魔石の浄化
訂正
・遺跡がよくよく考えたら小さすぎたので、大きくしました。
※サッカーコート四個分→十個分
確かに俺は異世界にスリルを求めていたのかもしれない。
しかし、それはやっぱり間違いだったと思った。
だって死にたくねえもん!
「ゴブリンとは格が違うだろ。何モンだよあの化け物」
ひとまず、あの遺跡にはしばらく手をつけないことにしよう。
じゃあどこでレベルを上げれば良いのかという話だが……解決法は二つだ。
一つは、対策を立ててあの大蛇を倒す。……いや、危険すぎるだろ。根本的にレベルが足りてねえよ。
もう一つは、諦めて他のレベル上げスポットを探す。これに関しては、一つ考えがある。
地上にいるゴブリンは、ディクショナリーによると群れを追い出されたオスだという。ゴブリンは洞窟で集団生活をするのが一般的らしいからな。
あの遺跡のゴブリンは、どうも群れているという感じはしなかった。生殖器を見るに全部オスだったし、戦闘音を立てても応援が駆けつけてくることは無かったし、だからこそ俺は体当たりで安全にゴブリン狩りができたのだ。
遺跡にはぐれゴブリンが複数住み着いていた。それってつまり、近くにゴブリンの洞窟があるということじゃないか?
もちろん危険は今までとは比べものにならん。今までは個々で活動していたゴブリン達が、連携を取ってくると考えられるのだから。
ただ、ピクシーはそのスピードゆえ逃げ足だけは速い。
巣窟の奥に乗り込むのは危険すぎるが、洞窟の入り口近くを偵察くらいはしても良いんじゃないだろうか。
「よし、そういう方向でゆこう」
ひとまず、今日は疲れた。ゴブリンも何匹か倒したし、家に帰って魔石を取り出そう。
――――――
ゴブリンの魔石は右胸、つまり向かい合って左側の下部にある。おそらく心臓の活動を邪魔しないためだろう。
魔物というのは進化の過程で、瘴気を利用するようになった動物のことだ。
瘴気の利用の仕方は魔物によって様々だが、そもそも瘴気とは何か。
魔法大全によれば、一言で言うのは難しいらしい。しかし、魔力を心に反応するエネルギー体だと表現するのならば、瘴気は心『が』反応するエネルギー体と言える。
瘴気に当てられた人は、感情が不自然に昂ったり沈んだりしてしまう。重度の情緒不安定だ。
瘴気の力を得た魔物は、普通の動物とは異なり強い力を得る。……ジャコメダカやゴブリンは元が弱すぎるだけだ。
その代償として、強い瘴気に反応して心が壊れてしまい、凶暴性がぐっと高まる。だから魔物は人を見ると、逃げるか襲うかの二択しか取らない。
魔物の体内に魔石ができるのは、瘴気をコントロールするために強い魔力が必要になるからだ。強い瘴気を有しているほど魔物は強くなる。
そしてより強い瘴気をコントロールできる魔物は、より強い魔力、すなわち大きな魔石が体内にある。大きな魔石は我々人類にとっても利用価値が高い。
ちなみに瘴気は身の回りにも漂っている。もちろん人体に影響が出るほど濃い瘴気なんて滅多にないが。
「はっはっは、すっかりゴブリン解体師としての姿が板についたじゃないか」
ゴブリンの右胸をパックリ開き、ささっと魔石を掘り出す。血で汚れたそれを軽く水洗いすると、青濁色の石が鈍く輝いた。
死体はマジでどうしたものか悩むが、とりあえずストレージの肥やしにしている。
今日の成果は三体。三つの魔石をさっと水で洗った俺は、すぐに外へ出て浄化作業へ。
と言っても、そう複雑で難しいものではない。
魔物の中にある魔石が使えないのは、ずっと瘴気に晒されていたために魔石の中に瘴気が入り込んでしまったからだ。だから、それを追い出す。
浄化作業は普通外で行う。密室でやると瘴気が籠るのでやめるべきだ。……まあ、ゴブリンの魔石程度なら籠ったところで影響は無いらしいが。
水瓶をストレージから出す。ここにいつもお世話になっている泉の水が入っている。まずここに魔石を三つ入れる。
瘴気というのは水に溶けるらしく、こうして浸しておけば瘴気が魔石の外に逃げやすくなるらしい。
魔石というのは魔力の塊なので、ちょっと刺激すると強い魔法の力が発現するらしい。魔石に手を触れて悪いものが出てゆくイメージを送り込むと、瘴気は水に追いやられ、結果的に綺麗な魔石と瘴気で汚れた水が残る。
以上が、魔石浄化のプロセスである。本当にこれだけ、のはずなんだが。
なんか上手く瘴気が出て行かないんだよな。
「もう一度魔法大全を見直してみるか」
ストレージから本を出して、魔石浄化のページを開く。
『魔石の浄化は、瘴気の水溶性と魔石本来が持つ力を利用するのが効率的です』
『そもそも魔物が体内に魔石を持つのは、自分の瘴気をコントロールするため。つまり本来、魔力は瘴気よりもランクの高いエネルギーなのです』
『まず浄化と言っても、瘴気を消滅させるわけではありません。瘴気の弱化はまだしも、消滅となるとなかなか手間です。瘴気はあまり空気中に出てゆかないため、魔石を水の中に入れることで、瘴気はスムーズに外部へ出てゆくことができます』
『魔石はそのままでは反応性が低いため、刺激して活性化させます。瘴気、悪いものが出てゆくイメージを持ちましょう。魔石はあなたのイメージに反応して、瘴気を水に追いやろうとします。瘴気が無事出てくれば、浄化は成功です』
その後は、瘴気の溶けた水の扱い方や後始末について書かれているばかりで、特に浄化作業そのものについては書かれていない。
もしかすると、魔石を刺激するというのが上手くいっていないのだろうか?
