1543:集まっている。
なんだか屋敷に凄い人たちが集まっている。
と言っても、グイーさまとテラさまとヴァルトルーデさまとジルケさまのため、いつもと変わらない面子とも言えなくもない。グイーさまの声が聞こえた数秒後、執務室の床にまた幾何学模様が浮かび、巨躯のシルエットが浮かび上がった。
「我、降臨!」
その言葉とともにグイーさまがご機嫌そうに現れ、一緒にナターリエさまとエーリカさまもこちらへきて下さっている。気配を感じなかったものの、神さまの島で何かしらのやり取りがあったのだろう。
ナターリエさまとエーリカさまに私が会釈すると、二柱さまが片手を振って挨拶をくれる。グイーさまはテラさまを真っ先に見つけ、いそいそと側に寄っていく。相変わらず仲が良いなあと感心していると、ヴァルトルーデさまとジルケさまが微妙な視線をグイーさまへと向けている。
「また同じ」
「飽きられるぞ、親父殿」
どうやらグイーさまの登場の仕方に不満があるようだ。たしかにマンネリ化していると言わんでもないが、グイーさまらしいとのではなかろうか。娘さん二柱の言葉にグイーさまは『えー』と眉を八の字にして、どうしたものかと考えている。それを見かねたのかテラさまが肩を竦めた。
「あははーグイーらしくて良いじゃない~」
「誰だよ。このおっさん……尻、痛てぇ」
カラカラ笑うテラさまにどこぞの星の創星神さまが床にお尻を付けたまま愚痴を零した。グイーさまはようやくどこぞの星の創星神さまに気付き視線を下へと向ける。うん? と言いたげな顔をしてグイーさまはどこぞの創星神さまをまじまじと見つめていた。
「なんだ、このちんまいのは」
たしかにどこぞの創星神さまは小柄である――背格好は五歳児くらい――が、一応、長く生きているようだから見た目に騙されてはいけないのではなかろうか。
お茶を用意してくれている侍女の方は部屋に七柱さまがそろい踏みしていることに肝を冷やしているようで、ティーカップを持つ手がプルプルと震えている。私は彼女に『用意が終われば退室するか、部屋の隅に控えてください』と伝えておく。家宰さまが『私も退室しても良いでしょうか……』という表情で私を見つめるものの、経過を見守って頂きたいので『却下』と視線で伝えておく。
そうして『ちんまい』というグイーさまの声にいの一番に反応したのは、言わずもがな末神さまである。
「親父殿、小せぇって言葉は余計じゃねえか? 他の星の創星神らしいから見た目で判断しねえ方が」
良いんじゃねーの、という言葉をジルケさまは口にしないままで、グイーさまを見ていた。グイーさまは身体を起こして首を小さく横に傾げて目を細める。
「南の娘は細かいのう」
「あたしが細かいんじゃなくて、親父殿が大雑把過ぎんだよ!」
ジルケさまが逆毛を立てると、ナターリエさまとエーリカさまが『はいはい』『猫ちゃんはわたくしたちの間で大人しくしていましょうね』と告げ、ジルケさまの背を押しグイーさまの後ろへと下がる。ヴァルトルーデさまも無言で三柱さまの下へと下がっていた。テラさまは執務室にある応接用の椅子へ腰を下ろし、グイーさまはどこぞの創星神さまの首根っこを掴んでテラさまの横に腰掛ける。
「なんであたしがこの位置に……」
どこぞの創星神さまはテラさまとグイーさまの間に挟まれた。そうしてテラさまは私を手招きして当主用の席に腰を下ろせと指で指す。私が当主用の席に腰を下ろすということは、テラさまとグイーさまとどこぞの創星神さまが下座になるのだが。まあ、ご本神さまたちが気にしていないのであれば、私が口を出すことではないのだろうと静かに椅子へ腰を下ろす。
どこぞの創星神さまはテラさまの明るい声に腕を組んで、ぷいと視線を横に逸らすものの、グイーさまが視界に入り気まずくなったのか前を向いた。
