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幻門戦記  作者: 畑山
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第一話、武将プレイ


 <名前を入力してください>


 文字が画面に浮かんでいた。

 何が起こったのか、まるでわからなかった。体は動かない。声も出ない。

 見覚えは、ある。架空歴史シミュレーションゲーム幻門戦記の新規武将の名前を付ける画面だ。幻門戦記は、架空の日本っぽい文化圏の架空の歴史を元につくられた、和風ファンタジー戦略シミュレーションゲームだ。

 その画面が、目の前にあった。

 板敷きの部屋で、少年が頭を下げている。その周りに何人か大人がいる。画面の中央には名前を入力してくださいと、入力欄と五十音図があった。

 他に何も見えないし、体を動かそうとしても、動かない。それどころか。身体自体あるような感覚がしない。動くこともできず、目も閉じることもできず、板敷きの部屋で平伏している少年と、名前を入力してくださいと、かかれた画面だけが見えた。

 これは、あれなのだろうか。ゲームの世界へ転生というやつなのだろうか。とすると、俺は死んだのだろうか。俺は、この状況に陥る前のことを思い出そうとした。

 思い出せない。死んだという記憶もない。トラックに轢かれた記憶もなければ、過労死した覚えもない。歳もわからない。名前は白石康介、大学を卒業し、通販関係の会社に就職して、普通に働いて、それから、先が消えている。思い出せないとか、忘れたとか、そういう感覚ではなく、記憶が途中で消えていた。


 <名前を入力してください>


 画面を見る。というかそれしかできない。画面の下半分には、五十音図とマウスのカーソルがあった。

 手で動かすような感覚で、右から左にうごかすと、カーソルが右へ左へ動いた。

 パソコン版の幻門戦記のようだ。学生時代、はまって、結構やり込んだ記憶がある。この手のゲームにかかわらず、終盤まで楽しめる内容だった。

 幻門戦記には領主プレイと武将プレイの二つのゲームシステムが有る。領主プレイは純粋なシミュレーションゲームで、武将プレイは、武将視点のシミュレーションゲームに少しだけRPGが合わさったようなゲームシステムになっている。

 この画面は武将プレイの新規武将作成画面のようだった。

 名前を入力すればいいわけだが。

「これゲームだよな」

 つぶやいてみたが、声は出なかった。

 幻門戦記の新規武将プレイでゲームを始める際、名前を付けることになっている。なっているのだが、それはゲームでの話なのだ。

 一体どういうことなのだ。

 頭をかきむしりたいところだが、それができないのでカーソルをぐるぐる回した。

 よく見ると、タイトルに戻るというボタンがなかった。下の方か上の方かどこかにあったはずだが、それがなかった。ESCボタンを押して、メニューを出そうにもキーボードがない。

「名前を入力しなければ、どこにも、なにもおきないと言うことか」

 しばらく悩んでいたが、悩んでいても何も起きないので、名前を入力することにした。

 普段は面倒くさいから、あ、とか、い、とか入れていたが、さすがに、これなんか、リアルっぽいので、本名で登録することにした。

 康介、と、五十音表を使って入力し、漢字変換した。

 決定ボタンを押すと、能力値が出てきた。

「これは、使えねぇ」

 低い。 

 全体的に低い上に、特徴も無かった。

 一番高い能力が武力で39、統率が26で、知力が28、魅力が34。

 どれか一つでも、60台ならば、何とでもなるが、これは厳しい。

 この低さでは、内政がカンストした領地の留守番にしか使えない。中盤以降なら放逐した方がいい。序盤は良いが、仕官年数が長いキャラは能力が低くても、以外と俸禄を食う。

 経験を積めば少しは上がるが、能力を上げている間に、所属する国が滅ぶことは良くある。そうなると浪人となって、仕官先を探すことになるが、この能力値の低さでは、ろくな仕官先は見つけられないだろう。

 これは、さすがに厳しい。キャラメイクのやり直しだ。

 カーソルを操り、画面右下にあるやり直しのボタンを押した。

 

 

 <名前を入力してください>


 文字が画面に浮かんでいた。

 画面を見る。というかそれしか見られない。画面の下半分には、五十音表とマウスのカーソルがあった。

「なんだこれ」

 声を出して呟いたつもりが、声が出ていない。声どころか口がある感じもしない。体も何も動かせない。混乱しているが、不思議と動揺はしていなかった。

 おかしな話だが、身体があるような感じがしなかった。

「幻門戦記じゃないか」

 音の出ない声でつぶやきながら、画面を凝視した。

 若い頃によくやっていた架空歴史シミュレーシャンゲームのキャラメイクの画面に見えた。

 思い当たる節を探したが何も思いつかなかった。

 それどころか。この状況に陥る前に何をやっていたのかも思い出せなかった。

 死んだ記憶はない。自分が何者かもわかるし、ある程度経歴もわかる。名前は、小島丸文、一浪して大学に入学して、卒業後、製菓会社に就職、その後、それなりに苦労しながらも仕事をこなし、なにか大きく成功した記憶も大きく失敗した記憶もない。三十代あたりから、ほとんど思い出せない。記憶がないというより、記憶の密度が薄いような気がする。

