0067:謁見場。
2022.03.27投稿 2/4回目←4回更新へ変更です。
なんで私が王城の謁見場に……。
事の起こりは早朝。学院が休みなので、今日は二度寝を貪るのもいいよねとジークとリンに話して、ようするに遠回しに起こさないでねとお願いしていたのに。
何故か教会職員とシスターたちが部屋へとノックもせずに入ってきて叩き起こされ、風呂という名の地下の水場へと連れ込まれたのちに放り込まれ、丸洗いされ。ジークとリンも騎士服を着こみ、教会の馬車もいつの間にか用意が完璧に済ませていた。
「王城へお願いいたします」
私を馬車へと押し込んだ神父さまが御者に告げて、ぱしんと手綱が鳴る音をさせてると馬の蹄の音が、馬車の中へと響いてくる。
「……なに、これ」
「聞いていないのか?」
対面に座るジークが私を見て不思議そうな顔をする。
「聞くもなにも、答えてくれないし……みんな凄く必死な形相してたし、逆に怖くて聞けなかったってのもある、かも」
「そうか。――第二王子殿下の処分が決定したから、陛下から関係者全員招集が掛かったそうだ」
「……それであんなに焦っていたのか。せっかくゆっくり出来ると思ってたのに」
陛下からの勅命なら仕方ないか。朝っぱらから王城からの使者が来て、教会の人間も驚いたことだろうし。
「諦めろ、こればかりはどうしようもない。命令に背くわけにもいかんだろう」
「知ってる。――ジークとリンも付き合わせてごめん」
専属の護衛騎士なんて務めているから、どうしても一緒に行動しないといけないものね。聖女一人だけだと見た目も悪くなるから、こうして二人が私に付けられている理由の一端だし。
「気にするな」
「うん、気にしないで。でも、大丈夫?」
私の横に座っているリンが首を傾げて問いかけるけれど、何に対してだろうか。
「大丈夫って何が?」
背もたれから体を離してリンと向き合う形にする。
「えっと……難しいことはよく分からないけれど、ナイは怒られない?」
「多分、大丈夫だよ。不味いなら公爵さまに会った時に説教されてるから。それがなかったってことはそういうことだよ、リン」
「そっか。それならいい」
第二王子殿下やその他諸々どうなっても知ったことではないというのが、リンの言いたいことなのだろうなあ。もう少し社交性を持って欲しいけれど、喋ることが苦手だし仲間内でも口数少ないものなあと、リンを見る。
それに気付いたリンがヘラりと笑うのをみてしまうと、まあいいかと考えてしまう私もいけないのだろう。ジークもリンには甘いから、何も言わないし。ダメダメだなあと苦笑いをしながら、窓の外に流れる景色を見る。
建国祭から数日。祭りの熱も冷めて、王都の街中は通常通りである。第二王子が婚約破棄をしたという噂は流れていないそうだ。
あまりにも不味すぎる内容に、緘口令を敷いたのだろう。これで王都の住人に噂が広がれば、誰が発生源なのか徹底的に調べ上げられ、取り調べを行った上に首と体がさようなら、だ。やはり王家や権力者に逆らうなんてことはしない方が身の為だなと実感し、ようやく王城の入口へと辿り着く。
どうやら話は既に通っているようで、あっさりと入り口を馬車に乗ったまま通り抜けて庭園を行く。庭師によって奇麗に整えられている薔薇や木々。
その中を颯爽とゆっくりと行くと、ようやく馬車が止まる。どうやら城の停車場に辿り着いたようだった。
「ご足労頂き感謝申し上げます」
馬車の扉を開けると出迎えてくれたのは、近衛騎士で階級がそれなりに高い人である。珍しいこともあるものだと驚きながら、案内された先は初めて足を踏み入れた場所だった。
数段高い壇上にはたった一つの豪華な椅子。おそらく玉座。なら、導き出される答えは謁見場。他にも貴族のみなさまが居るので、この場を持って第二王子殿下の処遇が決まるのか。
ただの一聖女がどえらいことに巻き込まれてしまったなあと周囲を見ると、公爵さまにソフィーアさま。
魔術師団副団長さまも居るし、建国祭のパーティーで見た第一王子殿下。他にもこの国の重鎮が揃っており、物々しい警備となっている。
このオールスターの前で第二王子殿下が精神的に切られてしまうのだなあと、遠い目になるのだった。