↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1678/1712

1678:ください。

 なにをしているんだ、ナイは。


 俺はアストライアー侯爵家の家宰殿の部下として裏方部隊に配置された。本当はネーベルハイム領にいるはずだが、アストライアー侯爵家は人手が足りないと呼び戻された次第である。


 先程、アストライアー侯爵家の当主であるナイはアルバトロス王国の国王陛下と聖王国の教皇猊下に声を掛け、酒を楽しんでいる創星神さまの下へと加わらせていた。

 遠巻きに見ていた人を創星神さまの下へ送り込むなんて嫌がらせにしか見えないが、国王陛下と教皇は大丈夫だろうか。創星神さまは酒を酌み交わす面々が増えて嬉しそうにしているため、空気が悪くなっている様子はない。ボルドー男爵閣下もヤーバン王国の国王陛下もフソウの将軍も二人を受け入れて、話を振っているようだから心配はないようだ。


 それならばと軽食コーナーで残り少なくなっている料理の報告や飲み物の補充をお願いをすべく、俺は一旦会場から待機室へと向かう。

 調理部の者に声を掛けたあと、給仕連中を仕切っている奴に声を掛ければ、直ぐに補充をすると頷いてどこかへと走って行く。不備はなさそうだと俺は一人で頷いていると、他の奴が俺を見つけて軽く手を挙げた。


 「クレイグさん……筆頭聖女さまが壁の花になっています。筆頭聖女補佐さまはカルヴァイン枢機卿とご一緒になにやら話し込んでいるようで……如何なさいましょう」


 「俺に言われても……あ、いや、様子を見てきます。少しの間、席を外します」


 どうして目の前の男は俺にそんなことを伝えにきたのだろうかと疑問を抱えるも、アリアが一人で壁の花になっているのは問題か。とはいえ俺が筆頭聖女である彼女と話し込めば周りになにを言われるか分からない。

 なるべく目立たないようにするにはどうしたら良いかと考えて、俺は給仕のフリを務めることにした。飲み物を持って行けば怪しまれることはないだろうと、係の連中からシルバートレイを受け取って果実水をいくつか選んで会場へと戻った。


 アリアはどこにいると俺は迎賓室の会場を見渡す。


 元公爵領領主邸だった今いる場所は無意味に広い。ナイが広すぎると愚痴を零すのは当然であるが、功績を考えれば当然の規模だろう。むしろもっと広くないとおかしいのではとさえ思ってしまうが、今以上屋敷が広くなればアルバトロス王家の立つ瀬がなくなるはず。


 ナイが今以上に功績を挙げれば、また違う土地を賜るのだろうなあと俺は目を顰める。目を顰めたためなのか壁際でアリアが会場内を見渡している姿が見えた。

 筆頭聖女が壁の花になっているのは本当のようで、声を掛けるか掛けまいかと迷っている男が数人いた。アリアなら声を掛けられれば無難に対応するだろうと考えるものの、心のどこか奥底でざわざわとするものが沸き上がる。


 そうしてアリアに視線を向けている一人の男が足を動かし始めたことを認め、俺は少し間をおいて女の下を目指した。つかつかとシルバートレイを持って俺は人波を縫っていく。なんとなく声を掛けられそうな者からは距離を取って。

 壁際まで辿り着いた俺は一人で会場を眺めているアリアの側まで辿り着き、彼女の下を目指そうとしていた奴はまだこちらへこれていない。俺は一度立ち止まりふうと息を整えて、背を正したあとアリアの下へと歩いて行く。

 彼女は可愛らしい感じの青いドレスを纏っているため、今は筆頭聖女としてよりもアリア・フライハイト男爵令嬢として立っているのだろう。とはいえ世間から見れば彼女は筆頭聖女である。声を掛けようとする者はたくさんいるものの、ナイと懇意にしていると知って尻込みする者もいる。先程、彼女の下を目指していた奴は俺の登場で声を掛ける気力が削がれたのか、どこかへ消えていた。


 「お客さま、飲み物は如何でございましょう」


 「クレイグさん!」


 俺がアリアに声を掛けると、ぱっと花が咲いたような表情になる。他の綺麗な連中は彼女のようには笑えないだろうと俺は口の端を伸ばして、どうして一人で過ごしているのか問おうとして止めた。単に一人になりたかったか、偶々一人になっただけだろう。もちろん彼女は筆頭聖女だから教会騎士が就いているが口を挟むことはない。


 「暇なのか?」


 「ロザリンデさまとカルヴァイン枢機卿さまは偶にはこういう場で過ごされた方が良いかなと思いまして」


 俺がシルバートレイを彼女の前に差し出せば、林檎の果実水を選んで手に取る。たしかに筆頭聖女補佐とカルヴァイン枢機卿の雰囲気は甘いものがあった。

 なるほと二人はできているのかと少しここから離れている場にいる二人に視線をやった。その先では二人仲良く、なにか言葉を交わしている。教会で甘い雰囲気を醸し出せば白い目で見られるかもしれない。たしかに夜会のような場でしかできないと俺はアリアに視線を戻す。


