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転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


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初仕事

 府領の制服の下に隠された、無数の無残なあざ。彼女が背負っている闇の正体について、椅子である僕には何も聞き出すことはできないし、根本的な解決もしてあげられない。だが、今の僕にできる唯一のことがある。それは、彼女の悲鳴を上げている肉体を癒やしてあげることだ。僕は静かにビリビリショック(中)を選択した。


 クッションを通り抜け、彼女のやわ肌に電流が走る。その電気刺激は、あざの周辺で暴れていた痛みの神経を強制的に遮断し、鎮痛を促していく。


「……っ!?」


 不意の衝撃に、彼女の身体がピクリと痙攣した。しかし、それも一瞬のこと。すぐに、彼女を苦しめていたであろう鈍い痛みが、引潮のように和らいでいった。すると、どうだろう。先ほどまで憎悪と怒りに満ちていた彼女の顔が、嘘のように穏やかになっていく。彼女がいつも尖らせていたあの表情は、絶え間ない激痛から自分を守るための防衛本能だったのかもしれない。痛みの檻から解放された彼女の顔は驚くほど可愛げのある少女のものだった。


 間髪入れず、僕はファントムハンズ(弱)を起動させる。今度は見えない手で、強張った全身の筋肉を羽毛で撫でるように、徹底的に解きほぐしていく。


「……ん…………ぁ…………」


 全身の緊張が融解した彼女は、そのまま吸い込まれるように瞳を閉じ、深い眠りに落ちてしまった。それは、これまで張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れ、心の底から安らぎを得た証だった。僕は彼女を優しく包み込む高級ソファーとなり、ファントムハンズを細かく動かして、彼女の安眠をより深いものへと誘導した。


 ふと視線を上げると、僕たちを見つめていたミコッチの瞳に、ぽろぽろと大粒の涙が浮かんでいた。その涙の理由は、説明されずとも理解できた。それは、深い慈愛に満ちた嬉し涙だった。ミコッチは知っていたのだろう。府領の身体にあるあざの理由も、彼女がその苦痛を隠して不良として振る舞い続けていたことも。僕の機能が与えたのは、一時的な痛みの緩和に過ぎないかもしれない。それでも、僕は今、この瞬間の彼女を地獄のような苦痛から救い出し、一時の安らぎを与えることができたのだ。安らかに僕に身を預けて眠る府領。その姿を見守るミコッチの顔には、一瞬だけでも親友が救われたことへの純粋な喜びが溢れていた。


「椅子さん、ありがとうっす。こんな気持ちよさそうに寝ているしょ〜ちゃんを見たのは初めてっす。これでしょ〜ちゃんも椅子さんを大歓迎するっす」


 15分ほど経っただろうか。深い眠りについていた府領が、ふっと静かに目を開けた。彼女は自分の身体の軽さに驚いたように数回肩を回すと、少し照れくさそうに頬を染め、小声で呟いた。


「……ありがとう。気持ちよかったわよ」


 あの攻撃的だった彼女からの、素直な感謝の言葉。クッション越しではあったが、僕の真心が伝わった瞬間に、背もたれの奥が熱くなるのを感じた。


「椅子さん、よかったっすね! これで椅子さんも、僕たち心霊研究同好会の仲間っす」


 ミコッチが弾んだ声で宣言する。


「さっそく、今日から働いてもらうっすよ!」


 (……働く?)僕は思わず首をかしげた。もちろん、椅子の僕に首なんてものはない。


(ちょっと待って、どういうことだ!)


 僕は叫ぶが、今のミコッチは霊眼を発動していない状態だ。僕の言葉が彼女に届くことはない。僕の混乱をよそに、2人の会話は進んでいく。


 「ミコッチ、コイツをあの場所へ連れて行くの?」


 府領が少し呆れたように、けれど拒絶はせずに問いかける。


「そうっす。僕ではダメだったす。もしかしたら、人間ではない椅子さんなら、可能性があるかもっす」

「このスケベ椅子には荷が重いと思うけど、試してみる価値はありそうね」


「その通りっす! 僕は幽霊の声は聞こえるけど、姿はおぼろげにしか見えないんっす。でも、椅子さんなら絶対にはっきりと見えるはずっす!」


 2人の会話を聞いて、ようやく僕は自分の置かれた状況を理解した。どうやらミコッチは、僕には特殊な霊的な力があると感じているようだ。ミコッチが見ることのできない幽霊の姿を、僕に確認してほしいというのだ。だが、僕は幽霊とかの心霊系のたぐいは苦手な方だ。2人が話を進めている様子を見て僕は気が気ではなかった。

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