閑話10
今日は二話更新します。
こちらは二話更新の二話目です。
玲奈視点。あくまで玲奈の主観です。
「でもそうすれば勝彰が幸せになれるじゃない!」
この世界がゲームのシナリオに沿って動いていることに気が付いたのはいつ頃だったろうか。
きっかけは華蓮との他愛のない雑談の中だった。華蓮は勝彰との間に起こった出来事を隠すことなく私に話してくれていた。そこである違和感に引っかかった。
(ゲームでのイベントが発生している?)
前世の記憶を思い出した幼少の頃、勝彰の家庭の不和を未然に防いだことで私は高を括っていた、慢心していた。この世界はゲームとは違う、別の未来を勝ち取ることができると。それは一つの正解であって大きな間違いでもあった。
結局のところ、プレイヤーが選ぶ選択肢によって結末が枝分かれするのはゲームでも変わらず、現実ではゲームに用意された選択肢よりもその数が無数に多いというだけだったのだろう。
人を使って調査したところ、他の攻略対象者ともイベントは起きているものの、その数は勝彰とのイベントが一番多く、必須イベントを全て起こしているのも勝彰とだけだった。
このままゲームシナリオに沿ってイベントが起きていくというのなら勝彰の個別ルートに入ることは避けられないだろう。
この世界が必ずしもゲームと同じ結末を迎えるとは限らないことに疑いは無いが、ゲームと同じ結末を迎える可能性も無いとは限らない。そして、結末は違えども、その発端となる出来事は起きるであろう可能性が高い。
勝彰の個別ルートはどうであったろうかと記憶を掘り起こす。エンディングは二つ、グッドエンドとバッドエンド。グッドエンドならば問題は無い。勝彰と華蓮は結ばれ一年生終了までに絆は深まりエンディング後に幸せな家庭を築く後日談が挿まれ終了だ。
バッドエンドの場合はどうだったろうか、クリスマスパーティで二人は結ばれること無くゲームではそこで描写が終了しその後にどうなるかは不明瞭だ。ただし、玲奈の悪行は表に出ているのでそのまま勝彰と玲奈の関係が続くとも思えない。まあ、その場合は勝彰は他の女性と見合いなりなんなりしてそこそこの人生を送るのだろう。
ではこの現実ではどうなるのであろうか。このまま勝彰の個別ルートに入ったとして私に華蓮をどうにかするつもりはない。他の誰かが嫌がらせなりをしてその罪が私に被せられるかもしれないが、それで二人が私を断罪するとも考えにくい。二人が付き合うのであればこれらは関係ない、光彰さんに突き付けた条件通りに婚約を解消し二人を祝福してグッドエンドコースへと送り出してやればいい。問題は二人が付き合わなかった場合で、その場合はバッドエンドコースを進行する筈だが、断罪されるはずの私が断罪されず勝彰との婚約関係もそのまま解消されないかもしれない。
その可能性を考えると一つの不安が湧き起こる。私はゲームの中で悪役令嬢という立ち位置で、破滅の未来を持っている。その未来はゲームの中ではグッドエンドだろうとバッドエンドだろうと変わらない。
このまま勝彰との婚約関係を維持したとして、破滅の未来に勝彰を巻き込む可能性は捨てきれない。
「私が断罪されれば貴女が勝彰を幸せにする」
最良はグッドエンドだろう、何と言っても幸せな未来が約束されている。
「シナリオを受け入れれば未来は約束される」
次善は通常の通りにバッドエンドを迎えることか、少なくとも勝彰の身に不幸が降りかかることはないだろう。
「このままだったら勝彰を不幸にしてしまう」
そして最悪はいわずもがな、バッドエンドを迎えつつも私との婚約関係が維持された場合だ。私の破滅の可能性に勝彰を巻き込むことになるかもしれない。
ただ、破滅の可能性といったところで起きるかどうかもわからない、そのきっかけとなる出来事が起きたとしてもあっさりと回避できるかもしれない。ゲームの中の玲奈と私は全くの別人なのだから。
「そんな未来は要らない欲しくない許さない」
でも、しかし、避けきれなかったら?回避することもかなわないほどに大きな出来事だったとしたら?それに勝彰を巻き込んでしまっていいの?良い筈がない、私の望みは勝彰の幸せなのだから。
「だから私は断罪されなければいけないのよ」
ならこのまま勝彰のルートに突入するとして私はどうすればいい?そんなことは決まっている、悪役令嬢として行動し、断罪され、一人で破滅すればいい。
勝彰の幸せの為、私は私を全うすれば、それでいいの。
「そうか・・・、分かった。だったら玲奈の言う通り、今の婚約関係を破棄しようか」
ああ・・・、それでいいの、そうすれば勝彰は幸せになれる。少なくとも私の不幸には巻き込ませはしない。




