3-4-2 エクストラバトル2
場の緊張が一段と高まる中、アーゼラが仮面を外したその瞬間、皆が動きを止めた。
露わになった顔立ちを視界に収めた刹那、空気がわずかに歪む。
認識が、追いつかない。
目の前にある像が、記憶の奥に沈んでいたそれと、あまりにも正確に重なっていた。
あり得るはずがない。
その前提が、音もなく崩れていく。
「……違う」
最初にそれを拒んだのは、エヴァだった。
「あり得ない。理論上、その仮定は成立しない……」
自らに言い聞かせるような声音だったが、言葉は次第に勢いを失い、最後まで言い切ることができない。
否定が、否定として機能しない。
視界にあるものが、そのすべてを押し流していく。
「先代女王……アーゼラ……?」
ミーナの声は震えていた。ようやく形になったその言葉が、場に重く落ちる。
ざわめきが、遅れて広がる。
先代の女王──すでに崩御したはずの存在が、今、闇の女王として目の前に立っている。
その事実は、理解よりも先に、身体の奥へと沈み込んでいく。
エレインはわずかに目を細めた。内心で積み重ねていた疑念が、形を伴って現れたことに対して、静かに息を吐く。
「……やはり、そうだったのね」
確信はあった。だが、それでもなお、目の前の現実は重い。
一方でアーゼラは、その一瞬の揺らぎを見逃さなかった。
外した仮面をわずかに掲げ、離れた位置にいるシェリーへと視線を向ける。
「さて……忠実な僕となってもらおうか」
低く落とされた声とともに、仮面の眼孔が鈍く赤く灯る。その光は、糸を引くようにシェリーの瞳へと伸び、静かに絡みついていった。
シェリーの表情が硬直する。
焦点が揺れ、宿っていた意思が、薄く剥がれ落ちていく。
だが、その刹那──
サーラが一歩、前へ出た。
詠唱は短く、しかし構造は深い。言葉が結ばれると同時に、シェリーの身体が淡い光に包まれる。
空間が、折り畳まれるように収束する。
次の瞬間、シェリーの姿はその場から消え、魔法コンテナの内部へと格納されていた。
赤い光は、遮断される。
外界との接続が断たれたことで、仮面の干渉は届かない。
サーラは静かに視線を落とし、短く言った。
「……怖かったね」
わずかに遅れて、シェリーの瞳に残っていた異様な色が、静かに消えていった。
「……防いだの?」
セレナが息を呑むように呟く。
フィーがその光景を見据えたまま、小さく頷いた。
「ええ……浮遊群峰で天竜の卵を守った、例の術……」
声には、驚きと確信が混じっている。
「隔離して、干渉ごと切り離してる……なるほど、そういう使い方……」
エヴァが低く呟く。先ほどまでの動揺は消え、思考が急速に組み直されていく。
エレインはわずかに息を吐いた。
「今のが……バックグラウンド処理……?
意識の外で、ここまで精密に……」
理解は追いついている。だが、それでもなお、その完成度が常識から外れていることだけは明白だった。
一方で、アーゼラの表情がわずかに歪む。
干渉は成立したはずだった。
にもかかわらず、それが触れる前に切り離された。
その意味を、即座には測りきれない。
サーラは、静かにその視線を受け止めた。
「わかっていると思うけれど」
声は穏やかで、しかし一切の揺らぎがない。
「あなたは、何度も同じ場所をなぞってきただけ。
魔法学校をやり直し、積み重ね直し、既にあるものをより深く理解した──それは否定しない」
一歩、距離を詰める。
「けれど、それは“極めた”とは言わない」
アーゼラの眉が、わずかに動く。
サーラは続けた。
「あなたが辿り着いたのは、用意された体系の内側。
そこにあるものを、どれだけ精密に扱えても──新しく生み出す側には、立てなかった」
静かな言葉だった。
だが、それは確かに、核心に触れている。
「……黙れ」
アーゼラの声が低く沈む。
「お前ごときが……」
言葉の途中で、肩がわずかに震えた。
怒りが、抑えきれずに滲み出る。
その瞬間、宙に浮かぶ《毒蛇の仮面》が、淡く光を帯びた。
「落ち着け、アーゼラ」
低い声が、直接意識に触れるように響く。
感情の波が、押さえ込まれる。
アーゼラは一度、深く息を吐いた。
瞼を閉じ、再び開く。
そこに残っているのは、制御された怒りと、消えない憎悪だけだった。
ゆっくりと、サーラへと向き直る。
サーラは一歩も退かない。
その視線は揺らがず、ただ真っ直ぐにアーゼラを捉えている。
その姿に、仲間たちは言葉を失いながらも、確かな変化を感じ取っていた。
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