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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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チャーリー

「……んご?」


 翌日、日が高く登ったころ、ラプンツェルはドリアのベッドで目覚めた。

 しばし惚けていたラプンツェルだが、昨日嵐の中で見つけた家に泊めてもらったことを思い出した。ついでに、裸の自分と、ベッドから薫ってくる異臭から、自分の昨晩の痴態を想起して赤面した。


 ベッドのそばにある小さな台に、水の入ったコップが置かれているのを見て、ラプンツェルは本能からそれを飲んだ。

 乾いた砂漠のような身体に水分が染み渡ってゆく。


 ラプンツェルはとりあえず軽く発声練習をして、ひとまず喋れるくらいには口の麻痺は抜けていることを確認した。


「うごごご、主に腰が痛い……穴という穴がむず痒い……」


 骨盤底筋がビリビリと悲鳴を上げ、身体中のキスマークが痺れるように痛む。なんだか大腸もゴロゴロと不調を訴えている気がした。


「ちくせう、まさか本当に朝まで付き合わされるとは思わなんだ。サイズは平凡なくせに回数だけはヤバいのね……しかも執拗に桃尻を撫でやがって、さては尻フェチだなあの〇〇ヤローっっう痛い待ってまって腰ィ! 腰つった!」


 ドリアがぶつけた愛は少々情熱が過ぎたらしい。

 一晩経ってだいぶ冷静になったラプンツェルの口からは、流れるようにドリアへの批難が飛び出した。


 とはいえ、彼のことはまだ良いと、ラプンツェルは男の欲望に対して寛容さを見せた。ドリアはむしろレイプ事件の被害者になりかけたワケだし。

 というか、押し倒されても、キスをしても、勃起した性器を見せても、何一つ抵抗してこないのだ。それをGOのサインだと思わない男は、ちょっとどうかしてると思う。


「腰ィ、腰ィ! ……ふー、ふー。なんか、柄にもないことしちゃったなあ」


 ラプンツェルはこういう男女の情事にはむしろ消極的なほうである。それはおそらく典型的な淑女である祖母に憧れているからであろうが、ラプンツェルは血筋のせいだろうなと簡単に考えている。


 別に、ドリアに魅力を覚えたから寝床を襲ったわけではない。ラプンツェルはどうしようもなく同じピクシーの温かみを感じたかったのだ。

 触れて体温を感じるだけでも良かった。しかし、行動力のあるラプンツェルはどうせ行くならヤッてしまえと下着姿で部屋に忍び込んだのである。


 だから、ドリアは悪くない。というより、ラプンツェルは誰かに責任を負わせて逃げたくはなかった。


「腰痛い……飛んで行くほうが良さそうね」


 昨日外した羽を亜空間から取り出して、背中に着ける。

 別に羽が無くてもピクシーは飛べるのだが、羽があるほうが空気の流れに乗りやすいし、長時間飛行できる。


 何より重要なのが、羽の主成分が魔力だということだ。これは多少羽が傷ついても即座に再生することと、羽自体が大容量の魔力タンクになっていることを示していた。


 ピクシーの小さな身体にエルフなどと同等、またそれ以上のMPが詰まっているのは、羽の力に依るところが大きい。


「顔合わせ辛い……」


 もちろんラプンツェルとて、経験が無かったわけではないのだが。かつての時はお互いに知識が足りず、戸惑いながら事に及んだのであるからして。

 大人の行為があんなに過激なものだとは想像していなかった。


 とにかくここで、いつまでも心の整理をしているわけにはいかない。

 ラプンツェルは一階へ降りるべく、ベッドから発とうとした。


 さわわっ。


「ドゥェラ!?」


 突然聞こえてきた葉の擦れる音に、ラプンツェルは飛び上がった。

 全く意識を向けていなかったそちらを見ると、昨日の白い鉢植えに植わった観葉植物が風もないのにさわさわと揺れていた。


「……結局アナタは、何なのよ」


 植物は動かない。だがその中でも、魔法植物と呼ばれるものの中には、動いているように見える・・・・・・種類も多く知られる。

 つまり、動いているかのような幻を見せて、鳥などの外敵を追い払うのである。


 だが、この観葉植物は少し事情が変わってくる。魔法植物の幻で、音までも聞こえるような高度な幻影を見せるものは少ない。仮にコイツが、そういう類の植物だったとしても、それを観葉植物として置いておくなんて危険極まりない。


