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転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


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迷案

 「椅子さん、僕たちの話は聞いているっすよね……?」


 ミコッチが、真剣な眼差しで僕を見つめてきた。


 「今日の放課後、人が少なくなったら連れて行きたい場所があるっす。勝手なこと言って申し訳ないっすけど……力を貸してほしいっす」


 申し訳なさそうに眉を下げるミコッチ。『ごめんなさい。僕は幽霊が苦手なので協力はできません』と叫びたいところだった。しかし、彼女は空き教室から僕を救い出してくれた命の恩人なのだ。ここで丁重にお断りすれば、ミコッチなら理解してくれるかもしれないが、府領から役立たずと罵られて部室から追い出される可能性が非常に高いだろう。


 (少し考えさせてくれ)


 と弱々しく返事をするが、霊眼を発動していない彼女に僕の声は届かない。


 「ミコッチ、今日は私も付いて行ってあげるわ。こんなスケベ椅子とあんた2人きりなんて、何が起きるか分かったもんじゃないし」


 府領が蛇のようにギョロリと僕を睨みつけた。先ほどのマッサージで少しは軟化したかと思ったが、彼女の中の警戒リストから僕が外れる日はまだ遠そうだ。その後、2人はテーブルの上のパソコンを囲んで話し込み始めた。僕への不信感からか、2人とも僕には座ろうとせずパイプ椅子に座っている。しかも、僕との間には絶妙な距離が置かれ、まるで腫れ物に触るような扱いに、僕は少しだけ背もたれを湿らせた。


 2人は熱心に心霊スポットの情報を集めているようだ。「次はここへ行ってみたいっす」「いや、こっちの方がヤバそうよ」そんな言い合いを続けること2時間、気がつけば日は沈みかけ、時計の針は17時を回っていた。校門が閉まる18時までに、僕は密出国を果たさなければならない。だが、本当は行きたくないから強制送還のが正しい表現なのかもしれない。


 部活動の賑やかな声が響く廊下を、女子2人が1脚の椅子を抱えて歩いていく。その光景は、両親に手を引かれる子供のような微笑ましい姿……というよりは、FBI捜査官に連行される宇宙人のような、異質な光景だったに違いない。一方、運ばれている僕はといえば、柔らかい女子の手の感触を全身で受け止め、まさに両手に花の状態。心の中ではニヤニヤが止まらず、ご満悦の極みだった。しかし、この幸福な輸送時間はすぐに終わりを迎えることになる。


 「しょ〜ちゃん、どうやって椅子さんを学校から連れ出せばいいっすかね」


 2人は僕を抱え込んで、すぐにミコッチは根本的な問題に気づいた。椅子を抱えたまま正々堂々と校門を抜ければ、椅子を運び出したことを他の生徒見られてしまう。できるだけ、誰にも見られずに学校を抜ける必要があった。


 「ミコッチ、私に任せるのよ。名案があるわ」


 府領が不敵に笑う。彼女の指示に従ってやってきたのは、人影のない体育館の裏手だった。


 「ミコッチ、このスケベ椅子をここから投げればいいのよ」

 「ええっ!? そんなの危なすぎるっすよ!」


 府領の案はいたってシンプル、かつ暴力的だった。高いフェンスの向こう側へ、力任せに僕を放り出すというのだ。難色を示すミコッチに、府領は冷徹に言い放つ。


 「迷ってる暇はないわよ。ほら、いくわよ!」


 刻一刻と門限が迫る中、反論の余地はなかった。ミコッチはなかば押し切られる形で、僕の脚を掴んだ。


 「せーの……っ!」

 「いっせいのーで!!」

 (ちょ、やめてくれぇぇぇ!!)


 僕の絶叫も虚しく、身体が浮き上がった。僕の視界はぐるぐると回転し、夕闇の空を舞い、高いフェンスを越えていく。放物線を描いた僕はそのまま、無慈悲なアスファルトの地面へと叩きつけられた。


 『ガシャンッ!!』


 静まり返った体育館裏に、硬い物体がアスファルトに激突する凄まじい音が響き渡った。フェンスの向こう側で、ミコッチは顔を真っ青にしながら僕の落ちた先を凝視している。


 「行くわよ、ミコッチ。もたもたしてたら見つかっちゃうでしょ」

 「う、うん……でも、椅子さん、大丈夫っすかね……あんな音がしたのに……」


 府領には、僕を心配する様子など微塵もなかった。彼女はためらうミコッチの手を強引に掴むと、そのまま足早に正門の方へと引っ張っていった。一方、投げ飛ばされた当の僕はといえば。皮肉なことに、学校の椅子というものは想像以上に頑丈だった。あれだけの勢いでアスファルトに叩きつけられたというのに、僕の身体すなわち椅子のフレームには、目立つ傷1つついていなかったのだ。だが、身体は無事でも、僕の精神は限界だった。急に宙を舞わされた浮遊感、迫りくる硬い地面、そして衝撃。肉体的な痛みを感じるよりも先に、椅子になって初めて味わう死の恐怖に心が耐えきれなかった。


(……ああ、もうダメだ……僕の人生……いや、椅子生はここで終わるんだ……)


 目の前が真っ暗になる。僕はそのまま、恐怖に飲み込まれるように意識を失った。


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