1540:野蛮だなあ。
自由連合国の代表さまはウーノさまとアリーさまと少しではあるものの会話を交わしたことで、ほっとした表情をしていた。紹介した私としても得るものがあったのであれば良いと目を細める。
フィーネさまはしたり顔でお三方のやり取りをみていた。グイーさまの星だと女性が権力者として立ち回ることが珍しいから、仲間が増えて嬉しいようである。面白い組み合わせだよなあと私は小さく笑いながら、またアルバトロス城の大会議室へと入り腰を席に腰を下ろす。
アルバトロス王国の陛下がいるのだから私が参加しなくとも良いのではと考えてしまうものの、今回はいろいろと立ち回った――巻き込まれただけかもしれないが――結果を述べる場となっているので仕方ない。南大陸の勝ち馬に乗りたい陛下や野心の大きい方は私に忌々しそうな視線を向けている。ただ私に関わると亜人連合国の方とアガレス帝国のウーノさまとヤーバン王国と南大陸のA国の陛下やC国の陛下に関わりのある国の方々が圧を発するため、忌々しい視線を向けている方たちは自重しているようである。
この会議の一番大きな議題の時に彼らは野心を我慢できるだろうかと、私はゆっくりと目を閉じた。すると『全員お集まりになりました』というアルバトロス王国の宰相閣下の声が聞こえて、私は閉じていた目を開いて前を見据えた。
お誕生日席にはアルバトロス王国の国王陛下が鎮座している。後ろにはボルドー男爵さまが良い顔をして控えていた。
陛下の横には進行役の宰相閣下に後ろには外務卿さま、そしてエーリヒさまとユルゲンさまも静かに佇んでいる。副団長さまも警備に駆り出されたようで、涼しい顔をして会議場の隅っこに立っていた。それでは会議を始めましょうと告げた宰相閣下は双子星の前に現れた大量の黒い物体についての説明を始める。
一応、各国には先に簡易報告がされ、今回が正式報告という形となっていた。各国の皆さまは真剣に宰相閣下の話に耳を傾けており、Aさまがアルバトロス王国王都に小型艇で降り立った――墜落ともいう――ことや、彼を追いかけて婚約者さまが双子星の前に大艦隊を寄越したことを眉根を潜めながら聞いている。
双子星の前に増えた黒い物体は『宇宙船』を知らない方たちからすると恐怖でしかなかっただろう。私は前世でエンタメに触れているため、星外生物がいる可能性や宇宙船があるやもと落ち着いていられたけれど。
クレイグとサフィールに怖いかと問うてみれば『正体が分からないからな』『不吉なことが起こる予兆みたいだよ』と苦笑いになっていた。彼らは私から経緯を聞き、理由が分かっているので笑って済ませてくれていたけれど。屋敷の中では本気で『この世の終わりだ!』と頭を抱えている方もいたのだ。他の人たちも恐怖で怯えていたに違いない。
そう考えると少し申し訳ないことをしてしまったのだろうか。
グイーさまを頼って、双子星の前の黒い物体について説明することもできたのだから。神さま方の力を頼っても申し訳ないとグイーさまには相談しなかった。いや、まあテラさまからソシャゲのキャラクターだと聞いたのだから、神さまに頼るべきではないとは言い切れないけれど……。
アルバトロス王国の陛下方は『またげーむとやらか……』と悩んでいたのは言うまでもない。そんなことがあったなと私が頭の中で振り返っていれば、宰相閣下の報告が止まる。一連の報告を聞いた会議に参加している陛下方は悩まし気な表情を浮かべている。そうしてとある国の陛下が片手を軽く上げた。アルバトロス王国の陛下がゆっくりと頷けば、彼もまた縦に首を振り口を開く。
「アルバトロス王よ、何度か貴国の王都に小型艇が落ちたと民の間で噂になっているのだが……耳聡い吟遊詩人たちはアルバトロス王都に興味を惹く話があると集っているそうだ」
