3-3-13 不在応答
サーラはふいに顔を上げ、緊張を帯びた面持ちでエーテルサインを強く握りしめた。
「レイラ、応答して」
指先に力が入りすぎたのか、薄く震えが走る。そのまま間を置かず通信を試みると、ほんの刹那、向こう側に微かな気配があった。
「エヴァ……?」
『現在繋がらない場所にあるか、魔力がオンになっていません』
だが、返ってきたのは機械的で無機質な自動音声だけだった。
何の揺らぎもないその声が、かえって不気味なほどに静まり返った室内へと響く。
サーラは眉をひそめ、短く息を詰めた。
このエラーは珍しいものではない。相手がアンテナポールのカバー領域を外れているか、あるいはエーテルサイン自体を身に着けていない場合に発生する。だが、今仲間たちは王都にいるはずだった。設備も整い、通信が遮断される理由など、本来は存在しない。
それでも、応答がない。
その事実だけが、説明のつかない違和として残る。
「……おかしいよ、シオン」
サーラの声には、押さえきれない焦りが滲み始めていた。
「みんながいるはずの場所なのに、誰とも連絡が取れないなんて……こんなこと、あり得ない」
言葉を重ねるほどに、その異常は輪郭を持ち始める。
何かが起きている──そう考えた瞬間、胸の奥を冷たいものが締めつけた。
サーラは踵を返しかける。
今すぐ王都へ戻るべきだという衝動が、思考を追い越して身体を動かそうとする。
だが、その肩に静かに手が置かれた。
振り返るより早く、シオンの落ち着いた声が届く。
「今は、あなたがここを離れるべきではありません」
その声音には感情の揺れがなく、むしろ確信に近い硬さがあった。
サーラは思わず言葉を詰まらせる。
「シオン……でも──」
「あなたがここで試練を終えること。それが最優先です」
短く区切られた言葉は、冷静でありながら退路を断つ響きを帯びている。
サーラの胸に渦巻く焦燥とは対照的に、シオンの視線は揺るがない。
「闇の女王アーゼラが狙うのは、間違いなく“十二のデバイス”だと思うんだ」
サーラは食い下がるように言葉を継ぐ。
その瞳には、確信と不安が入り混じった光が宿っていた。
「彼女を封じた古のデバイスが、無防備で王都に集まっている。
もしそれが知られたら──絶対に、狙われる」
自分でも分かっている。
それは推測ではなく、ほとんど確信に近い予感だった。
だが、シオンの表情は変わらない。
むしろわずかに和らぎ、静かに諭すように言葉を返す。
「それでも、です。
今ここであなたが力を得ることが、結果としてすべてを守ることに繋がります」
その言葉は理屈として正しい。
だが同時に、目の前で起きているかもしれない“何か”から目を背ける選択でもあった。
「彼女たちを信じましょう。
そして、あなたはあなたの役目を果たすべきです」
サーラは言葉を失い、唇を強く噛んだ。
胸の内で二つの思いがせめぎ合う。
仲間のもとへ向かうべきだという衝動と、ここに留まるべきだという理性。どちらも正しく、どちらも譲れない。
短くない沈黙が流れる。
やがてサーラはゆっくりと息を吐き、視線を落としたまま、小さく頷いた。
「……そうだね。今は、私がやるべきことをやらなきゃ」
その声には、迷いを押し込めた硬さがあった。
シオンはその決意を受け止めるように、静かに微笑む。
「その通りです。
通信は私が続けます。応答があるまで、決して途切れさせません」
淡々とした言葉だったが、そこには確かな責任が込められていた。
サーラはその言葉にわずかに表情を緩める。
完全に不安が消えたわけではない。それでも、今はそれを抱えたまま進むしかないと、ようやく受け入れたのだった。
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