 さわわっ、と観葉植物が揺れ、一枚の葉っぱが落ちてくる。何気なくその緑葉を目で追うと、そこに何か文字が刻んであるのにラプンツェルはきがついた。

 拾い上げて、葉っぱを読んでみる。


『ごめんなさい』


「……」


 ラプンツェルは観葉植物の手ごろな枝に手を伸ばすと、とりあえずボキッと一本折っておいた。

 さわっ、と観葉植物が痛みに揺れたように見えた。


「次やったら切る」


 ラプンツェルはそう凄むと、折った枝を魔法で灰にしてしまった。パラパラ、と鉢植えの土に灰が降り注いだ。きっと良い肥料になることだろう。


 もちろん、許したわけではない。しかし、ドリアがこの植物を大切にしているかもしれない。加えて、植物のくせに一丁前に謝罪ができたことで、ラプンツェルは何となく己の怒りを鎮める気になったのだ。


「……とりあえず、彼に会って話をしないと」


 ラプンツェルは困っていた。いやもう、いっそ困り果てて死にそうだった。ドリアという男がどこまで協力してくれるかは分からないが、とにかくラプンツェルの事情を伝えたほうが良いだろう。


「それに、あの男……なんか引っかかる」


 奇しくも、ドリアもラプンツェルに対して同じく引っかかりを覚えていたのだが。

 この時はまだ、どちらもそのことを知る由は無かった。


 ――――――


「いやあ、久しぶりの女は良いな」


 俺は思わずそう言ってしまった。

 うむ。今日は一段と肌の調子が良い。


 俺は男という生きものが多少なりとも変態であることを自覚していた。そして、自分がそのくくりにバッチリと含まれていることも。


 しかし同時に、俺は紳士的な心を忘れてはならないと日頃から律することにしている。

 どうせみんな変態であるならば、立ち振る舞いだけでも紳士でいよう、と。別にフェミニストを気取っているわけではないが、女の子に優しくすることは俺の習慣だった。


 別に、幼い頃からそうだったわけではない。色々な、そりゃまあ色々なことに巻き込まれ、最終的にそういう結論に至ったのである。


 だからだろうか、いざしとねを共にしてしまうと、タガが外れるのは。


「さすがに乱暴にしすぎたかしらん」


 確かに朝まで楽しませてもらったが、まさか昼まで起きてこないとは。


「お風呂沸かした、ご飯作った、お茶は今煎ってる。……うむ。いつ起きてきても大丈夫だな!」


 動いた後は喉も乾くしお腹もすくし、何より汗でベタつく。

 一応終わった後タオルで拭いてあげたからベタつきは多少マシだろう。水もベッドのそばに置いといたし。俺が気づいた時には失神していたから、起きた時の喉の渇きは尋常ではあるまい。

 汗をかいて水分を取らないまま寝ると翌朝ヤバいからな。


 ガタリ、と音がして、ラプンツェルが起きて来たことを俺は知った。

 上を見上げると、キャミソールなどで軽く肌を覆った彼女が、植木鉢を持ってふよふよ降りてきていた。


 ……えっ、なんであの人チャーリー持ってるの?

 いや、そうじゃない。なんでチャーリーが上にあるんだ? チャーリーはいつも一階にしか居ないのに。


「おはよう。お風呂沸いてるよ。それともモーニングが良いかな? いや、正確にはランチだけど。あっ、チャーリーはそこらへんに置いといて」

「お風呂は後で良いわ。……私は寝てたけど、昨日拭いてくれたでしょう」


 分っちゃいましたか。さすがに俺も眠かったんで、朝わかるほどにしっかりと拭いてはいないつもりだったんだが。


「ん、まあね。じゃあご飯出すから、座ってよ」

「ええ。ところで、チャーリーって、この観葉植物のこと?」

「そ。種類は知らんが、チャーリーって名前を付けたんだ。俺が大切に世話してるんだよ」


 チャーリーの種類を知ろうと思えば、いつでもディクショナリーで調べられるけれども。それをしないのは、単にその情報に興味がないだけだ。


「へえ……燃やさなくてよかった」

「何か言った?」

「何も。どうしてチャーリーって言うの?」

「観葉植物の名前はチャーリー以外に無いんだよ」

「……そうなの?」

「ソォーナンス!」

「……そうなの」


 ふふ、ラプンツェルの奇妙なものを見る目が気持ち良いぜ。ゲームオタ冥利に尽きる。


 とまあ、きっとお互い色々と話したいことは山のようにあるだろうけれど。

 俺たちはひとまず朝ごはんを食べるべく、ソファに座って向かい合ったのだった。

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