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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
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ホーミング、ボーリング

「敵を追い討つ火の玉よ『追尾火球』!」


 家の地下室。そこにある訓練場にて、俺は火炎魔法を発動していた。

 勢いよく生まれた炎が、きゅううっと直径十センチの球形に収束してゆく。別に火の玉にする必要は無く、追尾でも攻撃としては十分なのだが。熱というのは一点に圧縮したほうがパワーも出るし場保ちも良いので、火球・・にしているのだ。

 ゲーム画面で見るような大きな火の玉とは比べ物にならないほど、小さなオレンジ色の火球。だがそれが持つ破壊力は自然界の火とは一段違う。


 それを、俺は的として拾ってきた岩を狙って撃った。今までの俺の魔法なら、明後日の方向に飛んで行き、壁に当たって消えていただろう。


 しかし、たった今俺が放った火球は真っ直ぐ岩へと飛んで行き、ダンッと音を立てて岩を焼いた。


「敵を追い討つ火の玉よ『追尾火球』!」


 俺は次にあえて岩を狙わず、右の壁を向いて火球を撃つ。そのままでは右の壁に当たる火の玉は、空中でぐわんと進路を変えて、まるで吸い込まれるように岩へと着弾した。


「ふーっ……やれやれ」


 追尾魔法、習得完了である。

 時間はかかったが、つまりこういうことだろう、魔法大全さんよ。


 決して楽な道のりじゃあなかった。

 術式を書くのに使うのは魔法文字だが、コイツはアルファベットのように複数字で一単語を作ることはない。漢字のように、全ての文字が意味を持つ、いわゆる表意文字なのだ。

 かと言って漢字のように複雑な意味があったり、一つの文字が複数の意味を持っていることも無い。魔法文字が表す意味はとても単純なものだ。

 しかも数が多い。その種類は約十万種あり、その一覧だけで魔法大全が五百ページ埋まっていた。


 ちなみにあの本、何らかの魔法がかかっているらしく、見た目や軽さとは裏腹に十万とんで三千ページまである。なので全体から見れば五百ページはほんの一部だ。

 ……あの本、俺が生きているうちに読み終わるのだろうか?


 とにかく、そんな文字を使って頭の中で起こっていることを表現しようというのだから、ぶっちゃけアホみたいに難しい。

 もちろんある程度、こうこうこれらの文字を使うと雨が表現できますみたいなパターンは決まってる。それをちょいちょい弄ればあられや酸性雨も表現できるので、パターンをしっかり勉強することも大事だ。

 だが覚えるのは簡単ではない。術式は読み上げるものではないので、それぞれの文字に発音は存在しない。だから暗記法として代表的な語呂合わせや、音読を使った暗記法は一切使えないのだ。


 てな訳で、すげー時間がかかりました。ウン。

 一応、『火炎』や『ホーミング』といったキーワードに絞って魔法文字を勉強したんだがな。


 ……えっ、ゴブリンの巣はどうしたって?


 ああ、探し当てたよ。一週間かけてな……。


 遺跡から南西に十キロ。意外にも知能があるのか、その入り口は草と枝を組み合わせた垣根で隠されていた。


 まあ、垣根は小さくて入り口を隠しきれていなかったし。そもそもスッカスカで向こう側の入り口が丸見えだったし。何故か入り口から離れたところに設置されていた垣根もあったけどな。


 ……訂正、やっぱアイツら頭悪いわ。


 その後、洞窟はひとまず放置して。俺は何とか書き上げたオリジナル術式を睨みつけながら、ここ数日はひたすら魔法の練習をしていたのである。


 そんなわけで、ひたすら根気のある作業をしておりました。

 まあ、一日の最後に風呂に浸かって、疲れを取れたのが成功した要因だな。


「MPには余裕があるけど……辞めとくか」


 その場その場の思いつきで行動するのが悪いとは言わんが、やはり物事は計画的に進めるべきだ。


 そういえば、魔法というのは使っていると『慣れる』もので、一番初めに俺が水を出した時はMPを20も使ってしまった。

 しかし、今なら水瓶一杯の水であればMPは4で十分だ。何というか、自分の魔力の扱い方にだんだん無駄が無くなってゆくのだ。


『追尾火球』も、今は一発あたり30のMPを使う大技だが、慣れてくればもっとコストを抑えて撃てるだろう。


 あっ、ちなみに『追尾火球』ってのは俺が考えた名前だったりする。

 本当はもうちょっとカッコ良い名前を付けたかったが、魔法の名前は終言として唱えることも多いのでストレートな名前にした。

 終言を唱える瞬間は、なるべく考えていることは少ないほうが良いので。あんまり凝った名前を付けるとどうしても名前のほうに意識が引っ張られてしまうのだ。


 あと、集中している時に中二病くさい長々した名前を言うと舌を噛む。


 そう考えると、俺が初めて唱えた終言の、『水』ってやつ。覚えているだろうか。

 あれ、めちゃくちゃ合理的な終言だろ?


