3-4-6 終章 | 新女王のファンファーレ
アーゼラの気配が完全に途絶え、場を満たしていた圧が引いていくと、あたりはゆるやかな静寂に包まれた。
その中心で、サーラはしばらくのあいだ、遠くの空を見つめている。
風が、わずかに流れる。
それは、ただの風だったのか。
それとも、何かが去った後の名残か。
やがて彼女は、小さく息をつき、柔らかな微笑を浮かべた。
その様子を隣で見守っていたシェリーが、控えめに声をかける。
「どうしたの?」
サーラはゆっくりと振り返り、静かに答えた。
「……終わったよ。アーゼラは、もういない」
その言葉は強く響くものではなかったが、確かな重みを持っていた。
女王候補たちは互いに目を合わせ、ようやく長い戦いが終わったのだと実感する。張り詰めていたものがほどけ、誰もが静かに息を吐いた。
しばしの余韻ののち、サーラは表情を引き締める。
「さて……次は、アーゼラが残していった厄介な魔法を片付けないとね」
わずかに茶目っ気を含ませながら、彼女は空へと両手を伸ばす。
「ヴァルガレオン! テルミルス!」
呼びかけに応じるように、空気が変わる。
まず、水の気配が満ちる。
次いで現れたのは、水竜ヴァルガレオン。穏やかな波動をまとい、その巨大な身をゆるやかに揺らしながら、静かに空から現れる。
その存在だけで、空気が澄んでいくのがわかる。
ヴァルガレオンが身をくねらせると、柔らかな波動が地上へと広がった。
雨風のように、しかし確かな力を伴って、石像と化していた人々の上をなぞっていく。
そのたびに、硬く閉ざされていた輪郭が解け、風化しかけていた命が、ひとつひとつ、元の姿を取り戻していく。
息を吹き返した人々は、互いの顔を見つめ、やがて戸惑いを含んだ笑みを浮かべた。
その光景を見つめながら、シェリーは静かに息を呑み、エヴァもまた、言葉を失ったまま目元を押さえていた。
続いて、大地が低く鳴動する。
地竜テルミルスが、その巨躯を現したのだ。
重い構造体そのものが軋みながら前進してくるかのようで、低く重厚な轟音が遅れて大地を震わせる。
その場で足を踏み鳴らすと、鈍い振動が地を伝い、空間に張り巡らされていた結界へと届いていく。
硬く閉ざされていた力の層が、軋み、ひび割れ、やがて崩れていく。
音もなく閉ざされていた空に、光が差し込む。
その変化に、女王候補たちは思わず歓声を上げた。
すべてが、ほどけていく。
戦いの痕跡が、静かに消えていく中で、彼女たちは自然とサーラのもとへ集まっていた。
シェリーが一歩前に出る。
「サーラ……私はずっと見てきた。あなたなら、この国を守ってくれると信じてる。だから……女王になってほしいの」
その手が、そっと差し出される。
エレインも続く。
「あなたこそが、私たちの道標よ」
シオンは胸を張り、力強く頷いた。
「姫――いや、陛下。これからも共に」
レイラが穏やかに言葉を添える。
「新しい時代を、一緒に歩きましょう」
エヴァは静かに頭を下げた。
「未来を、導いてほしい」
フィーは笑みを浮かべる。
「どんな道でも、隣にいるわ」
ルナの声は震えていた。
「あなたの光が、私たちを照らしている」
セレナが一歩踏み出す。
「私たちが待っていた女王は、あなたよ」
ヴァイが低く続ける。
「森も、人も、支える」
カリナが静かに言う。
「これからも、共に」
最後に、ミーナが肩をすくめた。
「正直、見くびってた。でも――今は違う。あんたが必要だって、ちゃんと分かる」
その視線には、まっすぐな敬意があった。
すべての言葉を受け止め、サーラは少しだけ照れたように笑う。
そしてふと、視線を上げた。
そこにそびえるのは、アーゼラが築いた城。
しばらく見つめたのち、彼女は肩の力を抜く。
「……まずは、この悪趣味な城をどうにかしないとね」
軽く言い放たれた一言に、誰かが吹き出し、やがて笑いが広がる。
張り詰めていた空気がほどけ、穏やかな気配が場を満たしていった。
空は高く、光はやわらかい。
新しい時代は、すでに始まっている。
その中心に立つ彼女たちの笑顔は、確かな未来を指し示していた。
Fin.
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