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第二十話

 あからさまに不機嫌オーラを周囲に振り撒く相手にこちらから話しかけるというのは勇気が必要なもので、美術室から昇降口までの間に会話はゼロ。

 それだけでも居心地の悪さを感じるというのに、授業の終了からさほども経っておらず、いまだ校内に残っている生徒も多く何故かそれらの生徒達からの視線が集まっているような気がして猶更に居心地の悪さに拍車がかかっている。

 

 「・・・お前は」


 「え?」


 「お前は、何で美術この部に入ったんだ?」


 今まで「私は不機嫌です」というオーラを振り撒くばかりで一言も口を開こうとしなかった木下君からの突然の質問・・・というか詰問?

 これは・・・、やっぱり警戒してるのかな、昨日のことがあったばかりで入れ替わりでまた外部生わたしが入部してきただんだし、本人としては警戒するよね。


 「んー、絵を描くことが好き、だからかなあ。中学校までは部活とかは入ってなくて一人で時間のあるときなんかに描いていたんだけれどもね、高校生になったら入ろうって決めてたんだよね。──元々、何かしらの部活動に入部することを奨励されているって聞いてたし、せっかくならってね」


 「そうか・・・」


 そう言って考え込んじゃったけれどもさっきまであった不機嫌オーラは引っ込んだみたいだし、ある程度は納得してくれたのかな?

 

 「美術部の活動については説明を聞いているか?」


 「えっと、それほど詳しくは・・・、大まかな活動方針と、活動場所、日時くらいかな」


 「・・・準備室にある物は自由に使っていい、ただし新品を開けた時と使い切った時はリストに日付を記入すること。使いかけのもので保管方法が分からない場合や使い方の分からないものなんかは先輩に聞けばいい、世話好きの連中が揃ってるから聞かれれば喜んでホイホイ答えてくれるだろ。それと──」


 唐突に矢継ぎ早に部活動のあれこれを説明してくれる。これは美術部の一員として一応認めてくれたってことでいいのかな?

 ぶっきらぼうだけれども丁寧に説明してくれてるし、取っ付きにくいのは最初だけで、身内になると案外面倒見がいいのかな。

 何事も無ければ三年間、部活仲間としてやっていくことになるんだし、この態度の変化はずっと邪険にされたりするよりは格段に嬉しいことだ。



 それから、校内で写生するのにおススメのポイントをいくつか実際に廻りながら教えてもらった。

 移動の間、相変わらず会話は殆どなかったし、あったとしてもぶっきらぼうな受け答えだったけれども、最初の頃にあった不機嫌オーラはすっかり鳴りを潜めて居心地の悪いものではなかった。

 いくつかポイントを廻ったあとはそれぞれに解散して写生を始める。それにしてもこの学園、広いとは思っていたけれども想像以上だった。今日廻っただけでもそれなりの広さだったけれどもそれでも高等部の敷地の半分くらいだそうで、これに大学部や中等部なんかも併設されていてで全部合わせた広さは如何程だろうか。何しろ敷地内に池があった、畔には東屋(洋風だからガゼボ?)まであってなんとも風流なものである。

 気に入ったポイントに腰を下ろしてスケッチブックを広げる。

 柔らかな風が頬を撫でていき、耳に届くのは鉛筆を紙面に走らせる音、遠くからは運動部の掛け声やらブラスバンドの練習音も入ってきて決して静かという訳ではないけれども、それでもゆったりとのんびりとした時間が過ぎてゆく。

 こういうの久しぶりだなあ。去年は受験勉強に力を入れていたし、学園に入学してからは新しいことが目白押しで、何よりも「キュンパラ」のことがあっていっぱいいっぱいで、こうしたのんびりとした時間を取る余裕が無かったしで。

 そうして鉛筆を走らせていると、いくらもしないうちにに校内の喧騒が遠くなってゆく。

 うんうん、久しぶりにノッて来たね。



 ふとした拍子に鉛筆を置いて時計を見てみれば結構な時間が経っていた、というかもうじきに終了の時間になろうかという時間帯だったりして。

 絵の方は描き始めたのが少し遅かったのもあって完成まであともう少しといったところ、忠実に模写してるわけでもないしこれくらいならあとは家で描きあげてもいいかな。

 久しぶりだからか随分と集中できたと思う。親によるとこの状態になるとちょっとやそっと呼んだ程度では気付かないんだとか、流石にそれはって笑い飛ばしたんだけれども、近所の公園で気が付いたら膝に猫が丸まっていた時はびっくりしたっけ。

 首輪をしていたからどこかの飼い猫だったんだと思うけれども、それ以来、私がその公園で絵を描いていると決まって寄って来てた。ある時を境にパタッと来なくなって、結構な老猫だったから当時は随分と心配したっけ。

 流石に膝の上まで来ることは稀だったけれども、ベンチやシートの横を陣取って、こんな風に丸くなって日向ぼっこして、あんまり気持ちよさそうに寝ているものだからついつい一緒になって──


 「ちょっと待って」


 ”こんな風に”?

 猫ではないけれども猫のように丸まって気持ちよさそうにお昼寝をする・・・男の子?学園の高等部のものとは違うデザインの制服で、中等部の子かな?いつの間に居たんだろうか全然、気付かなかったよ。

 すやすやとまあ、なんとも気持ちよさそうだ。起こすのはしのびないけれども、流石にこれ以上遅くなると暗くなるし、放っておいたら危ないよね。

 それにしてもこの子、初対面の筈なのに見覚えがあるんだよなあ?


お読みいただき、ありがとうございます。

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