「ま、レベル上げ以外にもやらなきゃいかんことは一杯あるからな」


 俺は訓練場を片付けると、畑を作る候補地へと向かった。


 ――――――


 当然だが森というのは、その中でも低い所と高いところがあり、微妙に高低差がある。

 場所によっては数メートルの崖になっている部分もあり、そのせいで陽当たりが悪くなっていることもある。

 畑にする土地の木は、当然ながら全部切ってしまうので、木々が作っている影はあまり気にしなくていい。


 俺が候補地として選んだのは三つ。真っ平な土地が一つと、南に向かって少し傾いている土地が二つ。当然南に向かって起きている土地のほうが、陽当たりは良いだろう。


 問題は水捌けのほうだ。


 水捌けを調べる最も原始的な方法は、雨が降った次の日に、土地が湿っていないかを見ることだ。

 数日晴れているにもかかわらず土地がジメジメしていたら、その土地の水捌けは良くない。


 後は実際に掘り返して土を見てみるボーリング検査なんてのもあるが、専門の知識なく土を見たってしょうがないだろう。


 実はちょうど二日前に森に雨が降ったので、水捌けの具合をみるにはちょうど良い。

 俺は製図紙にトレースした地図を見て、まずは真っ平の候補地へと向かった。


 真っ平の候補地は俺の家から南西。歩いて来るなら二時間はかかる。いやあ、飛べるって素晴らしいな。

 そこに降りてみると、樹皮がまるで網のように断裂した木々が競うように天へと伸びている。


 俺は候補地の土地に手を当てると、軽く魔法を唱えた。


「掘り起こせ」


 今回は終言は唱えない。毎回魔法を使うたびに終言を発していると、終言無しでは魔法が撃てないようになってしまうからな。

 じゃあ普段から終言無しで魔法を使えば良いと思うかもしれんが。やはり終言があると魔法の安定感や成功率が高いので、終言を発することにも意味はある。


 じゃっ、と。穴がショベルを使ったように掘られ、その穴の隣に避けられてゆく。土と一緒に掘り出されたミミズが、慌てたように視界の端へ消えていった。

 俺の身体の半分、十五センチくらい掘ったところで魔法は消えた。うん、まあ、今の俺の腕前だと掘れるのはこの程度だ。


「うーん……ジメジメとまではいかないんだがな」


 俺は掘った穴や土をぺたぺた触って、質感を確かめてゆく。けっこう湿っていて冷たい。

 ネットでは、水捌けの悪い土地は粘土みたいだという情報を見たことがある。ネットの情報なんて俺は九割信じていないのだが、粘土質の土地が農業に不向きだというのはなんとなく想像がつく。

 粘土と赤土ってだいたいレンガに利用されてるからな。


 土の色は黒め。ホームセンターで菜園用の土を買うとだいたいこんな色なので、栄養状態は良いのかもしれない。


 俺は気づいたことを一通りメモすると、次の候補地へ向かった。


 それから候補地を見て回ったのだが、ぶっちゃけなんとも言えなかった。


 南に少し傾いた二つの土地は、一つは湿りきっていて触るとぐちょっとしている。あっこれはダメだなと、素人目にも分かった。


 もう一つは特に悪いところは見たらない。

 水捌けは良さそうだし、掘ってみるとフカフカしていていい匂いのする黒っぽい土である。

 ただ……よく良く考えると傾いた土地って整備するのめちゃくちゃ大変なんじゃなかろうか?

 だって、畑にするにはこの斜面を段々に切り取らなきゃいけないじゃないか。なんかすげー面倒くさそうだぞそれ。


 悩ましい限りだが、ひとまず水捌けの悪そうだった土地だけ候補地から除外した。

 後は家で考えようと、俺は一旦帰宅するのであった。

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