ〜、よく寝た……」
「おはよう。コーヒーでも飲むか?」
「あい。ミルクはちみつマシマシで」
先に起きた沢渡がヘルメットを脱がしてくれたらしい。
「ずぞぞ……あちあち」
「今日が休みで良かったな」
「いまって何時なのかな?」
「昼の12時だ」
昨日はかなり遅くまで起きていた。それはもう、空が明るくなって鳥のさえずりが聞こえてくるくらいには。
沢渡も普段は早く寝ろとか言うくせに、昨日はむしろ逆で……。
っていうか、まさか耳をかじってくるなんて! 強いボクサーかおまえは!
「さわたりに噛まれた耳がじんじんするなー」
「そんな強くやってないだろ」
悪びれもしない。
うーん。パワーアップしたな沢渡。
今度やり返してやろう。
「これからどうしよっか」
「今日が何の日か知ってるか?」
「けっこんきねんび(ニチャァ)」
「それは昨日だな」
軽く流されてしまった。なんかゲーム外だと素っ気ないままな気がする……。
「バトルロワイヤル。ゲームの大会だ。とてつもない賞金が出るのだとか」
「あー、ハンスが言ってたやつね。 行ってみよう」
私たちはまたすぐにウームオンラインの世界へと没入していく。
謎のおじいちゃんいわく、実在する世界の一つらしい。それならゲームは一日うん時間とかいう誰かに諭された話も、実際はゲームじゃないのでノーカンだ。
なんて夢心地で取り留めもない思考に身を委ねていると、気付けば見覚えのある教会の外にいた。
「なんか、みんなで同じ夢を見てる気分だよねぇ」
「確かにな。ログインする時の感覚は不思議だ。魂が移動しているらしいが……」
「おかえりなさいっぴ」
後ろから黄色くて巨大な鳥に話しかけられた。人語を操るヒュージインコ。Pちゃんインザ・アイちゃんだ。
「不思議生物が極まってるな……」
「それってアイちゃんがPちゃんを操ってるかんじなの?」
「そう一方的なものでもないですっぴ。あくまでもメイン行動権限はPちゃんにあるので、嫌なことはさせられませんっぴ」
「へえー。Pちゃんの中に住まわせてもらってる感じなんだね」
確かに、喋りながらもきょろきょろと首を動かしたり、地面にある何だかよく分からないほこりをついばんだりしている。
「逆に、私は猫毛虫なんか食べたくないのにPちゃんが大好物なのでがんがん食べる事件が昨日ありました」
「難儀だな」
「もう慣れて私も猫毛虫大好きになってます。Pちゃんとアイちゃんは順調に融合していきますっぴゅい」
語尾が適当なのはたぶんアイちゃんが勝手にやってることなんだろうなぁ。
「という事は、もう俺たちがいなくとも無の世界に連れ去られる事はなくなったんだな」
「そうですけど、やっぱり寂しいものは寂しいですね。私の友人は他にいませんので」
「アイちゃん! 友だちだよ〜〜! なでなで」
背伸びしてPちゃんの頰のあたりをもふもふと撫でまくる。ヒュージインコはここに手が届かないので弱点なのだ!
