第六十二話
その噂が私の耳に入ってきたのは噂が広まりを見せ始めてから一週間くらい経ってからのこと、らしい。まあ、噂がいつから発生したのか、なんて元凶以外には知り得ないことだしね。
学園祭から二週間ほど経った平日、今はお昼の休み時間。
由美と沙耶香に私を入れたいつもの三人で机を寄せ合ってお弁当を食べることが多い。たまに、学食で食べたり玲奈さんが混ざったりするけれども、いつもは三人で自作のお弁当を持ち寄ることが多いんだよね。最初の内はお弁当を自作していたのは私だけだったけれど、いつのまにか二人も自分でお弁当を作るようになっていた。沙耶香の方はもともと時々家で作ったりしていたみたいで最初から様になっていたのだけれども、由美の方はと言うと料理に慣れていないことが丸わかりな感じで、型崩れしてたり味付けを失敗したりしてたのだけれども、もともと器用だったのか、慣れていないだけで適性はあったのか、どんどんと上達して今では「お料理?普段からしていますけど、何か?」と言わんばかりの成長ぶりである。
「そういえば、華蓮って成松君と付き合っているんだって?」
「・・・はあ!?」
お弁当も食べ終わってゆっくりまったりとした時間が流れている中で、由美がいま思い出した風に突飛なことを言いだした。気が緩んでいた分、頭に入ってきた言葉を理解するのにすこし間が要ったのだけれども、ようやっと言葉は理解できても意味のほうがわからない。
お弁当を食べ終わっていて良かったかもしれない。もし、何かを飲み食いしている状態でさっきの言葉を聞いていたら下手したら吹き出すか盛大に咽ていたかもしれないからね。
「だから、華蓮と成松君が、付き合ってる、らしいよ?それで、ホントのところ付き合ってるの?」
「私に聞かれても、ってこの場合は私に聞くのが正解?いや、そうじゃなくて、付き合ってないし。由美も分かってて言ってるでしょ?」
「てへへ」
「それで、何でいきなりそんな突拍子もないことを言いだしたの?」
「いや~、最近その噂が流行っているみたいでね、他のクラスの子に聞かれたんだよね~。ホントに付き合ってるのかってさ」
「あ、私も聞いたことあるよ」
噂を聞いた時の状況を教えてくれる由美の傍らで自分も思い出したのか沙耶香も聞いたことがあるという。
「その噂って結構広まってたりするの?ていうかいつの間にそんな話が?」
「一年生の間では結構知ってる子が多いみたいだね、何時からってのはよく分からないけど一週間くらいまえから流行りだしたみたいよ?」
一週間くらい前かぁ、流行りだしたのがってことは噂自体はもう少し前からあったのかな?そんな噂があるだなんて全然気づかなかったけれど、こういう話題が本人のところにくるわけ無いか。
「それにしても、なんで相手が成松君なのかな?」
成松君と玲奈さんが婚約していることは公然のもので秘密でもなんでもない、それこそ内部生の同学年なら一人残らず、外部生だって余程に話題に疎い人でも無ければ知っているようなことなのに。
「さあ?まあ、気にしなくてもいいんじゃない?噂にしたって漠然と二人が付き合ってるらしいって話で何かの根拠があってっていう訳でもなさそうだし?」
「他のクラスはともかくこのクラスの人なら鼻で笑うようなレベルだし、ほっとけば其のうち勝手に消えるんじゃないかな」
二人はそう笑い飛ばして別の話題に移っていったけれど、私はちょっと考え込んでしまう。その辺は話題の当事者かどうかの違いなんだろうね。
それにしても、本当になんで成松君と噂が立つんだろう?確かにクラスの男子の中では一番と言っていいくらいには話すけれど、言ってしまえば気の合うクラスメイトとかその程度の付き合でしかないわけだし。
そ、それにどうせ噂するのなら木下君のほうが信憑性があるんじゃないかなぁって、ほら、学園祭の二日目なんて実質一日二人っきりで回ってたんだし。
ん?そうだよね?別に隠れ潜んでいたわけじゃないんだから、学園祭を二人で回ってた姿なんてみんなが見てたんだから、このタイミングで噂になるんだとしたら木下君との方がしっくりくるよね?
まあ、木下君はともかく私の方は別に目立つわけでも無いだろうし、外部生だからまだ顔と名前が一致する人の方が少なくてもおかしくないだろうし。でも、それなら成松君との噂だって同じ条件の筈なんだけれども、私のこと名ざしで噂になっているんだよね。それって、噂の大本の人は少なくとも私のこと知っている人ってことなのかな?
あとは、玲奈さんもこの話のこと知っているのかな?まあ、玲奈さんなら笑い飛ばして終わりにするか私を揶揄うネタにするかのどっちかなんだろうけれど。
もし、ここが本当にゲームの中だったとしたらこのあと私と玲奈さんは対立していくのだろうけれど、ここはゲームに似ているだけの全く別の世界なんだからそんなことにはならないよね、うん。
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