第十七話
稔君かあ、懐かしいなあ。
小学校の二年生に上がるかってところで引っ越しっていっちゃったきりだから十年ちかい?もうそんなになるんだね。
隣に住んでいて、どこに遊びに行くのでもいつもいっしょで、周りの大人たちにもよくセットで見られてたっけ。
向日葵のように笑う元気な子だったけれど、乱暴とかがさつとかは全く無くて、外で遊ぶ方が好きだったくせに私とのおままごとなんかにも文句も言わずに付き合ってくれたりして、引っ越してもういっしょには遊べないんだって分かったときはワンワン泣いちゃったっけ。
引っ越しは急なことで事情も引っ越し先もわからないから連絡の取りようもなくてそれっきりになっちゃってたんだけど、この学園に入学してたんだね、苗字が変わってるから気付かなかったんだね。
当時はお母さんと二人暮らしだったし、苗字が変わってるってことは再婚されたってことなのかな?
でもなんで玲奈さんが稔君のこと知ってるんだろう、もしかして知り合いなのかな・・・って、
「・・・円城寺?」
「そう、円城寺、稔。『キュンパラ』の幼馴染枠」
き、気付かなかった・・・!説明書にはそこまで書いてなかったし、苗字も違うしで彼のことだったなんて思いもよらなかったわ。
「幼馴染枠というか、救済枠とかノーマルEND枠とか言われていたけどね」
玲奈さんの説明によると『キュンパラ』では彼のルートはチュートリアルだとか救済だとか言われる扱いだったようで、他の攻略キャラのルートに入れなかった場合に自動的に彼のルートに入るみたいで、ライバルキャラもいなければ攻略の失敗もない。だから救済だとかチュートリアルだとか、あとはノーマルENDだって揶揄させれたり。
幼馴染との日常を描いたストーリーはほのぼのとしていてハラハラは無いけどドキドキはあって、日々の競争社会に疲れて癒しを求めるお姉さま方には人気のルートだったとか。
ちなみに苗字が変わっているのはやっぱり結婚したからなんだけど、再婚したわけじゃなくて稔君も連れ子じゃないって。
「えっと、どういうことですか?」
「もともと付き合っていたのよ、その結婚相手の男性と」
小母さんとその男性はずっとお付き合いしていて稔君を身籠ったんだけれども、妊娠が発覚する前にその男性の親族が無理矢理他の人と結婚させられたんだとか。で、身を引いた小母さんは内緒で稔君を産んで育ててたんだけれども、未練タラタラだった相手男性は小母さんのことを探し当てて稔君のことを知るや否や結婚相手とは即離婚、それからすぐに小母さんと再婚したんだって。
もともとその結婚相手は浮気とか散財とかいろいろやらかしてたみたいで離婚することは親族に有無を言わせなかったし、小母さんとの再婚にも文句を言わせなったらしい。
「おおう、パワフル。・・・って、玲奈さん、なんだかやけに詳しくないですか?そんなことまでゲームで出てきてたんですか?」
「調べたのよ、こっちの世界で、人を使ってね」
玲奈さん何やってるんですか。私、興信所とか使って身辺調査をする人ってリアルで初めて見たよ。
とまあ、そういう訳で我が幼馴染を探している訳なんです。
攻略キャラ云々は置いといて、居ると分かればやっぱり会いたいし、会って話をしたいし話を聞きたい。当時は本当に急でお別れもすることできなかったし。
そうしていろいろと見てまわったんだけれども、結局のところ昨日は稔君を見つけることはできなかった。
本人と最後に会ったのが十年近くも前になるとはいえ、稔君のことを忘れたわけでもなし。さらに言えばゲームの説明書で現在の容姿も既に見知っている。別人だと思って疑ってもいなかったから気付けなかったけれども思い返してみればなるほどであの稔君が順当に成長すればこんな感じになるんだなと思える。
「すぐに見つかると思ってたんだけれどなあ」
清鳳学園はそれなりの生徒数がいるとはいえ、世に聞くマンモス校というほどではない。一学年の全クラスを一通りみてまわるくらいなら一日で事足りるんだけれども・・・。
面影が激変するくらいに容姿が様変わりしてるんならともかく、玲奈さん曰く「顔は変わっていないよ、”顔”はね」と、とても意味深な発言をしてくださるし。
なんだ? ”顔”は変わっていないって、顔意外で変化があるってこと?もしかして、激太りしてるとか?それで顔が変わっていないってお相撲さん体型で線の細い美形面を搭載してるってこと?・・・どんなだよ。
今はお昼休みだからそうは時間を取れないし、こうやってジュースを買いにくるついでに軽く見まわす程度が精いっぱい。放課後を捜索に充てたいけれども、せっかく仮入部したことだし今日は部活動の方に顔を出したいし、どうしたもんだか。
「・・・もしかして、蓮ちゃん?」
うんうん唸りながら歩いているとすれ違いざまに呼びかけられる。聞き間違いでないならば私の事をそうやって呼ぶ人物はこの学園に心当たりは一人しかいない訳で、懐かしい呼び方だなあと振り返ってみれば見慣れないけれども懐かしくて、説明書に載っていたのと同じ顔があった。
・・・女子の制服を着て。
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