 それなのに、幻門戦記についての記憶は鮮明に覚えていた。

 武将のパラメーターや国力、隣国を攻め滅ぼしたときの達成感、コツコツと内政をやり、兵を増やし米を増やしカネを増やす。隣の大国に攻め続けられながらも、撃退し続け、相手が息切れしたところで、一気呵成に攻め滅ぼす。

 まるで意図的に、幻門戦記に対する記憶や感情が、補強されているように残っていた。

「これをやれということか」

 俺は、画面を見つめた。


 <名前を入力してください>


 変わらずそれがあった。

 仕方なく名前を入力することにした。丸文と本名を入力した。

 決定ボタンを押すと、画面が切り替わる。

 能力値が表示された。

「これは」

 低かった。

 統率力27、武力11、知力35、魅力22。

 だめだ。さすがに、これはだめだろう。序盤で、舌打ちされながら、いやいや使われる内政要員ではないか。要らなくなったらすぐ放逐だ。クリアできる気がせん。

 やり直しボタンを押そうとカーソルを移動させたところで、止めた。

 これ、やり直しをしたら、どうなるんだ。

 普通だったら、やり直しボタンを押すと、能力値が再びランダムに出てくることになる。それを何度か繰り返し、自分が望む数値が出るまでやり直せばいい。もちろん、低い数値のままプレイしてもいい。そういうゲームだ。

 これが、ゲームならそれで良い。だが、このキャラ、人格込みの武将だったら、どうする。やり直しを選んだら、低い能力値だけではなく、小島丸文という人格ごと、消えてまうんじゃないだろうか。小島丸文が消え、別の誰かが、このゲームを進めることになるんじゃないのか。

 ひょっとしたら、俺の前に何人もプレイヤーがいて、自分の低い能力値に舌打ちしながら、やり直しボタンを押したんじゃないか。その結果、俺の番になった。

 どうなんだ。これ、ゲームなのか、それとも現実なのか。

 いや、どう考えたって、ゲームだ。現実にキャラクター作成画面なんてものは出てこないし、能力値なんてものもない。ゲームの世界に、現実の人間が入り込んだ、それだって、非現実的だが、そう考えるべきなのだろうか。

 そう考えると、この低さ、まさか! 現実の俺の能力値をゲームの世界に持ち込んでいるのか。そんなバカな、この数値、俺の実際の能力値なのか? 統率27、ああ、そういえば、そういうタイプじゃない。人に命令したりするの苦手だし、声をかけて何かを率先してやるなんかしたことはない。武力11は、学生時代、帰宅部だったし、運動とか、もちろん格闘技なんかしたことないし、太っている。お菓子会社に就職したから太ったわけではなく、どちらかというと、米と揚げ物で太ったタイプだ。知力だって、まぁ、一浪だし、就職できたのも親戚のコネみたいなもんだしな。魅力が22か。これは普通に納得できる。

 そういうことなのか。現実の俺の能力値なのか。

 こんなに低いのか。これが俺なのか。い、いや、もちろん、そうとも、限らないのだが、なんとなく、納得してしまっている自分がいる。

 とりあえず、やり直しはなしだ。これが現実にしろゲームにしろ、さすがに自分が消えるかもと思うと、できない。このまま進めるしか無い。

 カーソルを移動させ、決定ボタンを押した。

 能力が確定され、特典ボーナスの画面に変わる。

 能力値を5ポイント自由に割り振ることができるのだが、どうしよう。

 上げるとしたら、一番高い知力だな。内政は知力が影響するから上げておいても損はない。統率は、戦闘時の行動や持てる兵の数などに影響するが、これも多少上げて何とかなるもんでも無い。魅力は、後半になると道具や地位で何とかなったりする。武力は5ポイント上げて何とかなる低さじゃない。

 知力は、現実の俺に、どう影響するのだろうか。上げると俺の頭が良くなるということなのだろうか。それとも、ゲームの仕様通り、内政の速度や、戦闘時の計略の成功率や抵抗に影響するのだろうか。

 ここはやはり、一番高い能力を上げておくのがいいだろう。

 知力に5ポイント振って40にした。それでも40である。敵の計略に確実に引っかかり、人が足りないから、内政でもやらしておくかって言うぐらいの数値で、中盤以降は、なんの仕事もなく、領地で忘れられていく存在である。

 音に出ないため息を出しつつ、決定ボタンを押すと、特技の画面に変わった。

 取得している特技欄があらわれた。能力値の低い俺にとって、特技は生命線になる。

 雲隠れ、と、讒言、と書かれてあった。

 雲隠れは戦場で兵を隠しながら移動できる特技だ。敵の背後を取ったりできるが、見つかりにくくなるだけで、待ち伏せのように、攻撃力が増えるわけではないので、武力11の俺が敵の背後をとっても、それほど大きな効果は無いだろう。索敵や鷹の目持ちには、あっさり見つかるので、相手によってはまったく使えない。ただ、逃げる分には、見つかりにくいから、そこそこ使える特技だ。

