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閑話9

木下視点で事件発生時点からのお話です。

 「例のイベント関連で、お前が誘拐されるイベントがあるのが今日だったからな。流石にそんなことが起きるとは思わんが用心に越したことは無い。今日は一人で行動しないようにしておけ」


 例のゲーム内で誘拐イベントが起きる日、今までもゲーム内のイベントに準えるかのような出来事が起きている中で流石にこればかりは起きないだろうとは予想はしていた。もし宇都宮がゲームの中そのままの人物であったのならもっと警戒するのだろうが今の宇都宮はゲームのそれとは似ても似つかない──それは他の人物にも当て嵌まるのだが──、とてもではないが嫉妬から誘拐騒ぎを起こすような愚物だとは疑うだけでも失礼というものだろう。

 だがそれでも万が一が無いとも限らないので注意喚起くらいはしておこうかと思ったのだが、タイミングが良いのか悪いのか今日は美術部の活動に来ていないらしい。流石に電話を掛けてまで、というのは過保護になるだろうかとも思ったがこうやって迷っている時点ですでにその答えは出ているのだろうなと電話を掛けた。

 どうやら江里口の姉の方と一緒だったらしく杞憂だったかと、それでも一応の注意喚起への返答は森山の意味のある言葉ではなく、短い悲鳴のような声と耳元で何かが地面に落ちたような耳障りな音だった。


 「おい!?どうした、大丈夫か?」


 先ほどの音は携帯を落とした音らしく、いくら呼びかけても答えが返ってくることは無い。通話は切れていないようなので呼びかけ続けているがすぐに拾えないような状況らしい。


 『──もしもし、木下先輩ですか?』

 

 森山の電話から森山ではない女の声が聞こえてくる。聞き覚えのある声と俺のことを先輩付けで呼んでくることから今日、森山と一緒に居たという江里口の姉だろう。


 「江里口か?森山はどうした?」


 『えっと、木下先輩、落ち着いて聞いて下さいね、落ち着くってどうするんでしたっけ、ああ、そうだ深呼吸、深呼吸です』


 「まずは、お前が落ち着け。ゆっくりでいい、何があった?」


 『ゆっくりなんてしてられません!華蓮お姉様が、華蓮お姉様が攫われちゃったんです!』


 「何だと?」


 『何?じゃないですよ、連れ去りです、勾引かしです、誘拐です!』


 誘拐?誰が?森山がか?まさか宇都宮が本当にやらせたのか?だが何の為にだ?イベントの成就の為か?


 『えっと、えっと、それでですね、多分ですけど、華蓮お姉様が攫われてしまったのは私のせいかもしれないんです』


 「森山が攫われたのが何故お前のせいになる?」


 『私もつい先ほど聞いたんですけど、うち宛てに予告があったみたいなんです、私か智也を攫うって、身代金を用意しておけって、それですぐに帰ってくるように言われまして、それを華蓮お姉様に伝えようと思って、そうしたら華蓮お姉様が知らない車に連れ去られるのが見えてそれで──』


 話しているうちにまた気が昂ったのか話に取り留めがなくなったのをどうにか落ち着けさせる。

 営利誘拐に犯行予告だと?何故そんな警戒されそうなことを?しかも予告を出すということは江里口をピンポイントで狙ってのものだろう、それで何故森山が攫われる?ターゲットを勘違いしたというのか?計画的な犯行だろうに攫う相手を下調べしていないとでもいうのか?いや、今は犯人どもの不合理を考察している場合ではないか。

 ひとまず江里口にはすぐ家に帰るようにと言うと迎えに来た車は森山を連れ去った車の直後に来たとかでそのまま追わせたらしい。

 代わりの迎えの車が到着するまで店の中で待つように伝え俺も江里口に合流することにする。

 


 合流してから程なく迎えの車が来た。合流するまでも会話を続けたことも功を奏したのかそれまでには江里口もだいぶ落ち着きを取り戻していたのでそこで別れるつもりだったのだが、付いて居て欲しいと頼まれて今、俺は江里口邸にて双子の姉弟に両腕を抱えられている。

 江里口邸にはすでに警察がきており、もし身代金を要求するなどの連絡があった場合は犯人を刺激しないように連れ去られた人質が人違いだとは告げずにそのまま交渉を続けるようにとの方針のようだ。

 森山邸の方にも今回の犯行予告とは関係なくたまたまの偶然で攫われた場合にも対応できるように警察の別班が待機しているようだが恐らく連絡が来るとしたら江里口邸の方が高いだろうということらしい。

 そうこうしているうちに一度目の連絡が江里口邸にかかってきた。呆れることに犯人は本当に人違いに気付いていないらしくそのまま身代金の要求を告げてきた。

 それから少ししてから犯人の車を追わせていた車が帰ってきた。はじめのうちは追跡をすることに成功していたらしいが最後まで追い切れず途中で見失ってしまったとの連絡はすでに入っており、一度地図で確認するために戻ってきたのだ。

 そして運転手が指し示した犯人の車を最後に見失った場所、俺はその地区に一つの心当たりがあったのだった。

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