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家事代行のアルバイトを始めたら学園一の美少女の家族に気に入られちゃいました。【書籍化&コミカライズ】  作者: 塩本


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第二百五話 雫、激おこ

 晴翔達は、いつも通り百メートルを何本か走るとバトンパスの練習に移る。

 咲、友哉、綾香、晴翔の順で並ぶと、先頭の咲が手を挙げて合図を出した。


「いくよー」


 彼女はゆっくりと走りながら、友哉に近付くと「はい」とタイミングを知らせる。

 それに合わせて友哉は走り出し、そのまま咲からバトンを受け取った。

 その瞬間、彼は驚いたように自分の左手に納まっているバトンを見詰める。


「ッ!? あれ、アンダーハンド成功した?」


「うん、でも今は立ち止まらずに次の綾香にバトンをパスしないと」


「あ、そうだった」


 咲に注意され、友哉は慌てて前を向いて走り出す。

 そして、綾香にもぎこちない形ではあるが、なんとかバトンの受け渡しを成功させる。

 その先の、綾香から晴翔へのバトンは相変わらず流れるように成功する。


 綾香からバトンを受け取り、スピードを緩めた晴翔が笑みを浮かべて皆の所に戻る。


「成功かな?」


「そうね。まぁ、友哉と綾香の間がちょっと怪しいけど、全体的にはいいんじゃない?」


 咲がそう言うと、友哉がガッツポーズで宣言した。


「よっしゃ! ついにアンダーハンドパス太郎爆誕だぜ!」


「一回成功したくらいで調子に乗らないの」


「俺はもうパス太郎だからな。失敗はないぜ」


「じゃあもう一回ね」


 調子に乗るなと窘める咲に友哉は自信に満ち溢れた表情で「イエッサー」と敬礼を返す。

 それから3回ほどバトンパスの練習を行ったが、全て上手くいく。


「うおー! パス太郎本領発揮だぜ!」


 歓喜の雄叫びとともに、大きく拳を突き上げる友哉。

 そんな彼の様子に、咲は苦笑を浮かべる。


「だから調子に乗らないの」


「でも3回連続成功は凄くね?」


「そうだけど、まだ全力疾走じゃないからね」


「じゃあ本番と同じ条件でやってみようぜ」


 やる気満々の友哉だが、そんな彼を晴翔が止める。


「今日はこの辺で止めといたほうがいいんじゃないか?」


 彼は校庭に設置されている時計に目を向ける。


「咲の電車の時間がもうそろだろうし」


 晴翔と同じく友哉も時計を見て頷く。


「ん? 確かに」


「それに、良いイメージを残して練習を切り上げるのが大事だしな」


「なるほど」


 晴翔の言葉に友哉が納得して頷く。

 そこに、綾香が咲を気遣うように言う。


「結構電車の時間ギリギリじゃない? バトンは私が先生に返しておくから、咲はもう行った方がいいかも」


「あら、確かに時間やばいかも」


 改めて時計を見た咲は「ごめん、先帰る」と後片付けを晴翔たちに任せて駆け足で去って行った。

 その後、咲と入れ違いになる形で、練習を切り上げた雫が晴翔たちの元にやって来る。


「咲先輩が涙を流して走り去って行きましたが、トモ先輩後を追わなくていいんですか?」


 小さくなっていく咲の背中を眺めて適当な事を言う雫。

 それに、友哉も適当な言葉で返す。


「女の涙は、今の俺には扱いきれないぜ」


「ですが、咲先輩はきっとトモ先輩を待っているはずです」


「今の俺には追いかけられないのさ。夕陽が眩しすぎてね」


 友哉はムカつくほどの切ない表情で夕陽の方を向き、片手で日差しを遮る。


「はいはい、アホな茶番はそこまでにして、さっさと片付けするぞ」


 呆れ顔で晴翔がそう言うと、雫は無表情ながらも少し不服そうに頬を膨らませた。


「ハル先輩、まだカットがかかってないので、余計な口を挟まないでください。リテイクです」


「お前は何を撮ろうとしてるんだ?」


「ナウでヤングかつチョベリグでバッチグーなイカしたトレンディアオハルドラマです」


「死語の宝石箱だな。ケツカッチンだから早く帰り支度するぞ」


「む? ケツ? いきなり下ネタぶっ込んでくるのはやめてください。さすがの私もドン引きです」


 スススッと晴翔から距離を取る雫に、晴翔は「なんでだよ」と軽く受け流すだけにする。彼女の冗談を深追いするのには、そこそこ体力が必要である。


 そんな無駄話をしていると、晴翔たちの元に一人の男子生徒がやって来た。

 同じように体育祭の練習をしていたのか、その男子生徒はジャージを着ている。


「ちょっと、いいかな?」

 

 その生徒は綾香に向かって声を掛ける。

 着ているジャージの色から、男子生徒は3年生だとわかる。先輩に対して、彼女は敬語で返事をする。


「はい……なんでしょう?」

 

