1518:友好広がる、たぶん。
ウーノさまとヤーバン王もといアリーさま――慣れない――と朝食を摂り、王都のタウンハウスで過ごしていればお昼が過ぎている。お昼ご飯はジークとリンと一緒に食べることができたし、副料理長さまが指揮して用意して貰った昼食は美味しかった。料理長さまはお野菜もお肉もバランス良く採れるようにとメニューを考えてくれているようだが、副料理長さまは肉料理が多めだった。やはり作り手によって特徴が出るようで楽しく食すことができた。
「王太子妃さまの母国のお肉、美味しかった」
私はタウンハウスの廊下を歩きながら、後ろを歩くジークとリンを見上げる。更に後ろには毛玉ちゃんたち三頭がちょこちょこと後ろを着いてきていた。
「だな」
「うん」
そっくり兄妹の声が聞こえると、毛玉ちゃんたちが『じゅるい!』『あたちたちも!』『ちゃべる!』と各々口にする。まあ、お肉の匂いがしただろうし、鼻の良い毛玉ちゃんたちだ。
あとで手作りジャーキー食べようねと私が伝えれば、尻尾が縦にピンと立ち目をキラキラさせながらまた歩を進めている。今度はちゃんとマグデレーベン王国産のお肉を使ったジャーキーを作ろうと決め、私たち三人は玄関ホールを目指す。
途中でソフィーアさまとセレスティアさまとヴァルトルーデさまとジルケさまも列に加わった。側仕えであるソフィーアさまとセレスティアさまが仕事先に一緒に向かってくれるのは理解できる。しかしヴァルトルーデさまとジルケさまは当たり前のように私の後ろに加わるのは如何なものだろうか。私が首を捻っていると、二柱さまの声が届く。
「ナイと一緒にいると面白い」
「飽きねえよなあ。まあ、今日は南大陸の連中がくるみたいだし、あたしはあいつらがどんな態度を取るのか興味ある」
ヴァルトルーデさまとジルケさまが口にした言葉は私の心を読んだ上での発言のようだ。どうして心を読むかなあと片眉を上げていれば、ソフィーアさまとセレスティアさまが『ナイは分かりやすいぞ』『身内だけであれば顕著でございますわ』とこれまた心の内を読まれた言葉を紡いでいる。
ご令嬢さま二人に二柱さまがうんうんと頷き、ジークとリンはなにも言わないけれど小さく笑っている。身内だけだと表情筋が緩くなっているとは本当に意外というか。顔に感情を出しているつもりはないのだが、少し気を付けた方が良さそうだ。
「無駄な努力」
「だな」
くつくつ笑う二柱さまに、私は勢いよく後ろへ顔を向ける。
「酷いですよ!」
私が放った言葉をヴァルトルーデさまとジルケさまは全く気にしておらず、他の面々は苦笑いを浮かべていた。毛玉ちゃんたちは意味が分からないようだし、クロは私を『まあまあ』と宥める。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんがいなくて少し変な感じだけれど、彼らはヤーバン王、いけない、アリーさまの下にいるのでなにかあれば直ぐに知らせが入る状態だ。
午後からの予定はミズガルズ神聖大帝国と共和国と南大陸の国々のお偉いさん方との会議となる。私はアルバトロスの陛下から参加するようにと伝えられているため、アルバトロス城に向かう準備を終えて玄関ホールへと足を運んだ時だった。私たちとは別の方向からやってきたウーノさまとアリーさまがこちらへと足を進めた。そうしてお二人が私を見て口を開いた。
「ナイさま。アルバトロス王にはご許可を頂けたのですが、ご一緒に城へ向かっても宜しいでしょうか?」
「私もアルバトロス王に許可を貰った。ナイと一緒に向かい会議に参加する!」
どうやらお二人は会議に参加する権利をアルバトロスの陛下からもぎ取ったようである。陛下の許可が出ているのなら私はお二人を拒否できないだろう。それに断ればウーノさまは眉尻を下げそうだし、ヤーバン王は余計に面白がりそうだ。
「承知しました。ではアルバトロス城へ向かいましょう」
私が玄関の先を見れば、お二人もそちらへと視線を向けた。随分と大所帯になるけれど貴族街から王城への移動のため騒ぎにはならないはず。そうして馬車回りに移動して、私が乗る車にはウーノさまとアリーさまとヴァルトルーデさまとジルケさまが乗り込んだ。
ソフィーアさまとセレスティアさまは別の馬車に乗り、ジークとリンは警護に就いてくれる。ヴァナルと雪さんたちは『もしも』とためにアリーさまの影の中へと潜り込んだ。なんだか凄い面子だなと私が前を向けば、ウーノさまがにっこりと笑い、アリーさまが腕を組みにやりと笑う。
「まさかアストライアー侯爵家の馬車に乗ることになるなんて。嬉しいですわ、ナイさま」
ウーノさまが照れ照れしながら、二柱さまの方へと視線を向けていた。私は苦笑いを浮かべながら、目の前のお二人へ視線を向ける。
「陛下方が乗られると知っていれば、転移魔術陣の使用許可を得ておいたのですが……少し狭いですがご容赦ください」
「ははは、なにを言う! 女神さま方とご一緒できているのだ、この上ない光栄なこと!」
私が申し訳ないと謝れば、今度はアリーさまがカラカラと笑いながら組んでいた腕を解いて膝の上に置こうとしたけれど大きなお腹が邪魔をしていた。アリーさまは仕方ないなという表情になって、右手で出っ張った腹を撫でている。
「ウーノとアレクサンドラじゃなきゃ、乗っていなかった」
「他の連中ならあたしたちを過剰に敬うからなあ、姉御」