魔石とは不活性の魔素が固体になったもので、魔素は魔力と違い人の心に反応する度合いは小さい。だから魔石を刺激するというのは重要なことだ。
「どっかに書いてねーかな」
ペラペラとめくってみるが、何分こいつページ数が異常に多いので全くそれっぽいページが見つからない。多分どっかしらに書かれているとは思うんだが……。
「とりあえず、イメージの前に魔力を送り込んでみるか」
学ぶのも大切だが、時には自分で実験してみるのも良いだろう。俺は魔力を右手にぐっと集中させると、魔石に触れてみた。
すると、魔石がほんのりと光り、カタカタと震え始めた。おっ、上手くいったか?
そのまま魔力と一緒に、悪いものが出てゆくイメージを送り込む。すると魔石の光が強くなり、冷たい水の中で強い熱を持ち始め――
「ってアチチッ! えっ、ちょっとこれヤバいんじゃないか!?」
明らかに熱が強すぎる。
なんか嫌な予感がして、俺はとっさに魔石から手を離した。
しばらくすると魔石の光はだんだんと小さくなっていき、震えも収まった。
恐る恐る水に手を入れると、冷たい泉の水は少し濁り、ぬるま湯になっている。
中から魔石を取り出してみると、少し軽くなっている。濁っていた魔石は透き通り、なんとも美しい宝石と化していた。
うーむ、なんか成功したっぽい。今までは魔石の濁りが取れなかったからな。
その後、魔石に送る魔力を小さくして浄化を行ったところ、さっきのような異常な発熱は起こらなかった。どうやらちょっと魔力が強すぎたみたいだ。
瘴気が溶けた水は、なるべく川や海などから遠い場所で捨てるらしい。もちろん、泉の近くもやめるべきだ。水に溶けた瘴気が流れ込むかもしれないからな。
水が近くに無ければ、土壌に染み込んだ瘴気は自然に消滅するので、汚染の問題はないそうだ。大地ってすげえな。
「よし、使ってみるか」
俺は初めて魔法大全を読んだ時と同じくらい、ワクワクしていた。今まで風呂や水道が使えなかったのが、この魔石によって動くかもしれないからだ。
俺は三つの魔石を持っていそいそと風呂場に移動する。
風呂場の機械には魔石をセットする穴がある。コイツを動かせば浴槽に湯を張ったり、シャワーが使えるようになる。魔石の大きさは、穴に入るサイズであれば何でも良い。
魔石の中にある魔素は、魔力と違って属性を持たない。だから火の魔石や水の魔石みたいな属性を持った魔石は、少なくとも自然界には存在しない。
「一度に二個以上の魔石を入れないこと、同じ魔石を一ヶ月以上使用し続けないこと、異常を感じたらスイッチを切ってから魔石を取り出すこと、機械を無闇に分解しないこと、浴槽の栓は閉めること、ちゃんと百まで数えましょう……ふむふむ」
俺は説明書をしっかりと読みながら、一つ一つ操作してゆく。浄化作業みたいに発熱したら困るからな。
「温度と水量を設定して、青いボタンをポチッと」
ぱっ、と。湯張り中を示す、機械の青いランプが灯った。
それから数秒の後、浴槽上部の五百円玉大の穴からチャーッと水が吹き出した。
「……」
地球で見慣れた光景だったのに、俺はその水にしばらく見入った。
つーっと手を伸ばし、水に触れる。
「あったけー……」
色々と上手く行かないことはあるけれども。どうやら俺の異世界生活は、確実に豊かになっているらしいと。
俺は改めて実感したのである。
――――――
数日後。
俺は魔石についてより詳しく書かれたページを見つけた。
『魔石を活性化させるには少量の魔力を送り込むと良いでしょう。連鎖反応によって魔素が次々に活性化してゆきます。決して、魔力をぐっと込めないように。爆発します』
「……」
やっぱその場の思いつきで魔法の実験をするもんじゃ無いな。何が起こるか分からん。
処女作なので評判は度外視なのですが、それでもじわーーっと伸びているのをみるとなんかニヤけてしまいますね




