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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
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薔薇の蛇

本文に欠落があったため、再投稿しました。

 魔法が難しい理由は、さまざまな要素が複雑に絡んでくるからだ。


 ゲームみたいに呪文を唱えて、はい終わり、となればシンプルで良いのだが。実際には術式とか変調とか詠唱とか終言とか属性とか魔石とか、学んでいかないといけないことが多すぎる。


 その理由は、一つ。魔法が万能であるため・・・・・・・・・・だ。


 魔法の万能性を言うには、あらゆることに応用が利かなければいけない。

 そして願うのが人である以上、全く同じ願いでも内容が変わってくるのだ。


 例えば、二人の魔法使いがパンを食べたくてたまらないとする。二人は今すぐ魔法でパンを生み出すことにした。……めちゃくちゃ笑える光景だな。


 だが二人の食べたいパンは微妙に違うだろう。片方はレーズンパンで、片方はライ麦パンかもしれない。

 ひょっとしたら二人とも食パンが食べたいかもしれない。しかし、二人の求める理想の食パンの柔らかさは同じだろうか。耳の硬さは柔らかいか、少し歯応えを求めるか? パンはしっとり系か、もちもち系か? 重視するのは小麦の香りか、甘味か?


 魔法というのは、そういう些末さまつな違いにも対応できなければならない。そしてそのためには、ゲームのような短い呪文フレーズだけでは限界があるのだ。


 もし仮にゲームのような、とにかく敵に向かって火の玉が飛んで行きゃあ良いというのならば、決められた呪文を唱えて決められたように魔力操作をするだけで良い。


 しかし、これは現実なのだ。現実の戦闘というものは障害物もあるし、悪天候や視界不良、無駄な消費を抑えるための手加減を考慮しないといけない。

 現実で魔法を使って戦うには、そういう細かいところを上手いこと、しかも瞬時に調節できなければならない。


 何よりゲームの魔法みたいに、敵味方を自動で区別してくれることもないのだ。

 だって、どこからどこまでが敵なのか、そもそも敵とは何なのか、どの程度対立が深いと敵になるのか、それは魔法使い本人にしか、というか本人にもよく分からないのだから。

 そういうアホくさい哲学も、魔法を扱う以上はそれなりに真面目に考えなけりゃならん。


「ててててっ、てってってー。よしレベルアップ」


 ここは旧カンデラ遺跡、三階建ての西別棟の二階。

 関係者の宿所だったのだろうか。簡素な寝室をいくつも備えたその別棟は、変に増築がなされたのか少し複雑な造りになっていた。


 いつの間にかレベルは15となり、熟練ポイントを『魔法の才』にぶち込んできたおかげかようやく魔法というものが分かり始めてきた。……ホーミング火炎弾は、まだちょっとつまづいているが。


 しかし、灯りを点けたり風を起こしたりといったことはできるようになった。魔法使いとしてこれは順調、なんだろうか?


 最近では体当たりにも慣れ、一日に五匹ほどゴブリンを狩っている。

 ただ流石に狩りすぎたのか、ここ二日はゴブリンを見なくなってきた。新しい狩場を探さないといけないのだろうか?


 結局遺跡にあったものはガラクタばかり。見つけた工具は錆が酷すぎて崩れてしまい、ロープ類は劣化しすぎてすぐ千切れる。椅子もテーブルもほとんどカビて、金貨や宝石などは一つもない。

 劇場だったというのはやはり間違い無さそうなのだが……ホント、一体何年前の建築物なんだ?


