1:プロローグ・魔族掃討作戦の正当性監視
いつの時代のものでもよい、世界地図を広げたとき、そのどこにも戦争、紛争、対立の示されていない地図など例外中の例外である。
転生前に読んだ、とある小説のド頭だ。
どうやら異世界すらも例外ではないらしい。
飛行魔術で空に浮かびながら、私は少し下で魔術を行使する部隊を監視していた。魔術省の対魔部隊だ。
「彼らが使用している魔術は、対魔族専用でしてね。人間や動物に間違って当たっても殺さないように制限が加えられています。もちろん、魔族相手なら問答無用で殺せますが」
そう口にするのは魔術省の論理戦闘部隊に所属する、ヘンゲレス・ヴィンセント氏だった。
魔術省実働部隊の中でも腕利きの魔術師。存命の異世界転生者の中で最も多く戦闘術式を開発した男。魔術を作らせて良し、魔術で戦わせて良しの文武両道な人物だ。
「開発にはどのくらい?」
「私一人で三日ほど。対魔部隊から要請がありましてね。今回の作戦で使いたいと」
対魔部隊が大量の魔術を行使して、地表にいる魔族を一掃する。叫び声と血しぶきで地獄絵図を作り出していく様子を無感情に眺めながら私は問う。
「逆に今まで、なんでこういう魔術は無かったんです?」
「魔族かそれ以外かを区別する論理の構築が難しかったようですね。私にはスキルがありますので、そのあたりの構築が得意なんです」
「そういえば異世界転生者でしたね」
「あなたもでしょう。ステラ・インヘリット捜査執行官。正当性監視機構には、正当性の監視どころか業務に実介入する破天荒な異世界転生者がいると聞いたことがあります」
「ぬるい仕事をしているのを見ると実戦で教導したくなるんです」
「それで? われわれ魔術省の仕事はぬるいですか?」
対魔部隊の戦闘は沈静し始めていた。散発的に魔術を行使しているものの、既にほとんどの魔族が死体に成り果てている。
「そうですね。殲滅戦の手際は見事です。しかし……」
私は部隊の東側に魔術防壁を展開する、直後、長射程の炎熱系の魔術による狙撃が衝突した。大規模な爆炎を魔術防壁が無慈悲に遮断する。部隊に被害は無さそうだ。
「魔力を隠蔽しての狙撃です。環境省の魔族調査によると、ここ二、三年で知能が高く狡猾な個体が増えているそうです。今後の作戦では索敵を厳とすべきでしょう。魔族は魔術以外について知性的ではないというセオリーは捨てていくべきです」
「これは手厳しい。皆に伝えておきますよ」
ヘンゲレスが苦笑した。
正当性監視機構。それは軍、警察、魔術省、救急隊、消防、時には一般企業まで……様々な組織が正当に運用されているかを監視する組織である。
今回の仕事は、魔術省の魔族殲滅作戦の正当性監視。魔族の殲滅それ自体は問題ではない。一部の馬鹿な保護団体は「魔族の生物的主権の侵害だ」などと呑気なことをほざいているが、人間が人間社会を守る上では、それ以外の全ての生命は必要があれば利用し、邪魔であれば排除するべきである。それが人間社会における正当性というものだ。
ただ……今の間抜けのように、もし殲滅戦で魔術省側に被害が出たり、魔力や時間の浪費が見つかったりすれば、それは指摘し、正していく必要がある。魔術省は行政機関であり、彼らの活動は税金によって賄われている。国民の血税が浪費されるような不当や堕落を許さない、そのために私たちは活動している。
とはいえ、現場で監視しているだけ、というわけにもいかない。現実的な話、どこの現場も人手不足だし、実際に肩を並べて仕事をするから見えてくることもある。
外部機関からの監視、組織としての体裁、ご来客に怪我をさせるわけにはいかないという配慮、様々なしがらみによって、正当性監視機構の捜査執行官である私、ステラ・インヘリットは、こうして部隊後方からの監視および援護の任務に就いている。
そんなわけで私もヘンゲレスが開発した魔術を使って、遠距離から狙撃してきた魔族に反撃を仕掛ける。炎熱系魔術の発生源は見逃していない。魔術を行使して三秒後、はるか遠くで魔力が炸裂するのが見えた。