すると私と視線が合ったどこぞの創星神さまは『なんだ、このチビ』と言いたげな顔になっている。いや、どこぞの創星神さまの方がチビですが……という言葉を私は必死になって喉から出てこないようにと抑えていれば、腰元のヘルメスさんが『ああ! 魔力! ご当主さまの魔力がぁ!』と喜んでいるのか、嘆いているのか分からない声を上げていた。テラさまはどこぞの創星神さまの態度を見ながら笑みを深めて口を開く。
「まあ、良いじゃない。細かいことは気にしない~そもそも勝手に私の星に居着いていたんだし、説明してくれるわよね?」
「うぉ……怖ぇ」
テラさまが最後に放った『ね』に威圧感が凄くあり、どこぞの創星神さまはぎょっと顔を引き攣らせている。グイーさまは面白そうにどこぞの創星神さまを覗き込む。
「テラを怒らせると誰にも手がつけられんぞい」
にやにやしているグイーさまにどこぞの創星神さまが『お前、誰だよ……』と眉根を潜ませていた。まるでそれは猫が虚勢を張っているような姿だと私は目を細める。
グイーさまとテラさまが座す椅子の後ろに控えている四柱さまは『状況説明』『お母さまは愉快な方ですねえ』『お父さまは呑気ですわねえ』『ナイが話に入れてねえだろ……入れてやれよ』とセルフ突っ込みをしていた。
たしかに今の状況では司会進行役が必要だろう。こんなことになるならばエーリヒさまを呼んでおけば良かったか。私より彼ならばきっと上手く司会進行役を務めてくれるし、必要な情報を引き出してくれる。私が担うとなにかが抜けているため、ソフィーアさまとセレスティアさまたちが奔走することになりかねないのだから。とはいえ、誰も話を進められない状況であるなら私がやるしかない。私は鼻から息を吸って、口から深く息を吐いた。
「テラさま。申し訳ありませんが、今の状況をご説明をよろしくお願いします」
断片的に話を拾い上げれば、辻褄合わせくらいはできる。できるけれど間違った情報や間違った解釈が入ると大事になるかもしれない。だから、テラさまからきちんと経緯を聞いておきたいと私は声を上げた。
「ふへ? あ、ああ、そうね」
テラさまがどこぞの創星神さまに向けていた悪い顔が解かれて、私をきょとんと見つめながら短く言葉を放つ。
「ナイに説明するためにこっちにきたんだった……」
メンゴ、と軽い調子でテラさまが謝ってくれ、私は約束していた物を差し出さなければとテラさまと視線を合わせる。
「はい。話が終わればお約束のものを用意いたします」
「ホント!? OK~超やる気がでたわ!!」
そう告げたテラさまは逃がさないと言わんばかりに、どこぞの創星神さまの肩に腕を回した。ちなみにどこぞの創星神さまの見た目は女の子の姿のためか、グイーさまはテラさまの行動を特に気にする様子はない。
「お約束のもの?」
テラさまの行動よりも私たちが交わした約束の方がグイーさまには気になるようで。首を傾げるグイーさまは『それ如何に?』と言いたげである。
「うん。ちょっとナイと取引してて」
「いいのう。儂もなにか欲しいぞ、ナイ!」
グイーさまがテラさまから視線を外して、ぐるりと顔をこちらへと向けた。どこぞの創星神さまはテラさまの腕を払いのけようとしているのだが、力が敵わずびくりとも動いていない。とりあえず私はテラさまの要望したものと、比較的同じようなものを頭の中に浮かべる。そうして私の頭の中で導き出された答えが口に出る。
「……お酒で良いですか?」
「このちんまいのが悪戯していたなら、先達として導いてやらねばな!!」
