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閑話3

木下視点です。

今後も別視点の話は閑話としてナンバリングしていきます。

 「ちょっとこっちに来てくれ」


 返事を待たず、とあるキャラクターの描かれたページを大開きにして床に落ちたスケッチブックを見るや、この世界に存在しないはずの名前を口に出した目の前の少女の手を曳いて美術準備室に連れ込む。

 この部屋は内鍵が付いていてドアを閉めればある程度の防音も効くため、部の連中が内緒話をするのによく利用している。まあ、外からでも鍵があれば開けれるし、ドアには大きめのガラス窓もはまっているので怪しいことには利用できないし、利用されても困るんだが。

 内緒の話があるという部内の暗黙の合図でもある内鍵を掛けたところで少しだけ治まった動揺を意識的に治めようと努めつつ未だ事態を上手に把握していない目の前の少女を見やる。

 この世界のどこにも存在しないはずの名前を口に出された瞬間は何故、どうして、という疑問が渦巻いたものの、こうして幾分か冷静になってみればそういうことも無いではないかという思いもある。なにせこの俺だって似たような境遇なんだ、他の奴の身に同じような現象が起きたって不思議ということはないんだろう。よりにもよってコイツかよとは思わないでもないが、それでコイツを責めるのはお門違いだろう。



 俺の名前は「とんがり豚トロ」という。

 いや、別に本名っていうわけじゃないぞ?こんなふざけた名前を子供につける親がいたら子供にぶん殴られても刺されても自業自得だ、もちろん俺の両親もそんなふざけた精神は持ち合わせていなかった。

 この名前は俺のペンネーム、いやネット全般で使っていたからハンドルネームというのか?まあ、どちらでもいいか、とにかく俺のもう一つの名前で、本名よりも世間に知れ渡っている名前だ。いや、だっただな、この世界にはその名前は存在しないのだから。

 あちらの世界では俺が死んで使われなくなった。こちらの世界では俺を含めて名乗る者が居ない。だから、その名前はもう存在しない、この名前はそういう名前なんだ。

 ここまで言えばバレバレだとは思うが俺は転生者というやつだ。この名乗りは微妙に恥ずかしいな?俺が生きていた現代日本と酷似した世界だが、こういうのも異世界転生と言うんだろうか。同じような世界に転生したのに違いが分かるのかって?そりゃ分かるさ、俺はこの世界の事を、いやこの世界の元になったモノを知っているんだからな。

 


 俺の、まあ前世での話だ。

 「とんがり豚トロ」という名前を使い始めたのは高校二年の頃だったか、クラスメート達より若干、漫画やアニメ、ゲームなんかにハマっていた俺はそれらを読んだり見たりするだけでは飽き足らず描く方へ踏み入っていた。よく訪問していたイラスト投稿サイトに自分で描いたモノを投稿するのに使ったのが最初だった。

 受験生になった俺は美大の入試を受験することを選択した。別に美術の世界で生きていこうとか大それた熱意を持っていたとかじゃない、ただ一般の大学を受けて受験勉強をするのが怠かったとかそんな消極的な理由だ。一般の教科の成績が芳しくなく、一方で美術の成績はいつも最高得点だったことや、常連となっていたイラスト投稿サイトでの評価や反応に気をよくしていた、調子に乗っていた、ってこともある。

 まあ、ものの見事に失敗したわけだが、滑り止めに受けた一般の大学も含めて全て。調子に乗って浮ついた気分で適当に受験に挑んだところで受かるほど甘いものじゃなかったってことだな。もう一年浪人するという選択肢もあったが俺はそれを選ばなかった、そのことで親とは盛大にやり合ったが最終的には向こうが折れた。

 受験に失敗した高卒がいきなり就職するというのも難しくアルバイトを幾つか掛け持ちしながらの生活でもイラスト投稿サイトへの投稿だけは相変わらずに続けていた。サイトに絵をアップする度に貰える評価や声援が当時の俺の心の支えになっていたんだ。

 転機が訪れたのはそれから一年くらい後のことだったかな、相変わらず捗々しくない就職活動を続けながらのアルバイト生活をしていた俺にゲームの制作会社を経営している伯父からアルバイトをしないかと声を掛けられたのは。

 今まで使っていたアルバイトが急に辞めて人手に困っていること、勤務態度次第では正社員として雇ってやるぞということ、仕事の内容がデザイナーのアシスタントであることを聞いた俺は一も二も無くその話に飛びついた。

 実態も知らずに飛びついた職場はそりゃもうきつかった、あまりにもきついのでアルバイトをこれ一本に絞らざるを得なかったが趣味を仕事に出来た俺のモチベーションは高かった。激務で趣味ごと嫌いになるという人もいるらしいが俺は逆だった。それまで遊ぶだけだった、見るだけだったゲームに俺の絵が使われていてクレジットに名前が載る、そのことがただただ嬉しかった。

 初めてクレジットに名前を載せてもらえることになったとき俺は本名で載せてもらうつもりだったんだが、すでにネット上である程度の知名度があるんだからそちらを使ったらいいだ・」ろうという上司の言葉で俺の仕事上での名前も「とんがり豚トロ」になってしまったのは想定外だったが。

 アルバイトを真面目に続け正社員として雇用してもらい、正式なデザイナーとして格上げもされて数年、上司に呼び出された俺はあることを告げられた。


 「今度の新作なんだが、お前がメインでキャラクターデザインをやってみるか?」


お読みいただき、ありがとうございます。

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