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第七十八話

 あの後、誘拐犯の片割れが警察に連行されていくのをボーっと見送ってから、調書をとるために事情を聞かせて欲しいと説明を受けて私も警察に行くことになった。

 二時間くらい女性の警察官の人と攫われる直前から助け出されるまでの間のことを話したのだけれども、最後の方は本当にピンチでかなりの怖い思いをしたものの全体的には目隠しをされて縛られた状態だったから周りの状況なんて音くらいでしか把握できないからほとんど話せるようなことが無くてちょっとだけ申し訳なく思う。

 それでも一通り分かることは話したところで今日のところはこれで大丈夫、もしかしたら後日にまたお願いするかもと言われて部屋を出ると木下君が廊下で待っていて一緒に出てきた女性警察官さんに一礼した。

 「じゃあ、彼氏さんにヨロシクね」なんて言いながら颯爽と立ち去る女性警察官さんの背中を見送りながら先ほどまでの会話がぶり返して顔中に血が上るのが分かる。多分じゃなく、真っ赤っ赤になっている今、木下君の顔がまともに見れる気がしない。

 先ほどまでの事情聴取、二時間の全てを真面目な話で通したわけじゃなくて、話している内に落ち着けてきたのと、話を聞いてくれていた女性警察官さんの人柄のおかげか打ち解けてきたせいもあって後半の方は殆ど雑談ばかりだったりした。

 とはいうものの、流石に初対面ではそれほど話題も豊富という訳にもいかず、少ない話題の中で古今東西の女性が好む話題の一つといえば恋バナで、誘拐事件に巻き込まれた女の子と事件の現場まで駆けつけた男の子なんてものは格好の題材でしかなかったり。

 女性警察官さんは事件当時、那月ちゃんのお家に居たみたいで監禁場所に向かう刑事さんに木下君が一緒に同行できるように頼み込む姿を目撃していたとかで「イケメンなだけでなく、彼女のピンチに必死になってくれるなんて素敵な彼氏よねー」なんて冷やかしてくれた。

 一応、まだ・・彼氏じゃないですよって否定してみたけれども、どこまで聞き入れてくれているかは分からない。ましてや監禁場所から事情聴取の為の部屋に案内されるまでの間、ずっと木下君の手を握っていたのを目撃されていたとあっては尚更だったり。解放された直後からしばらく、少なからず放心状態だったから殆ど無意識の犯行なんだよねえ、「らぶらぶよねー」なんてからかわれたして記憶はばっちりとあるだけに落ち着けた今は悶絶しそうで猶更木下君の顔が直視できないのです。

 そういえば、どうしてあの場所に木下君が来てくれたのかとか、そもそもあそこの位置が何で分かったのかとか、そういう諸々の事情は一切聞いていないのだけれども、私の疑問を察してくれたのか落ち着いたところで改めて説明してやるということで両親も駆けつけてきているから一先ずそちらへと促された。

 ロビーみたいなところへ出ると両親だけでなく、那月ちゃんとそのご両親も待っていた。

 お母さんは私の姿を見るなり抱き着いてきてそのまま泣き出してしまった。そりゃ娘が誘拐されたともなれば心配するよねってことで、心配を掛けたことと無事にお母さんとお父さんに再会できた安心とで私も一緒になって泣き出してしまった。


 「この度は当家の事情に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」


 「いえ、悪いのは誘拐犯であって、被害者という点で其方も立場は同じでしょう、謝罪は必要ありませんよ」


 抱き合ってわんわんと泣き合っている私たちのわきで那月ちゃんのお父さんが謝罪とともに何やら封筒(分厚い)を差し出すのをお父さんが笑って押し返していた。今回狙われたのは那月ちゃんで、私は勘違いで攫われたのだけれども、そのことで那月ちゃん本人やそのご家族に責任なんて無いと思う。お父さんが言うように悪いのは誘拐犯なのだしね。だから、那月ちゃんのお父さんが差し出しているのは見舞金とか慰謝料とか、あとは口が悪い言い方で口封じとか?だと思うけれど、そんなものを貰ういわれも無いのだしきっぱりと突き返すお父さんカッコイイ。

 しばらくしてやっと落ち着いたのかお母さんが離れると今度は那月ちゃんが抱き着いてきた。


 「華蓮お姉様ごめんなさい・・・!わた・・・わたしのせいで・・・!」


 「那月ちゃん・・・、いいよ、那月ちゃんが怖い思いしないでよかった」


 抱き着いてきて泣き出してしまった那月ちゃんが落ち着いてくれるように頭を優しく撫でる。

 今回、誘拐犯が狙っていたのは那月ちゃん、というか江里口家のお金で、本当だったら攫われたのは那月ちゃんだった筈で私は偶然というか何故か巻き込まれてしまった形になる。

 でも、だからといって私に那月ちゃんを恨むような気持ちは全くない。お父さんも言っていたけれども悪いのは当然誘拐犯であって那月ちゃんが悪いなんてこれっぽちもない。

 もの凄く怖い思いもしたけれども、本来なら那月ちゃんがあんな思いをすることになったわけで、私でも凄く怖かったのに私よりもっと小さな那月ちゃんがあんな目に会わなくて本当によかったと思う。

お読みいただき、ありがとうございます。

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