 讒言は、敵や味方に悪口を言って、いろいろ評価を下げる特技だ。ライバルになりそうな味方の武将の悪口を言っておとしめたり、敵の武将の評判を悪くしたり、引き抜くときに使う。効果も微妙だし、そもそも魅力の低い俺にはあまり使えない特技だ。

 しょぼいな。二つしか無いのに二つともしょぼい。これ現実の俺を元に作られているとしたら、かなりショックだ。社会人にたとえると、統率力がなく、能力が低いくせに、同僚の悪口を上司に吹き込み、困ったことがあったら、雲隠れする。最低な奴じゃないか。

 どうであれ、もう、前に進めるしかない。やり直しなんて怖くてできない。

 初期特技は、変えられないのでどうしようもないとして、問題は追加特技だ。

 幻門戦記の、新規武将モードでは一つ特技を追加することができる。不死鳥や神出鬼没など、効果が高い特技は選べないが位の低い特技を一つ選べる。

 特技は、戦闘、内政、外交、調略、に分かれる。もし、ゲームなら、間違いなく戦闘系の特技を選ぶ。内政が必要なのは序盤だけで、そもそも、ちまちま内政なんてやったって面白くはないからだ。だが、武力が驚異の11である。知力坊主の弧双だって、13ある。とてもじゃないが戦場に立つ気にはなれない。外交、調略も、失敗してとらえられたり、能力が低いと任務失敗で即死もある。

 ここはやはり安全な内政一択だろう。となると、農業系か商業系の特技か、土木系は、下手したら城を落とすのを手伝えとか言われそうだしな。

 ああ、でも、何の仕事を押しつけられるかわからんよな。能力値が低いからと言って城主にどんな仕事を振り分けられるかわからん。武力11で戦場に行けと言われる可能性だってある。そんときは雲隠れで、森の中にでも隠れておこう。そう考えるとなかなか使える特技かもしれん。

 特技もぱっとせず、能力も半端なく低い俺にとっては、追加特技一個で将来が決まってしまうようなもんだ。慎重に吟味しないと。


 散々悩んだ末、信頼、を選ぶことにした。

 信頼は、他の武将に、何となく信頼される特技だ。通常は能力値が高くないと聞いてくれない話を、たまに聞いてくれることがある。上役に進言するときや、讒言が成功する確率を能力に関係なく、少し上げてくれる。配下の忠誠心も少しだけ上がりやすくなる。能力が低い俺にとって、あって悪くない地味にいい仕事をしてくれる特技だ。

 内政系の特技と悩んだが、結局のところ、どんな特技を持っていても能力がある程度無ければ、効果は薄い。

 結果にかかわらず、進言が通れば、名声が上がる。名声が上がれば、出世も報酬も得ることができるし、名声があれば、家がつぶれても他家への仕官ができるようになる。たとえ実力が無くてもだ。

 俺には能力は無いが、このゲームの知識がある。能力に頼らず、ゲームを進めるためには、これが一番いいと考えた。

 決定ボタンを押した。



 統率 27

 武力 11

 知力 40 (35+初期ボーナス5)

 魅力 22


 特技 雲隠れ 讒言 信頼(追加特技)


 次は兵科だ。兵科は、足軽、弓隊、騎馬隊、法術隊がある。足軽は防御力が高く、弓隊は遠距離攻撃ができる。騎馬隊は攻撃力が高いが馬を用意しなければいけないのでカネがかかる。法術隊は術を使って遠距離攻撃ができるが育成にカネと時間がかかる。

 兵科は、S、A、B、C、D、Eがあって、Sが一番上で、Eが一番下だ。

 案の定、俺の兵科レベルはオールEだった。

 ただし、初期ボーナスとして、一つだけ、兵科レベルを上げることができる。兵科レベルは覚える戦術の速度や攻撃力にも影響がでる。

 序盤生き残ることを考えれば、足軽か、弓隊だろう。

 足軽は防御力が一番高いが、兵科レベルは攻撃力にしか影響は出ない。ここは、やはり、離れて攻撃できる弓隊だろう。

 俺は、弓隊の兵科レベルを上げ、レベルEからDにした。


 次に職業選択画面が現れた。

 幻門戦記の武将モードでは、城主の子、家臣、浪人、山賊、海賊、百姓の六つの職業から選ぶことができる。

 ここは、やはり、やれることの多い、城主の子だろう。家臣も悪くはないが、能力が低すぎると、やれることも少なく評価も上がりにくい。空き地を占拠する山賊や海賊プレイも面白いが、近隣の国から討伐部隊を送られてくる可能性がある。序盤でそんなもの送られたら即死だ。浪人は、武力が低いとどうしようもない。百姓は地味すぎるし、一番難易度が高い。実際、命をかけてやるとなると、一番やれることの多い城主の子がいいだろう。

 城主の子を選びキャラクター決定ボタンを押した。




 本庄丸文 (武士)  十三歳 城主の子


 統率 27

 武力 11

 知力 40 (35+初期ボーナス5)

 魅力 22


 兵科 農兵 E 足軽 E 弓隊 D 騎馬隊 E 法術隊 E


 特技 雲隠れ 讒言 信頼(追加特技)




 暗転する。


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