吟遊詩人の方たちも飯のタネを稼ぐことに躍起になっているようだ。しばらく双子星の物体Xについては話題が持ち切りだろうから、稼ぎ時と判断しているようである。
各国の人々も双子星の物体Xについて知りたいだろうから、需要と供給が合致しているというか。とはいえ双子星の物体Xがこれからなにかしてくることはない。Aさまの婚約者の方から三度目の逃走はないと確約して頂いているのだから。
「吟遊詩人は好きにさせればよい。アストライアー侯爵のお陰で大部分はカタが付いている。噂も広まり切り時間が経てば、皆、落ち着くだろう」
私のお陰というか……私が超広域障壁を試し撃ちしたためにAさまが『あそこに実力者がいる!』と判断して逃げてきてしまっただけである。本当に巻き込まれただけなので私のお陰とは言い難い。
単にAさまがおっちょこちょいで、Aさまの婚約者の方が理性的であったから問題なく話が終わっただけである。これで勝ち馬に乗りたい陛下のような野心家が婚約者の方であったならば、結果は違っていただろう。侵略戦争に発展していただろうし、私たち側は蹂躙されて終わっていたはずである。そりゃ、嫌だから抵抗するけれど……婚約者の方曰く『戦艦の主砲は星にクレーターを作ることができる』と教えてくれていた。そんな艦が何百艇も本星に配備されているとか。喧嘩したって勝ち目はないし、本当に逃げてきた方がAさまで、追手きた方が婚約者の方で良かった。
「だが、もう二度とこないという保証はないだろう?」
「それはそうだ。今回、双子星の前に現れた者とは違う者が現れる可能性ある」
他の国の陛下とアルバトロス王国の陛下の声に会議場がざわつき始めた。これで終わったかと思いきや、また別の存在が星へと訪れる可能性をアルバトロス王国の陛下は口にしたのだから。
一応、Aさまの国の王家は『他の星系に迷惑を掛けるな』と声明を出してくれたのだが、一枚岩ではないため興味本位で訪れる者がいるかもしれないと婚約者の方が困り顔で教えてくれた。戦乱期を抜けて平和を享受しているため戦乱期に平定された以外の星を落とすことはないけれど、興味のある者の星間移動は咎められないそうである。
――もしかすると貴方たちを見下すためにわざわざ訪れる者がいるかもしれない。
婚約者の方の言葉を聞いた私たちは『ですよねー』となった。でも、他星を落とすことは重罪になると知れて良かった。婚約者の方と繋がりができたし、王家とも連絡が取れる状態となっている。
何故か連絡先はアストライアー侯爵家なのだが、先陣を切って婚約者の方と相対したのが私だから諦めるしかないのだろう。アルバトロス王国上層部にも連絡用の機器を渡して欲しいとお願いしても、会ったことのない方においそれと渡せない代物だとなったのだ。
「なんと。民たちがまた不安に陥るではないか!」
「恐怖で外に出られなくなった者もいる。経済活動が滞るのは頂けない」
「アストライアー侯爵は何故、星外の者に『くるな』と確約を取り付けなかったのだ?」
各国の陛下たちが声を上げる。私と親しい方たちはどこからともなく上がった最後の声に口の端を引き攣らせていた。たしかにまた艦隊が双子星の前に現れれば、民の皆さまに不安を与えてしまう。
できるなら約束を取り付けたかったけれど、婚約者の方に無理だと言われてしまえば強く望むことはできなかったのだ。お付きで護衛の方たちも『申し訳ない』みたいな顔になっていたし。中にはチョウチンをしょんぼりさせていた方までいたのだ。
このまま言われっぱなしではアストライアー侯爵家の面子が潰されてしまうと、私はアルバトロスの陛下に向かって軽く片手を上げた。するとアルバトロスの陛下はゆっくりと縦に頷いてくれる。
