3-1-99 付録 ミーナの三隊編成
王宮の一室。壁一面に広げられた地図には、これから向かうドラゴンの棲息地が赤い印で克明に書き込まれている。机上には、ミーナが熟考の末にまとめ上げた三つのチーム編成表が整然と並べられていた。
当の本人は誇らしげに胸を張り、集まった仲間たちを見渡すと、指揮官さながらに説明を始める。
「みんな、集まってくれてありがと。これから行うドラゴン探索のために、私が最高のチーム編成を考えたわ。もちろん慎重に検討した結果だから安心して。意見があるのは大歓迎。でも──」
そこで彼女は勢いよく机を叩き、にやりと笑う。
「反論は受け付けない!」
一瞬、場の空気が張り詰める。《獅子の剣》を掲げる少女に睨まれれば、兎も震えよう。もっとも震えているのは威圧というより、勢いに押されたせいなのだが。
ミーナは満足げにうなずき、「じゃあ、早速発表するわね!」と声を弾ませる。
《天竜探索パーティー》
「まず、天竜探索チームは私、ミーナが率いるわ!メンバーはエレイン、カリナ、ルナ。この四人で嵐の浮遊岩山を制する!」
わずかにエレインの眉が動くが、口を挟むことはない。
「見ての通り、重装備で固めた編成よ。嵐の中では踏ん張れることが何より大事、防御力重視でいくわ。攻撃は私の剣で十分だし、エレインが盾で守ってくれるから万全。嵐なんて怖くない!」
その横で、ルナが「……飛べるのか?」と小声で呟きかけるも、シオンの肘がさりげなくそれを制した。
《水竜探索パーティー》
「次は水竜探索チーム。サーラ、フィー、ヴァイ、シオンの四人ね。極寒の氷晶湖の下に潜む水竜を見つけ、捕らえるのが任務よ!」
サーラが困惑した表情で口を開く。
「ねぇ、ミーナ。私、水とか寒さはちょっと──」
「心配無用!」と即座に遮られる。「フィーとシオンがいれば戦力は十分、ヴァイは遠距離を任せられる。それにサーラの《処女の書》がきっと活躍するはず!」
どうやって、と問いかけたい視線を向けるサーラに、シェリーが不安げなまなざしを返すだけだった。
「大丈夫、気合で何とかなるって!」
《地竜探索パーティー》
「最後に地竜探索チーム!レイラ、エヴァ、シェリー、セレナの四人。大地の裂け目を進み、地竜を見つけ出すわ!」
レイラは手を挙げかけて躊躇し、エヴァは腕を組んだまま厳しい視線を落とす。
「地竜は巨体で怪力だから、防御と支援が要よ。レイラの壺で環境を整え、エヴァの鎖で拘束、セレナとシェリーが戦闘支援を担う──完璧でしょ?」
セレナは何か言いかけて飲み込み、シェリーも疑問を胸にしまい込んだ。
ミーナは全員を見回し、自信満々に笑う。
「どう?どのチームも仲がいいのが強みよ。協力すれば、どんな難題だって乗り越えられるはず!」
ヴァイが口を開きかけた瞬間、「何か質問はある?」という笑顔の圧に言葉を失った。フィーの「かなり無茶じゃない?」という囁きも、シオンにたしなめられて消える。
サーラは胸の奥に芽生えた不安を、ひとまずそっと飲み込んだ。
ルナはいつもの涼しい顔のまま視線だけを細め、内心では盛大に警鐘を打ち鳴らしている。
エレインも編成の危うさには気づいていたが、目の前で得意げに胸を張るミーナを見ると、どうにも水を差す気にはなれず、結局は小さなため息ひとつで言葉を収めた。
やがてミーナは腕を組み、高らかに宣言する。
「よし、決まりね!それぞれの任務を果たして、全員で無事に戻ること。誓いましょう!」
誰も口には出さない。出さないが、全員の胸中でほぼ同時に同じ言葉が浮かんでいた。
──おいおい、本気か。
胸を張るミーナを見ながら、誰もが小さな不安を抱えていた。
もっとも、その不安がやがて彼女自身の口から語られる日が来るとは、今は想像もしていない。
そしてその隣で、静かに全体を見渡している者が一人いることにも。
「……仕方ないか」
サーラは小さくそう漏らし、机上の資料をまとめ始める。その背中には諦観と、わずかな覚悟が混じっている。
結局、こういう役回りは自分なのだと。
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