 若干警戒するような空気を纏う綾香。

 それを無視しているのか、あるいは何も感じていないのか。

 その先輩は、薄っすらと笑みを浮かべながら話し出す。


「俺さ、ずっと前から綾香ちゃんのこと気になってたんだよね」


「えと……」


 綾香は困ったような表情で、晴翔の方へと身を寄せた。

 男子生徒は晴翔を一瞥した後、相変わらず軽そうな雰囲気で綾香に話しかける。


「でも彼氏ができちゃったんだよね。残念、いや、おめでとうって言った方がいいか」


「あ、ありがとうございます」


「でもさ、恋愛ってのは付き合ってからが大変なんだよ。本当にさ」


 話し続ける男子生徒。

 その会話の意図がわからず、綾香はさらに晴翔の方へと身を寄せる。

 それを見た男子生徒は、晴翔を品定めするような視線を向けた後、一瞬だけ面白くなさそうな表情を見せる。が、それもすぐに軽い笑みでかき消した。


「自分で言うのもアレだけどさ。俺、結構恋愛経験はあるから、もし困った事があればいつでも相談にのるよ?」


「あ、いえ……だい――」

「彼氏くんと長く付き合いたいなら、不満は溜めない方がいいよ?」


 綾香の言葉を遮って話す男子生徒。


「愚痴とかでもいいからさ。いつでも聞いてあげるよ。取り敢えず連絡先を交換しようか」


 そう言って自身のスマホを取り出す先輩。

 そこで、晴翔が一歩前に出て自分の背中に綾香を隠した。


「すみません先輩。迷惑なのでやめてください」


 彼女を庇いながら、毅然とした態度で言い放った晴翔。

 瞬間、男子生徒の顔から笑みが消えた。


「なんだよ? 彼女が他の男と連絡先交換するのはNGなわけ?」


「そういうわけじゃありません」


「ならいいっしょ」


「綾香が困っているので」


 晴翔がそう言うと、先輩は嘲笑を浮かべる。


「そうやって自分の考えを彼女に押し付けるのは良くないよ?」


「…………」


「束縛が強い男ってダサいな〜」


 先輩が口元をうっすらと歪めながら言う。

 すると、ゆらりと雫が晴翔の前に出てきた。


「は? それ本気で言ってます?」


「ん?」


 男子生徒は一瞬、怪訝な表情を浮かべる。

 しかし、雫の容姿と着ているジャージの色を見てすぐにその表情を笑顔に変えた。


「君、名前は? 一年生にこんな可愛い子がいたなんて俺、知らなかったなぁ」


「私も、地球上にこんな生き物がいたなんて驚きです。ちなみに私の名前は堂島雫です」


「雫ちゃんか、いい名前だね」


 雫の嫌味などなかったかのように愛想の良い笑顔を向ける先輩に、雫の目がスゥと細くなる。


「私は先輩に、伝えたいことがあります」


「お? もしかして告白?」


「はい。私のこの、煮えたぎる熱いパトスを受け取ってくれますか?」


「困っちゃうなぁ。いきなり告白とか心の準備がね?」


「いえいえ、一瞬でケリをつけるので」


 そう言うと、雫は重心を落として細く息を吐き出す。


「ふぅ〜……ではいきますよ先輩? 腹に力込めといてください」


「腹?」


 能天気にニヤニヤしている男子生徒。

 それに対し、晴翔は雫の構えを見てギョッとする。


「雫エクスプロ――」

「バカッ! 止めろッ!!」


 彼女の必殺技が炸裂する前に、晴翔は慌てて止める。


「むぅっ! 何をしやがるですか!」


「お前こそ何してんだよ!」


 晴翔は雫を後ろから羽交締めにして拘束する。


「離してくださいっ!」


「ダメだ!」


「離せっー!」


 拘束を振り解こうとバタバタ暴れる雫。

 晴翔は必死に彼女を押さえ付ける。


 それを見ていた男子生徒が、軽蔑の眼差しを晴翔に向けてきた。


「お前さ、雫ちゃんの告白の邪魔するなよ。綾香ちゃんがもういるってのに、何考えてんだ?」


 状況をまったく理解していない先輩の言葉に、さすがの晴翔もイラッとくる。

 いっその事、このまま雫を解き放ってしまおうかという考えもよぎる。


 しかし、幼少の頃より空手に打ち込み、黒帯の実力を持ってしても、雫エクスプロージョンは悶絶必至の威力を誇っている。

 それを素人の一般人が何の構えもなく受けたら、病院送りは確実だ。

 

