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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
【改稿中】三章 萌えた大輪の花
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グリンダの市場

 ルーニーの店を後にした俺たちは、いくつかの商店を回ってゴブリンの魔石を合わせて五百ほど引き取ってもらった。


 買取額は店にもよったが、十個で470ゴールドくらい。案内所の買取額のほうが少し高い。市場の買取額より安いと案内所で売る人が居なくなるので、行政で使う分を確保するためにちょっと高めにしているのだろう。

 代わりに民間の商店は、ダンジョン産であるかないかに関わらず魔石を引き取ってくれる。うむ、うまくバランスは取れているな。


 ゴブリンの死体は使い道が無いとのことで、引き取ってくれる商人はおそらくいない、らしい。動物の皮は、直接皮革屋に持っていったほうが値がつくし数も買ってくれるとのこと。


「少々安くても気にしないのであれば、ウチで引き取りますが?」

「や、お金には困っていないから良いよ」


 教えてくれた商人に礼を言って店を後にすると、次に街で一番モノが集まるという北市場に行って買い物をした。これには物価の調査も含まれていたりする。


 資金は二万ゴールドを超えている。標準的な宿に一泊すると二人で五百ゴールドだから、それの40日分。結構な額じゃないか?


 地球の感覚基準にはなるが、だいたい五千ゴールドあれば庶民なら一ヶ月暮らせるのでは、と思う。コレだけあれば何とかなるだろう、必要なものを調達しよう。


 グリンダの北市場は蚤の市に近く、出店自体はそこまでハードルが高くない。違法なもの以外は何でも売り買いできる。しかし、スペースを確保して商売する場合は税金を払わなければならない。

 そのため、どっしりと腰を据えて商売に集中する商人も居れば、ふらふらと歩いてまわりながらカゴの中の手芸品を売る町娘も居た。


 市場を歩いていると、オッサンが砂糖を売っていたので店を覗いた。


「砂糖、砂糖はいかが〜! アバザンカの上質な砂糖が一瓶千ゴールド!」

「アバザンカってのは砂糖の名産地なのか?」

「もちろんさ、旦那。北の山々を越えると急に暖かくなる地域があって、そこがアバザンカさ。砂糖に必要な、綺麗で豊富な水があるんだ。砂糖と言ったらアバザンカだよ!」


 山を越えると急に暖かくなる? 南からの寒い風が山によって遮られるということか? であれば、ここは南半球ということになるのだろうか。

 普段風がどっちから吹いて来るかなんて考えてなかったな。日本で北から寒い風が吹くように、この辺じゃ南から寒い風が吹くのかもしれない。


 気象学に精通しているわけでもないし、そもそもこの世界の地形を知らないし、何とも判断しかねるが。


「らっしゃーせー。ニンニクという珍しい野菜が」

「十束買うからまけてくれよ」

「十束! そだなー、じゃあ二束オマケするということでどうでしょ」

「買った! あ、この野菜はどこで作られたんだ?」

「エルトアールから少し西南西に行った村だな。オレが直接仕入れたわけではないけど」


 一々産地を聞いているのは、この世界にどんな街があるのかを把握するためである。

 マップで見回しても良いが、人から直接聞く方が地域の雰囲気も想像しやすい。


「店主、コレはスパイスか?」

「おう、唐辛子の燻製チポトレだヨ。一束で、二千ゴールドかナ。びた一ゴールド負けられない、悪いネ」

「チポトレか。しかしこれっぽっちで二千はたっけえな……いや、一束もらおう。ところで、コレがどこで作られているか教えてくれないか?」

「ずっと、ずっと西。ボクの故郷だヨ。砂ばっかりで暑いノ」


 砂……砂漠、ということか?

 俺もラプンツェルもこの世界の全体像は知らない。地域の位置関係はちゃんと把握しておかないとな。


 しかし、アバザンカは聞いたことがないが、西に砂漠があるのはゲームと一緒だな。

 北に山々、すなわち山脈があるのも一致している。地形はほぼ同じで、そこにある国や街がゴッソリ入れ替わっている感じなのか?


「ねえ、あの出店も見て良いかしら」

「ん? ああ、あの布を売ってる店か。もちろん良いけど、予算として出せるのは四千ゴールドくらいだぞ」

「……それってどのくらい?」

「さあ。この世界の布の相場なんて俺が知るわけないよ」

「あっ、そ、そうよね。とにかく見てみましょう」


 ラプンツェルは焦ったように俺を引っ張ってゆく。

 ……そういえば、ピクシー族の通貨単位はゴールドではないのだろうか? 思えば彼女は無一文なんだよな。

 いや、昨日ラプンツェルが稼いだお捻りがあったか。幾ら手に入ったのかな。まあ、気にするほどのことじゃないか。


 さすがにお捻りじゃ足らないだろうと、ラプンツェルに四千ゴールドを渡して、俺は彼女が選ぶのをじっと見守った。


 店の奥には不機嫌そうなおばあさんがちんまりと座っており、挨拶をするでも品物を勧めるでもなく黙っている。おいおい商売人としてその態度は大丈夫かよと思ったが、この辺りじゃ当たり前なのだろうか。


 いやでも、さっきの砂糖の人なんか大声張って客を呼んでたぞ? まあ、俺が心配することじゃないか。


 店にはエキゾチックな極彩色の柄ものから、無地のもの、少しガサガサした安っぽいものもあり、かと思えば赤ん坊の頬のように手触りの良さそうな高級品まで種類があった。

 蚤の市にも探せばこんな店があるんだなあ。


 ラプンツェルは五分ほど店を見ていたが、最初からコレと決めていたのか、迷ってはいないようだ。店主のおばあさんを見ながら、残り少ない綺麗なブラックの生地に指を伸ばした。


「「コレ下さい! ……え?」」


 うん?