がははとご機嫌に笑うグイーさまにテラさまが『現金ねえ』と肩を竦め、ヴァルトルーデさまが『父さん、飲み過ぎ良くない』と零し、ナターリエさまとエーリカさまは『ナイはお父さまが喜ぶことを把握しておりますわね』『あまり感心いたしませんが、ナイなら仕方ないのでしょうか』と溜息を吐く。
ジルケさまは『安易に引き受けすぎじゃねえのか?』と首を傾げていた。どこぞの創星神さまは二柱の創星神さまに睨まれたと小さい身体を更に小さくしている。大丈夫かなこの混沌とした状況と私が心配していると、全員分のお茶が用意されてそそくさと侍女の方が執務室から出て行った。
「で。貴女はだあれ?」
テラさまがどこぞの創星神さまに問いかける。あれ、そんな基本的なことから問いかけになるのと私は顔が引き攣りそうになった。
「誰でも良いだろ。それより元の場所に返せよ……――あたし、ゲームやってた途中なんだけど!」
良いところだったんだぞ、と言いたげにどこぞの創星神さまがぷんすかしている。ぷんすかしているものの、怖さや圧をあまり感じない。どこぞの創星神さまの声にテラさまとグイーさまが『んー?』『答えんとなあ』と圧を掛けている。
「ぐっ! ……――あたしはちょっと前に創造主から生み出されたんだ。名前はなんでも良いだろってか、名前なんざ貰ってねーんだ。名乗れるはずがねえんだよ!」
ふしゃーと威嚇せんばかりにどこぞの創星神さまが吠える。なんだか怒った時のジルケさまをみているようだ。あまり貫禄はないけれど。
どこぞの創星神さまに名前がないということが発覚して、何故か四柱さまとアストライアー侯爵家の面々の視線が私に刺さっていた。ちょっと待って。流石に創星神さまの名前を私が考えるなんてあり得ない。ないったらないしーと心の中で否定していると、テラさまとグイーさまが首を傾げる。
「ありゃ? てことはやっぱり新参者なのね」
「しかし話を聞いていた限り、お前さんの星は随分と進化しとるぞ?」
「そりゃそうだろ。面倒だからあたしの力を使って、ある程度、星の文明を発展させてやったんだ」
そうしたら文明が進み過ぎて面白味のない世界になっちまった……とぷいっとどこぞの創星神さまが視線を逸らす。だからちょっと弄って、日本のソシャゲの要素を流し込むと、現実と二次元は噛み合わない状況に陥ったとどこぞの創星神さまが肩を落とす。
グイーさまから以前聞いた話によると、創星神さまたちは創造神さまから預かった力を使って星を生み出し、その行く末を見守る役目を負うそうだ。だから知的生命体が生まれた時点で、何千、何万、何億もの時間が掛かっているなーと我が星の創星神さまはガハハと笑っていたのだが。グイーさまとテラさまより若いということを考慮すると、随分と力を行使した創星神さまである。もしかして、コスパとかタイパとか重視する方なのだろうか。
なんだか私が転生する前の日本の若者のようだ。
そしてどこぞの創星神さまが力を行使したお陰で、目の前の神さまが管理している星からグイーさまの星へと影響を与えていることはどう感じているのだろう。
「あ? 知らねーよ、そんなこと! 大体、あたしら創星神は星を生み出して、星の運命を見守ることが使命なんだ。星で生きている連中が外の星へ出ようが知ったこっちゃねーよ!」
たしかに進化の果てに宇宙を航行できる力を手に入れたのであれば、創星神さまは口出ししないだろう。それに文化や文明が進めば宗教の力が弱くなる可能性がある。グイーさまが全世界に声を届け信じた人がたくさんいた星より、どこぞの創星神さまの星だと全域に声を届けても信じてくれそうにない。
「…………」
「……お前さん、随分と勝手を言いおるなあ」
にこおと笑うテラさまとふふふと笑うグイーさまの雰囲気が怖いなあと私は状況を見守るしかないのだった。どうなるんだろう。




