1680:女性会議。
夜会の解散宣言がなされて思い思いに帰路につく方たちがいるのだが、ほとんどの方はアストライアー侯爵邸か領地内の宿に泊まることになっている。
そして明日はそのまま大型の竜の方の背に乗ってアルバトロス王都へと向かう手筈になっていた。ヤーバン王とアルティアさまは凄く喜んでいた。逆にセレスティアさまは侯爵邸での婚姻式に参加するのみであるため、凄く残念がっているけれど。残っている方たちが多い故に丁度良い機会だと私は女性陣に召集を掛けていた。
アストライアー侯爵邸。貴賓室。招集された方たちが多い故に貴賓室は手狭になっている。
男子禁制となった――現代知識を持っているエーリヒさまにも参加の打診を送ったものの固辞されてしまっていた――ので本当に女性しか揃っていない。護衛の方も女性でなければ入れないようになっており、男性の護衛は扉の外で待機する形となっていた。
即協力体制を執ったフィーネさまは私の右隣に腰を下ろし、材料を提供してくださる予定の亜人連合国のダリア姉さんとアイリス姉さんは左隣に座っている。月のもので困っていることはないかと問い合わせた面子も貴賓室に集まっており、今から具体的にどういう品が欲しいのか、どう改善していきたいかを考える予定だ。とはいえ。
「皆さま、本日はお集まりいただき感謝致します。深い時間となっており、なるべく手短に終わらせようと考えておりますのでご協力お願い致します」
時間も時間だし、明日も王都で婚姻式が開かれるために早めに解散するつもりだ。言い出しっぺの私が音頭を取ればうんうんと皆さまが頷いてくれる。アガレス帝国のウーノさまと妹殿下四名にヤーバン王国のアリーさま、今回ご参加くださった各国の陛下方の王妃さま。
アリアさまとロザリンデさま、ウルスラさまもいる。そしてセシリアさまとアルティアさまと同じく招待したご領主の奥さま方も揃っていた。ソフィーアさまとセレスティアさまは懐妊中のため、私が先に聞き取りを行っていた。子が生まれて産後の肥立ちが良くなれば会議に誘ってくれと熱望されていたので、そのうちお二人は顔を出すようになるだろう。興味本位で四女神さまも揃っているため、本当にとんでもない会議になっていた。
ちなみに参加したそうだったグイーさまは『駄目』と娘さま方の短い一言で撃沈している。四女神さまは人間を模しているため機能は備わっているものの、用事がないからと意図的にこないようにしているそうだ。
「今回は軽い聞き取り調査、そして、あれば良いなとお考えになる品を教えてくだされば、こちらで試作品を用意して、皆さまには被験者になって頂こうと考えております」
私はとんでもない面子を被験者に仕立て上げているものの、皆さまが参加したいと興味を持ったので協力して頂きたいところである。各国の王妃殿下にまで話が広まったのは私が手あたり次第に『吸収力の高い布や綿花、それらに変わるものがないか』と問い合わせをしたからである。
なにに使うのか疑問に感じたようで、どの返事にも『差し支えなければ用途を教えて欲しい』と記されていた。私は隠すことではないし、多くの女性に広まって欲しい気持ちがあったため、理由を添えて返信していた。そのことが今日の豪勢な参加面子に繋がるなんて、以前の私は全く考えていなかったのである。
この世界の生理用品事情がよろしくないことに溜息を吐きそうになるけれど、これから改善していけば良いと皆さまの顔を見渡せば、少し困惑している様で言葉に詰まっている。さて、どう司会進行したものかと私が考えようとすれば、ヤーバン王国のアリーさまが挙手をしていた。
「アレクサンドラ国王陛下」
私が彼女を指名すれば、むっと変な表情になる。なにもおかしなことは言っていないというのに、アリーさまになにがあるのか。彼女であれば隠すようなことはするまいと私は話を促す。
「ナイにそう呼ばれるのはむず痒いな。今は地位も関係なく集まっているから、普段通りで良いのではないか? 忌憚ない意見を聞きたいのだろう?」
私が悩んでいると貴賓室にいる皆さまはアリーさまの言葉に頷いていた。
「では失礼して。アリーさま如何なさいました?」
それならばと私は遠慮なく愛称で呼ばせて頂く。一部の方たちが『愛称!?』と目を丸く見開いているものの、口を開く権利はないと黙っていてくれていた。
「意見を求められても比較するものがなく答え辛いものがある。だから私はナイとフィーネ嬢が考えていることを聞きたいくらいだ」
どうやら生理用品の改良と言っても、周りから伝えられたことが彼女たちの中では『当たり前』のことで、生理用品の改良といってもイマイチ掴めないようである。とはいえ集まっている方たちは頭の良い方ばかりだ。少し説明すれば意見をどんどん出してくれるはず。私がその時に不便と感じたことを伝えれば良い筈と言葉を紡ぐ。
「皆さまは使用している品で肌が荒れたり、期間中は行動が制限されることを不便に感じたことはありませんか?」
「それはもちろんでございます、ナイさま。しかし耐える他なく今までを過ごしておりました」
私の言葉にアガレス帝国のウーノさまが答えてくれた。各国のお偉い女性陣は自室に引き籠って執務をするのが当たり前だとか。初日から二日目、三日目は痛みに悩まされて耐える他ないという方もいるようである。痛み止めの薬が効かなければ耐える他ないそうだが、それだとちょっと別の疑念が湧いてくる。