 「そうか。アリア、一人は危ないしナイの所に行くか?」


 筆頭聖女である彼女が一人で過ごしているのは問題だろう。ナイは暇な連中に声を掛けているようだが、アリアには気付いていない。いつも誰かに囲まれているアリアが珍しいこともあるものだ。それならナイの下へ行ってしまえば問題は解決してしまう。少し前にはナイと顔を会わせる機会が減って少し寂しいと愚痴っていたのだから。でも彼女は俺の言葉に静かに首を横に振った。


 「どうして?」


 俺の口から直ぐに声が出ていた。アリアがナイに懐いているのは誰が見ても直ぐに分かる。聖女候補として王都の教会にやってきた彼女は当時黒髪の聖女と呼ばれていたナイの姿を良くみていたそうだ。

 誰にでも分け隔てなく接する姿に感銘して、ナイのような聖女になろうと誓っている。いや、ナイのようにやらかしまで真似ると大変なことになるのだが、流石にソコまでは辿り着けなかった。だというのにアリアは何故遠慮するのか。するとアリアは眉間に少しだけ皺を寄せて言葉を紡ぐ。


 「ナイさまとジークフリードさんの邪魔をしては悪いかなと」


 「あのなあ。離れて少し寂しいつってたろ。行くぞ」


 俺はナイとジークがいる方へと指を指す。するとまた彼女が困ったような表情で首を横に振った。本当にどうしたと疑問に思うものの、これ以上無理強いはさせられない。


 「分かった。無理強いはしない。あとアリアに声を掛けたそうな奴が何人かいる。絡みにきたなら直ぐに逃げろよ?」


 「ありがとうございます。護衛の方もいらっしゃるので大丈夫です!」


 アリアが笑ったことを確認して俺は会場の人混みの中へと戻るのだった。


 ◇


 また誰か暇そうな人はいないかとジークと一緒に私が会場をきょろきょろと眺めていれば、クレイグがシルバートレイを持ちながらこちらへと歩いてくる。裏方に回っている彼がどうして給仕として会場内を歩いているのかと、ジークと私は視線を合わせて首を傾げる。

 まあ、話があるようだからこちらへきたようだと私はジークと視線を外してクレイグの方を見る。なんとなくだけれど大股で歩くクレイグはむっとしているような。クレイグの方を見たまま私は隣に立つジークに語り掛けた。


 「クレイグ、怒ってる?」


 「少し機嫌が悪そうだな」


 どうしたのかと私とジークはクレイグがくるのを待った。クレイグが私たちの前で一礼を執った次の瞬間。


 「ナイ。悪いが、アリアの所へ行ってくれ」


 クレイグが紡いだ言葉がソレだった。アリアさまの下へ行くのは良いけれど、なにかあったのだろうか。ロザリンデさまが一緒にいるし、教会騎士の方が就いているから事件になるようなことは起こらないはず。


 「アリアさまの下に?」


 「壁の花になってる」


 疑問を口にすればクレイグが直ぐに答えてくれた。


 「珍しいね」


 私が声に上げればクレイグが経緯を説明してくれた。どうやらロザリンデさまとカルヴァイン枢機卿を慮ってアリアさまは一人で過ごされているようだ。各国の陛下方は同じ位の方々と言葉を交わしているし、大聖女ウルスラさまは神さま方の下であわあわしている。となれば筆頭聖女であるアリアさまがぼっちになっているのはなんらおかしくはない。アリアさまに声を掛けたそうな男性がいるようだから、問題に発展する前に牽制を掛けておいた方が良いだろう。


 「なるほど。ちょっと行ってくるね」


 「頼む」


 そう判断した私は声を上げれば、クレイグが少し安心したような表情でジークと私を見送る。先程、クレイグから聞いた位置を目指してジークと私は歩を進めた。侯爵邸内の迎賓館であるが、無駄に広いし、招待客が大勢いるため割と時間が掛かってしまった。

 アリアさまは本当に壁際で護衛の方と一緒に壁の花と化している。本当に珍しいものを見たと私は苦笑いを浮かべる。偶には一人になりたいこともあるだろうけれど、筆頭聖女さまが一人で過ごしているとなれば問題だ。


 「アリアさま、壁の花になるのは早くありませんか?」


 「ナイさま、どうしてこちらに?」


 笑いながらアリアさまに声を掛ければ、きょとんとした表情で私を見ている。


 「偶々、お一人で過ごされている姿を目にしましたので」


 ね、と私はジークを見上げて視線をアリアさまへと戻せば、一人になっていた事情を説明してくれる。クレイグから先に聞いていたけれど、彼から声が掛かって私がアリアさまの下へ向かったことは伏せて欲しいとお願いされていた。