「おっほぉ〜〜! 気持ちいいですぅ〜〜!」
アイちゃんは恍惚の表情を浮かべた。
「そういえばバトルロワイヤルの話って知ってる? アイちゃん」
「ハチ公前で会場行きのゲートが開いてますよ」
「よしよし! 早速行こう!」
「待ってください。その前にプレゼントがあります」
「おお、なになにー? もしかして結婚祝い? まいったな〜」
「その通りです。では出しますね……ぴゅいっぴゅいっぴゅいっ」
言うや否や、アイちゃんは全力で首を振り始めた。首というか、全身の筋肉を使って激しく頭を上下左右に揺らすような動作だ。勢いあまって地面に何度もくちばしをぶつけているけど、お構いなしでシェイクする。
「うわああ!! 急にどしたの!?」
大きな体でそんな動きをするものだから、ちょっとした風圧を感じる。熊の翼ほどではないけど、見た目の異様さも相まってかなり心配になってきた。
となりの沢渡もきっと心中穏やかではないよう……というか普通にドン引きしてる。
「ふう。おっけーです」
激しい踊り(?)を終えたPちゃんの足元には二つの指輪が転がっていた。
「どうぞ。お二人の結婚指輪です」
「どこから出したの!?」
「ナイショです」
キラキラと輝く銀色の指輪を拾ってみると、少しヌメヌメしていた。
「アイちゃん、これって……」
「無菌室で保管していたので無菌汁が付着していますね。よく拭いてからご着用ください」
「うん……」
ヌメヌメを拭き取ると、指輪の裏側の刻印がハッキリと見えるようになった。
二つの指輪にはそれぞれ、私と沢渡の名前が彫られている。
「おぉ~……なんか意外と本格的だ」
「買ったのか?」
「いえ。あのあと神父さんから正式な結婚指輪のクエストを代理で受けてクリアしたんです。二人ともどっか行っちゃったので」
「あー、そういうのあったんだ。てっきりPちゃんの足に付けたやつが指輪代わりだと思ってたよ」
「支配のバングルは結婚指輪というより、着けた相手を監視するためのアイテムですね。嫉妬深い人が喜ぶやつです」
「つけた人を操るアイテムじゃないの?」
「システム制御してるAIが装備者の情報に干渉する形を取るので、私がやっているのは言ってしまえば悪用ですね。想定されていない使い方です。支配といってもそこまでの支配は想定されていないので」
「あ、わかった!チートってやつだ!」
「ハッキングと言ってください」
もっとやばいやつだった。
「まあいっか今さら……。ほい沢渡、指輪パス」
「おい投げるな」
小さい方の指輪を沢渡に渡す。
今、私が持っているのは大きい方の指輪だ。
「さあさあ」
沢渡へ左手を差し出す。
「またおかしくならないだろうな」
「さすがに大事な場面でふざけたりしません」
「舌の根の乾かぬ内に……」
「一日経てば十分ですよ。人間ほど口の中べとべとじゃありませんし」
私をおいて漫才を始める沢渡。ゆるせん。
「さわたりはやくぅー腕つっちゃうよ」
「うむ。では……」
左手薬指にすっぽりとはめこまれる銀色の指輪。
なんだか心が満たされるようだ。
「うへへ……」
「じゃあ俺にもやってくれ」
「うんっ」
沢渡の腕はマッシヴでゴツゴツだ。
腕もさることながら、指一本とっても私とは別の生き物のように感じる。
「沢渡の指は私の太ももくらいの大きさだよね」
「それならお前の足に指輪をはめてやろうか」
指輪はあるべき場所に収まったという感じで、つるっと沢渡の薬指に滑り込んだ。サイズはぴったりらしい。
沢渡は感慨深そうに左手をぐーぱーして指輪を手になじませている。
「では改めまして……ご結婚、おめでとうございますっぴゅい。大熊さん、沢渡さん」
「ありがとう」
「ありがとうアイちゃんPちゃん!」
白銀の指輪はきらきらと太陽の光を受けて輝いている。
それを見つめていると、不思議な力が湧いてくるようだった。
「ちなみにそれ、マジックアイテムですよ。結婚バフがかかります」
「ほう。どんな効果なんだ?」
「他の異性と個人メッセージのやり取りをすると、会話が筒抜けになります」
「おいおい……」
別名、支配のリングってところかな……。
「あれ? でも浮気するときだけ外せばいいんじゃ?」
「はめた人じゃないと外せないです」
「ああー……」
なるほど。浮気絶対許さない指輪ね。ある意味呪いの装備だ。
「もう一つオマケの効果があります。それは、お互いが強く念じると相方のいる場所にワープできる機能です」
「そっちがメインでしょ!?」
「便利だが……まあ、あまり離れることもないからな」
「うーん、それもそっか」
とにかく、この贈り物は本当に嬉しかったのでたくさんモフモフしてあげてから広場へと向かった。
ものすごく気持ちよさそうにしていたけど、Pちゃんの感覚ってどんな感じなんだろうか。ちょっとだけアイちゃんが羨ましいかもしれない。