「あまりにも痛みが酷い方は病気の可能性が高いので、それぞれの国の治癒師や聖女さまに……って、私かフィーネさまが治癒を施せば解決するのか。アリアさまにウルスラさまも候補かな」
私の言葉にフィーネさまが『巻き込まれてる!』という表情になっていた。いや、フィーネさまも今回の件について主要メンバーであるというのに私の横でニコニコ顔を浮かべて座っているだけだから話を投げただけである。
そういえば治癒院に訪れる方で生理痛が酷くて治して欲しいと望まれたことはなかった。お貴族さまの屋敷に赴いて、月のものの痛みが酷いから痛み止めを施して欲しいと懇願されたくらいか。
当時の私は婦人病に対する術について詳しくなく、痛み止めを施すだけで終わっている。教会にその手の資料がなかったことも原因だし、婦人病関連の治癒術を教えてくれる方もいなかった。精力回復とかは存在しているのに……不思議なこともあるものだ。
「今の話についてはアルバトロス王国を通じてご要望を出していただければと。申し訳ありませんが、寄付はいただきます」
私の声にそれはもちろんと皆さまが頷く。するとアリーさまがまた手を挙げて、私はどうぞと促した。
「皆がいる場で憚れるような話のような気もするが、我が国の現状を知って貰わねば解決できないからな……聞きたくない者は耳を塞いでくれ。引き籠もることが煩わしいと、何枚も布を重ねて作業をする豪の者がいる。それがどうにかなるなら嬉しいな」
「それは数十分か一時間後には大変な事になりそうですね」
ヤーバン王国で出回っている布で血を受け止めるには難しいことだろう。やはり吸水性の高い布かなにかと、防水性の高い布を組み合わせるしかなさそうだ。布であれば洗って使いまわすことができる。使い捨てタイプもあれば貴族の方がこぞって買ってくれそうだ。
「まあな。城内で馬鹿にしている者がいれば私がぶん殴れば良いが市井では無理なこと。平気だと笑うが、後ろ指を指す男が絶えない」
「文化が成熟しても、妙なことを口にしちゃう人間は必ずいるものねえ」
はあと溜息を吐くアリーさまのあと、テラさまは壁に背を預けて腕を組みながら同じく呆れ声を出している。科学や医学が発展して生理は病気ではないと分かっているし、学校である程度学ぶ機会はあれど詳しくは語られない。
気合で予定日を変えられると思っている人はいるし、力を入れておけば漏れてこないと語る人もいる。パソコンやスマートフォンで調べれば直ぐに分かることだけれど、そう口にしてしまう人たちほどわざわざ調べることではないと思っていそうだ。
「真顔で、不浄だ近寄るなと言い切る男性はおりますもの」
困り顔で告げたのはヴァンディリア王国の王妃殿下である。伴侶である陛下に口にされたわけではなく、自身のお父上から投げられたものらしい。古い考えのままの方も多くいる状況なのだろう。
「子を成すために必要なものなのに」
「もう少し踏み込んだ性教育が必要かもしれませんね」
むっと私が苦言を呈すとフィーネさまが苦笑いを浮かべて答えてくれた。そういえば性教育をマトモに受けた記憶はない。というか貧民街では私は教える側に回っていたし、平民の皆さまは薄っすらと感じ取るものであった気がする。
お貴族さまはどうなっているのかと首を傾げると、男性には詳しく行為を教えるけれど、女性は寝台で大人しくしていれば相手が良いようにしてくれるという教育がほとんどである。フソウの春画本を売り込めば良い教材になるのではと妙なことを考えてしまった。確かフソウは文化的に性に対しては大らかだった気がする。
「そちら方面の整備も進めてみますか……」
フソウの春画本を買うのは冗談として、性教育が充実すれば『不浄だ!』と口に出す方は減るかもしれない。むーと考え込んでいれば、ダリア姉さんとアイリス姉さんが私を見ている。なんだろうと私が首を傾げると、お二人はにっこりと笑みを携えた。
「ナイちゃん、ナイちゃん」
「試作品、渡さないの~?」
実は亜人連合国で吸水性の高い布と耐水性がある布が存在していた。私は二枚をくっつけてナプキンに。耐水性と伸縮性があるものはショーツにできないかと要望をダリア姉さんとアイリス姉さんに送っておいたのだ。
私が描くと訳の分からないものになるので、図面に関しては屋敷で絵が上手い方にお願いしておいたのだ。ダリア姉さんとアイリス姉さんは試作品を持って行くと教えてくれている。とはいえ多くは用意できていないだろうと口にしなかったのだが。アイリス姉さんが鞄を取り出して『じゃじゃーん!』と言いたげな顔になっている。そしてダリア姉さんが鞄を開けて中身を取り出した。
「ショーツより、ナプキンをたくさん用意して欲しいってお願いだったから、みんなに数枚は渡ると思うわ」
「洗えるけれど、ちょっと大変かもしれないね~表面は耐水性が高いから」
ふふんと言いたげなダリア姉さんとアイリス姉さんの前にショーツとナプキンが大量に置かれ、みんなの視線が集まっている。試作品なら現状のものと併用すれば良いかと私は皆さまを見渡した。
「試しに使ってみたい方はいますか?」
という私の疑問に皆さまが手を挙げるのは当然のことだったのかもしれない。