「我々が双子星の近くまで行けるなら別でしょうが、行けない時点で無理なことでございます」
制空権ならぬ制宙権を私たちは持っていないのだから、双子星の近くまでくるななどと言えないだろう。私が更に『今、声を上げた国の方々は今回の件をご自身で対処できたのでしょうか?』と付け加える。すると苦虫を嚙み潰したような顔になった陛下方が押し黙る。すると会議場の扉が開いて、とある方がそこに立っている。そうしてアルバトロスの陛下が扉の所で立っている方に『こちらへ』と声を上げた。
『失礼だが、アストライアー侯爵を責めないで頂けまいか?』
Aさまの婚約者がアルバトロスの陛下の隣に並んでそう口にした。突然、彼女が登場したことにより大会議場には緊張した空気が張り詰める。見た目は人間そのものだけれど、やはり額の真ん中から生えているチョウチンに皆さま目が囚われており、グイーさまの星の生き物ではないと理解しているようだ。
逆に婚約者の方は凄く落ち着いてアルバトロスの陛下の横に立っている。護衛の方もピリッとした空気を醸し出しているものの、敵地みたいなものだから当然の態度だろう。
「な!?」
「お、おい!」
各国の陛下方は星外の方がいるとは思いもよらなかったようである。一部、面白そうな顔をして婚約者の方を見ている猛者もいるけれど。
『我々が訪れた経緯は、先程説明された通りです。この星の皆さまに置かれましては、至極迷惑をお掛けしたこと殿下の代わりにお詫び申し上げます』
そう告げた婚約者の方が頭を下げる。彼女がアルバトロス王国にいるのは、こうして各国の代表者に謝罪を告げるためであった。Aさまが二度目の墜落を果たし、彼女が追いかけてきた際に『逃走を許してしまい申し訳ない』と謝ってくれていた。
可能であるなら各国の方にも謝りたいと彼女に乞われたのだ。そうして私はアルバトロスの陛下に相談をし、今回の大陸会議で謝罪の場を設けようとなったのだ。彼女が謝罪に訪れると知れば、ワザと参加を見送る国もあるだろうと告知はしていない。だからこそ各国の陛下方は驚いているし、愉快そうな顔をしているのである。
『私はもちろん、王家も統治している星以外に迷惑を掛けるつもりはありませんが……無法者や興味を持つ者は必ず出てくるでしょう。そのため確約はできかねるのです』
「ならば、どうする? そして我々はどう動くべきだ? 貴殿の国の者が我々に対して狼藉を働けば殺してしまっても良いか?」
落ち着いた声色で告げる婚約者さまにヤーバン王国の陛下であるアリーさまが言葉を投げた。たしかに興味本位や制圧を目的に婚約者の方の星の方たちが襲来したとして……私たち側が怪我や負わせたり命を奪ったことに対してどう出るのだろう。
『今、私が立っている星の定めの下で裁かれるべきでしょうね。ちなみに本星へ戻れば『星外生物保護条例』や『管理星外侵入罪』で裁かれることになるでしょう』
それ、Aさまと婚約者の方にも適用されないかと思いきや、王族特権とお金持ち特権で揉み消すそうだ。仮に罪に問われても、私たちと接触して話し合いをしているため精々罰金刑で済むらしい。なんだか都合の良いようなと私が片眉を上げていれば、アリーさまがくっと口角を上げた。
「その話を聞けて良かったよ。地上に降り立った者に手を出して、双子星の前に浮かんだ船とやらが襲い掛かってくるのかと気を揉んでいたからな! 生身であれば対応できよう!」
『襲い掛かられた場合、飛び道具で対処できるので……その……』
アリーさまの豪快な態度に婚約者の方が我々は銃を持っているから、飛び込んでこない方が良いと告げる。アリーさまは軽い口調で、ならば多勢で襲い掛かるさと返すのだった。やっぱりヤーバン王国は野蛮だなあと。




