閑話4
自分のデスクに戻り渡された企画書に一通り目を通す。
表紙にはデカデカと「キュンして恋やぁ、パラダイス(仮)」とタイトルが打たれているのだが、よくこんな名前で企画が通ったものだと感心するやら呆れるやら。まだ仮題であるし正式な名称はもっとましなものになるんだろうが。
ジャンルは女性向けの恋愛シミュレーション、オーソドックスな学園ものでメインストーリー的なものはなく各キャラ毎に個別のストーリーが展開される、と。部活で青春したり、幼馴染とほのぼのしたり、ライバルとなるようなキャラもストーリー毎に居たり居なかったりだな。
ストーリーのプロットや各キャラのプロフィール、ライターからの要望などに目を通しながら頭の中にデザイン案を幾通りか思い浮かべていく、そうして出来上がったデザイン案を何度も没を食らっては描き直しようやくゴーサインを得られたキャラクター達がゲーム画面内で動く様子を眺めた時に得られた達成感は言いようも無く、これまだのうだつの上がらない人生の中では間違いなく最高のものだったと断言できるほどだった。
結局、仮題のまま変更されること無く売り出された作品は後日談や追加エピソードや追加キャラを盛り込んだファンディスクが作成され、二作目の企画書を早く出せとせっつかれる程度にはヒットした作品となった。
デザインを担当した俺としてはネットでのレビューや送られてくるアンケート葉書でのデザインに対する批評や感想に一喜一憂し概ね好評価に落ち着いたことに胸を撫でおろしたものだった。
俺の前世での記憶は大体その辺までで止まっている。
今の俺として目覚めたときは人生これからでようやく手応えを感じていたのにと落胆もしたが、俺としての意識を取り戻したのは小学生の低学年の頃で、それならやり直しが出来るじゃないかと前向きになった俺の脳裏に浮かんだのは前世での入試の光景だった。
受験に失敗したことにはそれほどショックを受けてはいなかったと自己分析していたがそうでもなかったみたいで、入試の日に見た自分には無かった情熱を持った彼等彼女等の姿は強いあこがれとなって自分の中に残り続けていたみたいだ。
この世界が自分がデザインを担当したゲーム、「キュンパラ」の中の世界で、自分が攻略対象に転生していたと気づいたのは割とすぐだった。名前にも聞き覚えがあったし、なにより自分が描き出したキャラクターだ、いくら幼くなっているとはいえ見間違いするとこなどありえない。自分だけでなく他のキャラクターの幼年期を見つけてしまえば、ああ、なるほどとすんなりと納得したものだ。ただ、自分の最期を思い返し、転生の手段がトラックの暴走事故だったことには何の冗談だと思ったものだ。どうせ転生するならファンタジー世界で無双して可愛い嫁を迎えたかった。
この世界がゲームの中の世界で、自分がその主要キャラの一人だと気づいたことでちょっとした悩みが生じた。俺が目指すものと木下直昌のルートシナリオは方向性こそそう違わないものの、そもそもの目的地が違うのだから。あまりゲームのシナリオから外れた行動を取れば変な歪みが出来て俺や周りになにか不都合なことが起こらないとも限らない。
ただし、この悩みはそうほどなくあっさりと解消されることになった。他のキャラクターがあまりにもゲームと逸脱している、この時期から嫌い合っているはずの兄弟と仲良かったり全く悪役らしくなかったり、男の子が男の娘になっていたり、ゲームの中では死んでいるはずの人物が生きていたり、確実に俺以外にも何人かは俺と似たような奴がいるんじゃないかと思う。
そいつらはみんな好き勝手やっているようだし、俺が遠慮しようがしまいがそれほど影響に違いはないだろう、ならば俺も遠慮する子は無い、やりたいようにやらせてもらうだけだ。
高等部に進学する年齢となりいよいよゲームのストーリーが繰り広げられる年となった、が・・・正直、もうゲームとしての体をなしていないんじゃないかと思うんだよな。俺なんかは所属する部活が違う程度でそれ以外に目立った違いは無い──そういう意味では俺の転生先が直昌だったのは必然だったのかもしれない──し、もう一人は今のところゲームとの差異は見受けられないが、それ以外はもう滅茶苦茶だ。
ゲームの頃とはもう前提からして変わっていて、もしも主人公の森山華蓮までもが転生者で、ゲーム知識を利用して攻略をしようとする奴だったとしても難易度ハードというレベルじゃない、この世界がゲームそのものだったとしてもクリアさせる気がないだろう、としか言いようがない。
その辺りのことを俺はどう思っているのだろうか、俺自身がデザインした物語の主人公だから容姿だけで言わせてもらうのなら好みの相手と言える、だがゲーム感覚で攻略してやろうだなんて思われるのはまっぴらごめんだし、俺の目標にとって邪魔にしかならないならそんな奴に付き纏われたくはない。
ただし、俺の目標を邪魔しないのなら、いや、受け入れて、共に歩んでくれるようなそういう相手だったのなら、面白いかもしれないかな。
お読みいただき、ありがとうございます。
次話からはまた本編に戻る予定です。