 男子生徒が負傷するのは、晴翔にとって正直どうでも良いことだが、それが原因で雫が問題に巻き込まれるのは防ぎたい。

 上級生を病院送りにしたとなれば、よくて停学、最悪退学処分もあり得る。


「この私のマグマのような熱い想い! 先輩にぶつけないといけないんです!」


「だから止めろってっ!」


「離せーー!」


 普段の無表情はどこかに吹き飛び、ギンッと眉毛を吊り上げて暴れる雫。

 完全に激怒状態になっている彼女を晴翔は死に物狂いで抑える。


 そんな二人を見て、男子生徒が呆れたような溜息を吐いた。


「いい加減にしろよ。早く雫ちゃんを離せって」


「先輩はちょっと黙っててください!」


「は? 何お前? 綾香ちゃんの彼氏だからって調子乗ってんの? 普通にキモいよ?」

 

 男子生徒は自分の置かれている状況が、腹を空かせたライオンと同じ檻の中にいるのと同じくらい、危険な状態であるという自覚が皆無のようだ。

 男子生徒の発言を聞いて、ついに雫は「ガルルルルッ」を呻き声すら漏らす。まさに猛獣。


 と、そこに。

 これまで晴翔の背中にいた綾香がおもむろに前に出てきた。


「雫ちゃん。ちょっと落ち着いてくれるかな?」


 落ち着いた静かな声。しかし、その声には明らかな怒りが込められていた。

 それを聞き、雫はピタッと暴れるのをやめた。


「む? アヤ先輩?」


 綾香のいつもと違う雰囲気を感じ取り、雫は無表情に戻って首を傾げる。


「雫ちゃん、私達のために怒ってくれてありがとう」


 綾香は短くお礼を言うと、まるで雫が乗り移ったかのような無表情で男子生徒を睨んだ。


「先輩、晴翔は私を束縛なんてしてませんし、ダサくもキモくもありません」


 抑揚のない平坦な声音で言う綾香。

 その姿は、かつて晴翔が陰キャモヤシ野郎とクラスメイトから言われた時と同じだった。


「なので、先輩に相談する必要はありません」


「でもさ、独りで――」

「結構です」


 綾香は言葉を遮ってキッパリと言い切る。

 これにはさすがの男子生徒も一旦は笑みを引っ込める。そして「ふ~ん」と少しの間綾香を見た後、再び軽い笑みを浮かべた。


「そっか、まぁ付き合いたては盲目になりがちだからね。時間が経って落ち着いたら声掛けてよ」


 男子生徒は綾香にそう言うと、今度は雫に視線を向ける。


「雫ちゃんも、今度はそいつのいない時に話そうか」


 男子生徒は晴翔を親指で指した後、彼女にニコッと笑いかける。

 それに対して、雫は「グルゥ……」と威嚇の唸り声を上げる。


 なぜ男子生徒はこの状況で雫から告白されると思い込んでいるのか、神経がイカれているとしか思えない。


「じゃ」


 男子生徒は晴翔たちに背中を向けて立ち去って行く。

 その背中を睨みつけながら、雫がまた低く唸る。


「まだスーパー雫ギャラクシースピアドロップキックの射程圏内です」


「止めろ。どんな時でも暴力はダメだ」


「暴力じゃありません、矯正です」


「それでもダメだ」


 今にも猛ダッシュしそうな雫を晴翔が制止していると、注意深く様子を窺っていた友哉が口を開く。


「すげぇ強烈な先輩だったな。あそこまでいくと、逆に尊敬できるかも」


「あんなのを尊敬するなら、トモ先輩にも矯正が必要です」


 よほど頭に来ているのか、雫は鋭く友哉を睨む。その視線を受けた彼は「じょ、冗談です」と両手を挙げる。


「これまでの軟弱男子どもの告白は、百万歩譲ってよしとしましょう。でも、さっきのは許せません。下心の塊です」


 怒り心頭な雫は、晴翔を見ながら言う。


「この先、あんな連中がわんさか湧き出てきたらどうするんです?」


「あそこまでの人は、もう存在しないと思いたいけどな」


「それは楽観的思考です。この学校でのアヤ先輩の人気を知ってるんですか?」


「それはそうだけど……」


 晴翔はもう見えなくなった先程の男子生徒の方を見て、小さく呟いた。

お読み下さりありがとうございます。

更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。


2点ほどお知らせです。

本作のコミカライズがアプリ版のカドコミでも公開されました。コインが必要となってしまいますが、これまでの掲載分を全て読むことができます。

また、原作小説の第6巻の発売日も公開されました。

6巻の発売日は6月15日頃となっております。

今回も秋乃える先生が素晴らしいイラストを描いてくれていますので、楽しみにしていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
皆藤先輩といい、またまた変な先輩に目を付けられちゃったよ(涙)
主人公を上げるためにとりあえず下を出しました感 でも主人公の対応も微妙だし、感想欄は荒れるよね
こういう害虫は処分一択。 雫がキレるのも分かるし、やっちゃっていいと思うけど、現実ではそうはいかないよなぁ…
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