女神さまと露見すると、謙った態度を取る人がほとんどだ。それは王さまも例外ではない。あまりにも近くにいすぎて私は二柱さまに対して本当に普通に接している。二柱さまが過剰な待遇を望んでいないということもあるけれど。
ヴァルトルーデさまはジルケさまにうんうんと頷き、ウーノさまは恐縮そうに、アリーさまは小さく頭を下げている。上手くいけばそのうち、ヴァルトルーデさまは一人でアガレス帝国とヤーバン王国に向かえるようになるだろうか。
いつまでもアストライアー侯爵家で過ごすわけではないだろうし、そんな未来があるかもしれないと馬車の窓から外を見てみる。静かな貴族街であるが時々、各家の従業員の方が歩いている。馬車が通れば一旦立ち止まり、家の紋章を確認するのが彼らの職業上の癖だ。アストライアー侯爵家の家紋を見るなり、目を引ん剝いて驚いている。
「……大袈裟だなあ」
私がふうと溜息を吐けば、ウーノさまとアリーさまが片眉を上げながら笑っていた。
「アストライアー侯爵家の車列ですもの」
「驚かせておけば良いだろう。女神さまがご乗車されていると知った時の彼らの顔が見ものだな!」
ふふと笑うウーノさまにはははと笑うアリーさま。対称的なお二人であるが、ひょんなことで気が合いそうである。そんなことを話していれば、アルバトロス城に辿り着いていた。正門を抜けて馬車回りで降りれば、迎えの近衛騎士の方が礼を執る。そうして近衛騎士の方が私に話したいことがあると耳打ちをしてきた。内容を聞いた私は問題ないと彼に伝え、ウーノさまとアリーさまを見やる。
「案内役の担い手が不足していることで、ウーノさまとアリーさまの案内は私が行うことになりました。申し訳ありませんが、会場までご一緒願います」
アルバトロス城は昨日に引き続き上を下への大騒ぎ状態で、近衛騎士の方たちの数が足りないそうである。護衛の近衛騎士の方を残して、私にお二人の案内を頼みたいということだった。私はウーノさまとアリーさまであれば構わないと依頼を引き受けたわけである。それに今の大騒ぎは私がいろいろやらかしてきたからこそ、だろうし……と目を細める。
「知らぬ方より、ナイさまの方が良いです。よろしくお願い致します」
「だな。ナイとであれば、世間話をしながら移動できる!」
ウーノさまとアリーさまは笑って、私が案内役を務めることを認めてくれた。では、行きましょうかと私が告げると、皆さまが後ろを歩き始める。あれ、王さま二人を引き連れて歩くって、なんだか凄いことではないだろうか。
しかもウーノさまとアリーさまの機嫌は良さそうだ。お二人が会議に参加する理由はミズガルズ神聖大帝国と南大陸の国と仲良くできそうな人物がいないか、見定めるそうである。アガレス帝国はまだしも、少し前まで引き籠もっていたヤーバン王国は凄く前向きだ。アリーさまが玉座を得たからだろうけれど、急速な国の変化についていけると良いのだが。
会議場へと辿り着く直前、ミズガルズ神聖大帝国の一行と廊下で出くわした。流石、帝国と名乗ることだけはあって、護衛の方の数が一段と多い。向こうも私に気付いて、足を止めてお互いに目線を下げた。
「アストライアー侯爵閣下。お久しぶりです」
「お久しぶりですわ、閣下」
朗らかに笑う、ミズガルズ神聖大帝国の皇太子殿下とベルナルディダ第一皇女殿下が口を開いた。私はお久しぶりですと頭を下げれば、公式な場ではないし大袈裟に頭を下げないで欲しいと請われてしまう。私は他国の方に無礼があってはいけないし、他の方も見ているからと告げ、皇帝陛下はどうされたのですかと問うた。
「父に長距離の移動は耐えられないから、私が赴くことになりました」
「わたくしは勉強のためにと兄と同行させて頂きました」
私がなるほどと頷けば、皇太子殿下とベルナルディダさまとウーノさまとアリーさまの視線が合った。このままではいけないなと、私は皇太子殿下とベルナルディダさまにウーノさまとアリーさまを紹介する。
「アガレス皇帝陛下とヤーバン王国の国王陛下です」
私がウーノさまとアリーさまを紹介すると、お二人は半歩前に出た。アガレス帝国の皇帝の座に就いていることをウーノさまが告げ、アリーさまがヤーバン王国の玉座に座していることを告げる。すると皇太子殿下とベルナルディダさまが礼を執り名乗りを上げる。お互いに縁があれば仲良くしようと握手を交わしているので、初対面としては上出来だろうか。
ミズガルズは北大陸の覇者だし、アガレスは東大陸の半分を統治している大きな国だ。ヤーバン王国は小さい国であるが、なにか機会があればミズガルズと交易や交流が始まるかもしれない。面白い化学変化が起これば良いなと願いながら、私たち一行はミズガルズの皆さまと共に会議場へと進むのだった。
【お知らせ】3/10~コミックシーモアさまにて『魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです!』のコミカライズ版が配信開始となります! プラス20先生がナイ、ジーク、リンの活躍を素敵に描いてくださっております。書籍版ではキャラ絵がなかった方たちも出てきておりますので、読んでいただければ幸いです。
他の配信サイトさんでも開始予定ですが、今のところ時期未定となっております。他の配信サイトさんをご利用の方は今少しお待ちを!