 ――――――


 ソレは自らの居住に侵入した外の匂いを不快に思っていた。


 チロチロと舌を出し、その居場所を嗅ぎつける。ここからそう遠くないところに、招かれざる者の匂いがした。


 たしかにソレが此処へ来たのはつい最近だった。しかし、時期など関係無い。ソレが住むと決めたのだから、此処はソレの縄張りなのだ。

 縄張りの中にいる者は排除せねばならない。


 ソレはとても狩りが上手かった。ソレは自らの巨体と目立つ色彩が、狩りにとても不向きであることを知っていた。だから、ソレは敵意や音を隠す術を磨いた。


 チロチロ、チロチロと、気配を消してその不快な匂いへと這ってゆく。

 奴はどうやらこちらに気づいていないらしく、動く様子がない。


 奴の背後にやすやすと近づいたソレは、大口を開けて一気に呑み込んだ。


 しかし、口の中に感触が無い。ソレは瞬時に仕留め損ねたと理解した。

 ソレはすぐに舌をチロチロと出して、熱や匂いで居場所を探った。


 見つけた。


 ソレはぐっと鎌首をもたげ、天井からこちらを見ている奴を睨みつけた。


 ――――――


「あっっっっぶね! ヤバい、完全に油断してたぞ」


 ソレは緑色の大蛇だった。俺みたいなピクシーなんてやすやす呑み込む、全長四〇メートルはある大口の蛇。

 ボディは赤いバラ柄。好戦的な金色の眼は決して俺を捉えてそらさず、身体を覆うウロコはいかにも硬そうである。


 俺は一度落ち着く意味でも、ソレを画像検索にかけた。




『ローズコブラ』

 比較的涼しい森を好む緑色の美しい大蛇。水を飲みに行くと、水面に映る自分の美しさに見とれてしまい三日は帰ってこない。


 薔薇模様を持つのがオスで、持たないのがメス。薔薇柄でメスの気をひくとされ、わざわざ目立つ場所に出てきてポーズをキメる。見かけるのはほとんどオスで、メスの目撃例は少ない。いずれの性も獰猛で、テリトリーを犯す者には容赦しない。

 大きさとパワーに目が行きがちだが、巨体からは想像できないスピードこそ最大の脅威である。




「ローズコブラ……おいおい、こんな奴今までどこに居たんだよ。はっ、まさかお前のせいか? お前が俺の獲物ゴブリンを食ったのか?」


 だからここんとこゴブリンの数が少なかったのだろうか。


 すると、ローズコブラは驚きの行動に出た。

 俺との距離を測っていたとでも言うのか、ローズコブラは俺の周りをゆっくりと這いながらこちらを伺い、突然口を開けて俺に向かって飛び上がってきたのだ。


「シェーー!」

「ちょっ、嘘だろ!?」


 とっさにかわすと、ローズコブラは天井とキスを……と思いきや、そのまま天井を破壊して上の階へ突き抜けた。


 辺りに木片が降り注ぎ、俺は慌ててそこから離れる。たかだか木でも鋭く尖っている木片であれば、それはナイフみたいなものだ。


 いやいやいやいや、いくら天井が腐り気味だったからって、あんな突進食らったらマジで死ぬぞ!?


「シェーー!」

「分かった分かった、ここをお前のナワバリにしたいんだな。俺は出ていくから好きにインクを塗ってくれ!」


 ローズコブラは踵を返す俺を強く睨みつけてきた。俺はナワバリに入ってきた不届き者ということなんだろう。

 もちろんあんなデカブツとまともに戦う気はない。幸い遺跡の構造は頭に入っているので、脱出はさほど難しくはない。


 なるべく速く飛びながら、俺は一瞬振り返ってローズコブラが追って来ているか確認を――えっ?


「やべぇ追いつかれる!」


 俺は心臓を掴まれたように恐怖した。ローズコブラはその巨体をぐねりぐねりと操り、俺と同等かそれ以上の速さで床を這ってきていた。

 途中の柱や調度品といった障害物は物ともせず、全て破壊して迫ってくる。


「うっそだろお前!? 今の俺、法定速度より速く飛べるんだが!?」

「シェーー!」


 俺はストレージから、何体ものゴブリンの頭蓋を割ってきた信頼と実績の石を出した。

 急いで魔力を変調させる。MPをめいっぱい注ぎ込むイメージで、瞬間的な風を創り出す魔法を唱える。


「掌中の物を飛ばせ、『ウィンド』!」


 前へ飛びつつも身体をくるりと後ろに向け、ローズコブラにその魔法を、というか石を発射する。


 ぽこっ。


「ギェ!」


 運良くローズコブラの牙の付け根に当たったおかげか、ローズコブラはほんの数秒だが怯んだ。

 この別棟はそこまで大きな建物では無い。ピクシーの速さを手に入れた俺には、数秒あれば十分だった。


「よし、こっちの大穴から出るぞ!」


 崩れた壁から外に出た俺は、とにかく上へ上へと逃げる。跳躍力があるとは言え、蛇だ。まさか飛べるなんてことは……飛べるなんて、無いよな?


 十分な高さまで逃げた俺は、改めて西別棟を視界に収める。どうやらローズコブラは別棟から出てくるつもりはないらしく、あっさりと壁の前で振り返り、別棟の奥へ帰っていった。


 俺は高鳴る心臓を落ち着けるべく、ひとつ大きく深呼吸をするのだった

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