 見れば、ラプンツェルが希望する布には、彼女のものとは違う指が伸びていた。


 その指を辿るようにその人物を見ると、そこには金髪にくるりと強めのウェーブをかけた二十二、三くらいの女性と、その傍らに七三分けの中年の男がいた。

 女性のほうは少し厚化粧だが、骨格が非常に整っている。もうちょい化粧を落とせば違和感が無くなると思うんだがなあ。


 金髪の女性は驚いたようにラプンツェルを見たが、すぐに仏頂面になって店主に向き直った。


「おばあさん、二割り増しで買ってあげるから全てワタクシに売って」

「むつ、何も全部買う必要は無いじゃない。必要な分だけで良いでしょう」

「だから、全部必要なのよ! 一着分になるかどうかもギリギリの量なんだから」


 いや、全部必要って。残り少なく見えるが、ロールの直径的に五、六メートルはあるぞ。

 そんなに沢山の布を使って、一体どんな服を作りたいんだよ。


「ちょ、ちょっと、揉め事は」

「お黙り、ユッキ」


 ユッキと呼ばれた七三の男は、女性にピシャリと言われて口をつぐんだ。

 お黙りて……。


「見た瞬間にビビッと来たわ、今年の衣装はこの布以外考えられないの」

「今年の衣装? ……あなた、演劇祭の参加者?」

「ええそうよ。ワタクシの名前はフェンテレンと言うの」

「へえ」

「……えっ? 聞こえなかったのかしら。ワタクシは、フェンテレンよ!」

「聞こえたわよ」

「なっ、まさか、美貌の役者フェンテレンを知らないですって!?」


 フェンテレンって言うのか、この演者。

 もちろん、全然知らない。

 まあ俺たち二人に関しては当たり前なんだけどな。


 俺たちの布切れよりも薄い反応から、マジで知らないのだと悟ったのか。彼女は悔しそうで忌々しそうな歯をガッチリと合わせた、歪んだ仁王のような顔を披露した。

 なるほど演劇者らしく、表情筋に自信ネキというわけだな?


「ギィ……もうこの世にワタクシを知らない人は居ないと思っていましたが……ん? ということは、ワタクシにはまだまだ有名になる余地が!」


 しかも切り替えが早い。めちゃくちゃポジティブなこと言い出したぞ。


「フェンテレンさん、これ以上は警備員を呼ばれかねないので」

「どっちが買うにしても早う決めてくれんかね。ワシの店の前で喧嘩すんじゃないよ」

「ワタクシは……あら?」


 ふと、フェンテレンが何かに気づいたように右を見た。彼女の視線を追うと、一人のなんだか冴えなさそうな青年がいた。


 青年は何か紙を持ってソワソワとこちらを見ていた。話しかけるタイミングを伺っていたのか、フェンテレンが青年を見たのを時と判断したのかぐいっと近寄ってきた。


「あ、あの、フェンテレンさんですよね。サイン下さい!」

「あらまあっ! ワタクシのファンの方ですね? 良いでしょう、最初に気づいてくれた貴方だけに、特別に贈りますわ」

「と、特別!」


 美しく清楚な笑顔で対応するフェンテレン。少なくとも演者なのは間違いないな。……ああ、そうか。舞台のクセで少し化粧が厚めになってるのか。実際に舞台に立てばさぞ美しく映える人なんだろうな。

 しかしうーん、狙ってやってるのか、実は天然なのか。

 見かけは美女だと認めざるを得ないからな。特別扱いされたら跳ねて喜ぶ男もいることだろう。


「さっ、買えた買えた。行きましょう、ドリア」

「ん? えっ、いつの間に?」


 ぽむ、と俺の肩に手を置いたラプンツェルは、すでに目的の布を反対の手に持っていた。


「だってほら、あっちは時間がかかりそうじゃない。おばあさんも面倒くさそうだったから声をかけたら、同じく二割増しで全部買ってくれるならって条件で私に売ってくれたわ」


 マジかよ。もう少し待てばフェンテレンとラプンツェルの競り合いになったかもしれないのに。

 よっぽどの面倒くさがりというわけか……。まあ、中にはそういう商売人も居るよな。


「確認したけど虫食いも無いし、コレは良い買い物よ」

「結局いくらになったんだ?」

「三千ぴったし。ハイ、余りの千ゴールド」


 高っ、それホントに布五メートルの値段かよ。

 いや、地球の量産技術が無ければ本来そのくらいはして当然なのか?


 まあ、俺は紳士だからな。レディに渡した金がどうなろうとグチグチ言ったりはしないのである。


「どんな服を作ろうかしら……ねえ、ドリアはどんな服が良い?」

「え? ああ……上品そうな布だし、ドレスでも作ってみたら」

「え? ドレスが着たいの?」

「え?」

「え?」

「……俺のか。俺の服だな」

「そりゃ、勢いで五メートル以上も買っちゃったから、布余っちゃうし」


 ま、こういう勘違いもあるさ。

 これ以上タダで作ってもらうのは悪い気もするんだがな。


「うーん、よくよく見れば黒というより紺、いや紺寄りの黒だな。うん、外用のパンツか何か作れないか?」

「分かった、デザインしておくわ。……ちなみにドリアは、私にどんな服が似合うと思う?」

「は? はあ。いや。やっぱりドレス映えすると思う」


 ラプンツェル、背筋もすっと伸びてるし、歩き方にも華があるからな。本来ならドレスみたいな格のある服が似つかわしいのではないだろうか。


「あの、一つお聞きしたいのですが」


 そんなことを喋りながら去ろうとすると、ユッキと呼ばれた七三分けの中年が忍ぶように話しかけてきた。何だ、まだ何かあるのだろうか……。

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