 言わない方が良いだろうと私は判断して、例のお二方のために一人になっていたという説明をアリアさまから受ける。なるほどと頷いてロザリンデさまとカルヴァイン枢機卿の方へと視線を向けた。なんとなく二人の空気は甘いような、普通のようなと感じつつ私はアリアさまを見る。


 「教会の方は順調でしょうか?」


 「はい。西の女神さまが地上にご降臨なされているという噂が出ているため、アルバトロス王国教会にもこられるのではないかと多くの信者の方が連日訪れていますね!」


 どうやらアルバトロス王都にある教会には多くの方たちが訪ねているようだ。明日は西の女神さまのご尊顔を拝む最大のチャンスになるのだろう。グイーさまとテラさまとシェクトさまとヴォイドさまとプライムは戻ってしまっているけれど、四大陸の女神さまは揃うことになる。盛り上がりそうだなあと私が目を細めていると、アリアさまが胸元に手を置いてごくりと息を呑んだ。


 「あ、あの……ナイさま!!」


 「はい?」


 なんだろう。アリアさまが凄い緊張しているような。いつも朗らかな彼女が珍しい雰囲気に包まれていると私は背を伸ばす。するとアリアさまは意を決したように口を開いた。


 「クレイグさんを私にください!!」


 「ぅえ?」


 アリアさまの言葉に私は目を丸く開く。クレイグは物ではないから、彼が良いのであればアリアさまの下へ行っても構わないのではなかろうか。優秀な人材を手放すのは惜しいけれど……私が引き留められることではない。

 私がきょとんとしていればアリアさまは途端に顔を真っ赤に染めて『あ、いえ! その! 言葉の綾というか……』とごにょごにょと言い訳を始めた。

 どうやらアリアさまはクレイグのことを好いているけれど、筆頭聖女という立場が邪魔をしていると感じているようである。クレイグもアリアさまが筆頭聖女の地位に就いていることで、言い出せないことがあるとか。私はなるほどなあと呟いて、ある方を頭の中に思い描く。


 「国王陛下に問い合わせてみましょう。どうにか差配してくださるかもしれません」


 「あ、ありがとうございます」


 私にアリアさまが深々と頭を下げた。いや、筆頭聖女さまが私にそんな頭を下げずともと考えつつ、手紙の内容はどうしようかと悩む。とはいえめでたいことだから深く考える必要もないだろう。教会にも相談した方が良さそうだと決めて、アリアさまと共に私は壁際から離れクロたちの下へと向かう。そこならアリアさまに声を掛けようとする変な輩は現れないだろうと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔力量歴代最強な転生聖女さま コミカライズ第1巻

魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです 1~王子さまに悪役令嬢とヒロインっぽい子たちがいるけれど、 ここは乙女ゲー世界ですか?~
コミカライズ第1巻
2026.09.17発売!


画像クリックで公式ページへ

魔力量歴代最強な転生聖女さま

魔力量歴代最強な転生聖女さま
コミカライズ版
2026.04.10~各電子書籍サイト 第一話~第五話
配信開始!


▼コミックシーモア(一話分先行)作品ページ▼
▼ニコニコ漫画はこちら▼
▼集英社公式ページはこちら▼


画像クリックで集英社公式ページへ移動します

▼電子書籍

【Amazon Kindle】

▼紙書籍 購入はこちら

【Amazon】
【honto】
【楽天ブックス】
【紀伊国屋書店】
【7net】
【e-hon】

▼店舗特典

【書泉・芳林堂書店限定SSペーパー】
【書泉限定 有償特典アクリルコースター】

― 新着の感想 ―
苦労人クレイグ君たら 陛下と猊下の胃薬の心配やら色々差配も 「筆頭聖女様が壁の石(チガ!)花に」って 慌てて征けば ロザリンデ様とカルヴィン枢機卿にいちゃこら(▼∀▼)して貰う為 アリア様は一人でいる…
2026/08/17 07:59 あかマント
更新お疲れ様です。 流石アストライアー侯爵家でナイちゃんに意見できる常識人枠のクレイグ。国王陛下と教皇猊下の心情を、きちんと見抜いた様子w( ̄▽ ̄) 今回はナイちゃんの幼馴染み件貴族家の者としての招…
アリアちゃんの天真爛漫で磊落な人となりは常々好ましいと感じるんですけど、今回のは極め付けww……いきなり男を寄こせと宣う筆頭聖女さまは痛快じゃあ(´∀`♪ 今出来上がってるカップルはどれも好ましいも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。